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ブラックバイター
ブラックアウト
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月はとうに沈んで見えず、星明かりは街頭にかき消されて一等明るい星だけが生き残る。
そんな夜空を見上げ、彼は自身の吐息が吸い込まれて消えていく様をじっと見送った。
誰も居ない駅のホームに一人、たった今まで乗ってきた始発列車が遠ざかっていく。
正直もう一歩も動きたくない程疲れきっている。
けど、早く帰ってシャワーを浴びて課題のレポートを少しでも進めておかなければ。
今日は一限から授業だし、レポートの提出期限は明日だ。
せめてもの暖を求めて自販機で缶コーヒーを買い、エスカレーターで改札階に下りる。
駅ナカのジューススタンドも、改札を出た先の花屋もまだシャッターは閉まったまま。
南口のロータリーにはタクシーも二台しか居ない。
街のネオンも既に明かりを落とし、ただ街頭の明かりだけの通りを赤信号を無視して横断する。
バス通りから一本入った古いアーケードが続く商店街より更に一本奥の道は、初心者ドライバーなら車同士のすれ違いにヒヤヒヤすることになる狭い住宅街の道を歩き、ようやく目当ての場所へとたどり着く。
バス通りから商店街とこの道を横に繋ぐ車一台通るのがやっとの道。
その交差点に建つ二階建ての古いアパート。
隣には営業する気があるのか甚だ疑問に思う、寂れたスナックらしき店。
「和膳」と店の名だけは書いてあるものの、折角ショーウィンドウはあるのに食品サンプルの一つも飾らず、メニュー等を書いた掲示物も見たことがない。
ただ、暖簾だけはあったりなかったりするので、確かに営業はしているらしい。
まあ、二十歳は越えたが酒を飲むのならスナックよりファミレスでちょい飲みを楽しむ方が良い。
まぁ、そんな余裕なんかどこにもないのだが。
重い足を何とか持ち上げ階段を登り、部屋の鍵を開ける。
ワンルームの部屋で「ただいま」等と呟いても当然それに応えて「おかえり」なんて言ってくれる相手は居ない。
コートをベッドに放り投げ、ぽいぽい来ていた服をベランダの洗濯機に放り込み、即座にトイレ洗面付のバスルームへ駆け込む。
頭からシャワーを浴び、襲い来る眠気を振り払う。
髪を洗い体を洗うと、シャンプーやボディソープが荒れた手に染みて痛い。
シャワーを済ませても温もり切らず震える体を拭き、雑に畳んだ服を着る。
夜食か朝食か分からないインスタントラーメンを食べながらパソコンが起動するのを待つ。
やがて空が白み始める頃、ようやくベッドに入り、目覚ましを一時間後にセットして眠りについた。
目覚まし時計にスマホのアラームを併用し、何とか目を覚まして身だしなみを整え、部屋を出る。
いつものように階段を下りたところで不意に世界がぐるりと回り。
世界は闇に閉ざされた。
そんな夜空を見上げ、彼は自身の吐息が吸い込まれて消えていく様をじっと見送った。
誰も居ない駅のホームに一人、たった今まで乗ってきた始発列車が遠ざかっていく。
正直もう一歩も動きたくない程疲れきっている。
けど、早く帰ってシャワーを浴びて課題のレポートを少しでも進めておかなければ。
今日は一限から授業だし、レポートの提出期限は明日だ。
せめてもの暖を求めて自販機で缶コーヒーを買い、エスカレーターで改札階に下りる。
駅ナカのジューススタンドも、改札を出た先の花屋もまだシャッターは閉まったまま。
南口のロータリーにはタクシーも二台しか居ない。
街のネオンも既に明かりを落とし、ただ街頭の明かりだけの通りを赤信号を無視して横断する。
バス通りから一本入った古いアーケードが続く商店街より更に一本奥の道は、初心者ドライバーなら車同士のすれ違いにヒヤヒヤすることになる狭い住宅街の道を歩き、ようやく目当ての場所へとたどり着く。
バス通りから商店街とこの道を横に繋ぐ車一台通るのがやっとの道。
その交差点に建つ二階建ての古いアパート。
隣には営業する気があるのか甚だ疑問に思う、寂れたスナックらしき店。
「和膳」と店の名だけは書いてあるものの、折角ショーウィンドウはあるのに食品サンプルの一つも飾らず、メニュー等を書いた掲示物も見たことがない。
ただ、暖簾だけはあったりなかったりするので、確かに営業はしているらしい。
まあ、二十歳は越えたが酒を飲むのならスナックよりファミレスでちょい飲みを楽しむ方が良い。
まぁ、そんな余裕なんかどこにもないのだが。
重い足を何とか持ち上げ階段を登り、部屋の鍵を開ける。
ワンルームの部屋で「ただいま」等と呟いても当然それに応えて「おかえり」なんて言ってくれる相手は居ない。
コートをベッドに放り投げ、ぽいぽい来ていた服をベランダの洗濯機に放り込み、即座にトイレ洗面付のバスルームへ駆け込む。
頭からシャワーを浴び、襲い来る眠気を振り払う。
髪を洗い体を洗うと、シャンプーやボディソープが荒れた手に染みて痛い。
シャワーを済ませても温もり切らず震える体を拭き、雑に畳んだ服を着る。
夜食か朝食か分からないインスタントラーメンを食べながらパソコンが起動するのを待つ。
やがて空が白み始める頃、ようやくベッドに入り、目覚ましを一時間後にセットして眠りについた。
目覚まし時計にスマホのアラームを併用し、何とか目を覚まして身だしなみを整え、部屋を出る。
いつものように階段を下りたところで不意に世界がぐるりと回り。
世界は闇に閉ざされた。
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