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第十二章

ヘンタ――賢者登場

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 ゴロゴロと車輪の音が響く。

 ――暗い。だけど今が夜でないことは分かっている。
 四方を囲う木の壁、その板切れと板切れの隙間から日の光が僅かに漏れているから。

 ガタゴトとスプリングも無しに舗装どころか凸凹のままの道を行く馬車の中、私は縛られ転がされて……おかげで身体が痛くてしょうがない。

 こうなったのには勿論訳があって。

 時間を遡る事約一日。

 ドワーフの女将さんがやってる宿屋に泊まった、その翌日。
 前日に引き続き、街で情報収集をしていたところ。

 見覚えのある男に大声を挙げられたのだ。

 「おっ、お前……! 何故ここに居る!」

 いや、そりゃむしろ私のセリフだって。

 「どうせ来るなら最初から素直に来ていればいいものを! そのせいで……無駄な旅を……数々の屈辱を……! おい、その娘を引っ捕らえろ!」

 「おい……!」
 勿論アルトはすぐに臨戦態勢となったが。

 あの街で変態さんとして兵士においでおいでされてた男が、兵士に指示を飛ばした。

 「え、賢者様……? いつお帰りで?」

 「たった今だ! その女は我らが王が望み手に入れんと動いていた者。故に逃がす事は許さん、勿論命を奪うことも禁ずる。生きたまま捕らえるのだ! かかれ!」

 その声と共にわらわら集まってくる兵士モブ敵達。

 流石のアルトも多勢に無勢の上、正規の兵士を下手に斬れば外国人の私達には不利に働くからだろう、手加減している様に見えた。

 そして私はこうして拘束され、馬車に転がされ運ばれているという次第だ。

 時折トイレ休憩や食事の時間はあるけれど、警護の兵の数はいっこうに減らず、一人で逃げ出すなど無謀としか言いようがない。

 しかしあのヒヨコ男。あの変態は賢者とか呼ばれてた。

 そして。

 あの男もまた私の追手であったのだ、と。

 そういうわけで私、今囚われの身なの。

 だけど、私には精霊がついている。
 逃げようと思えば逃げられなくはないんだよね。

 けど確実に死傷者が出る。

 賊相手ならもう躊躇はしないんだけどね。

 けど、私に王様に届けられるんだよね?

 忍び込むんじゃなく正々堂々正面からお城に入れるんだよね?

 絶好の情報収集チャンスじゃない?

 ふふふ、あのアルトのスパルタ特訓の成果、存分に見せつけてやろうじゃないか、あはははは!

 ……はぁ。

 けど、城に入ってしまえば一人で抜け出すのは難しいだろう。

 アルトのお迎えを待つしかないんだけど。
 ……帰ったあとのお説教がコワイ。

 その口を噤ませるためにも、私には情報が必要なのだ。

 今、この瞬間も。
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