132 / 162
第十二章
ヘンタ――賢者登場
しおりを挟む
ゴロゴロと車輪の音が響く。
――暗い。だけど今が夜でないことは分かっている。
四方を囲う木の壁、その板切れと板切れの隙間から日の光が僅かに漏れているから。
ガタゴトとスプリングも無しに舗装どころか凸凹のままの道を行く馬車の中、私は縛られ転がされて……おかげで身体が痛くてしょうがない。
こうなったのには勿論訳があって。
時間を遡る事約一日。
ドワーフの女将さんがやってる宿屋に泊まった、その翌日。
前日に引き続き、街で情報収集をしていたところ。
見覚えのある男に大声を挙げられたのだ。
「おっ、お前……! 何故ここに居る!」
いや、そりゃむしろ私のセリフだって。
「どうせ来るなら最初から素直に来ていればいいものを! そのせいで……無駄な旅を……数々の屈辱を……! おい、その娘を引っ捕らえろ!」
「おい……!」
勿論アルトはすぐに臨戦態勢となったが。
あの街で変態さんとして兵士においでおいでされてた男が、兵士に指示を飛ばした。
「え、賢者様……? いつお帰りで?」
「たった今だ! その女は我らが王が望み手に入れんと動いていた者。故に逃がす事は許さん、勿論命を奪うことも禁ずる。生きたまま捕らえるのだ! かかれ!」
その声と共にわらわら集まってくる兵士達。
流石のアルトも多勢に無勢の上、正規の兵士を下手に斬れば外国人の私達には不利に働くからだろう、手加減している様に見えた。
そして私はこうして拘束され、馬車に転がされ運ばれているという次第だ。
時折トイレ休憩や食事の時間はあるけれど、警護の兵の数はいっこうに減らず、一人で逃げ出すなど無謀としか言いようがない。
しかしあのヒヨコ男。あの変態は賢者とか呼ばれてた。
そして。
あの男もまた私の追手であったのだ、と。
そういうわけで私、今囚われの身なの。
だけど、私には精霊がついている。
逃げようと思えば逃げられなくはないんだよね。
けど確実に死傷者が出る。
賊相手ならもう躊躇はしないんだけどね。
けど、私に王様に届けられるんだよね?
忍び込むんじゃなく正々堂々正面からお城に入れるんだよね?
絶好の情報収集チャンスじゃない?
ふふふ、あのアルトのスパルタ特訓の成果、存分に見せつけてやろうじゃないか、あはははは!
……はぁ。
けど、城に入ってしまえば一人で抜け出すのは難しいだろう。
アルトのお迎えを待つしかないんだけど。
……帰ったあとのお説教がコワイ。
その口を噤ませるためにも、私には情報が必要なのだ。
今、この瞬間も。
――暗い。だけど今が夜でないことは分かっている。
四方を囲う木の壁、その板切れと板切れの隙間から日の光が僅かに漏れているから。
ガタゴトとスプリングも無しに舗装どころか凸凹のままの道を行く馬車の中、私は縛られ転がされて……おかげで身体が痛くてしょうがない。
こうなったのには勿論訳があって。
時間を遡る事約一日。
ドワーフの女将さんがやってる宿屋に泊まった、その翌日。
前日に引き続き、街で情報収集をしていたところ。
見覚えのある男に大声を挙げられたのだ。
「おっ、お前……! 何故ここに居る!」
いや、そりゃむしろ私のセリフだって。
「どうせ来るなら最初から素直に来ていればいいものを! そのせいで……無駄な旅を……数々の屈辱を……! おい、その娘を引っ捕らえろ!」
「おい……!」
勿論アルトはすぐに臨戦態勢となったが。
あの街で変態さんとして兵士においでおいでされてた男が、兵士に指示を飛ばした。
「え、賢者様……? いつお帰りで?」
「たった今だ! その女は我らが王が望み手に入れんと動いていた者。故に逃がす事は許さん、勿論命を奪うことも禁ずる。生きたまま捕らえるのだ! かかれ!」
その声と共にわらわら集まってくる兵士達。
流石のアルトも多勢に無勢の上、正規の兵士を下手に斬れば外国人の私達には不利に働くからだろう、手加減している様に見えた。
そして私はこうして拘束され、馬車に転がされ運ばれているという次第だ。
時折トイレ休憩や食事の時間はあるけれど、警護の兵の数はいっこうに減らず、一人で逃げ出すなど無謀としか言いようがない。
しかしあのヒヨコ男。あの変態は賢者とか呼ばれてた。
そして。
あの男もまた私の追手であったのだ、と。
そういうわけで私、今囚われの身なの。
だけど、私には精霊がついている。
逃げようと思えば逃げられなくはないんだよね。
けど確実に死傷者が出る。
賊相手ならもう躊躇はしないんだけどね。
けど、私に王様に届けられるんだよね?
忍び込むんじゃなく正々堂々正面からお城に入れるんだよね?
絶好の情報収集チャンスじゃない?
ふふふ、あのアルトのスパルタ特訓の成果、存分に見せつけてやろうじゃないか、あはははは!
……はぁ。
けど、城に入ってしまえば一人で抜け出すのは難しいだろう。
アルトのお迎えを待つしかないんだけど。
……帰ったあとのお説教がコワイ。
その口を噤ませるためにも、私には情報が必要なのだ。
今、この瞬間も。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる