上 下
2 / 162
第一章

ステータスの謎

しおりを挟む
 明らかに不自然にある木の小舟。

 しかし、ここで途方に暮れていても遠くなく餓死……

 「いや、その前に熱中症で死ぬかな?」

 そう。日本の夏のあの酷暑に比べれば幾分かマシではあるが、細っこいヤシの木が作り出す程度の木陰では、強い日差しを防げない。

 ……日焼けはもう仕方の無いものと割り切るにしたって、暑いから汗もかくし、汗をかけば喉も乾く。
 しかし周りには大量の海水はあっても飲み水になる真水は無い。

 他に出来る事もないし、こういう時の定番イカダ造りにしたってヤシの木一本じゃあ……ねぇ。そもそも道具だって持ってない。

 素人の作ったイカダよりは、まだマシかもしれない手漕ぎボートに、取り敢えず乗り込んでみる。

 勿論うっかり沖に流されちゃったりしない様、少しばかり島の砂浜に引き上げてから、ね。

 サイズは二人乗り。だけど私は一人だし、なら私が漕ぐしかないなら舳先に背を向けて座らなきゃ。

 舳先に近い方に座り、オールの柄を手にした――その時。

 ピコン! と電子音の様なアラートが鳴り、続いて「“所有者登録をして下さい”」と、これまた機械の声の様に聞こえるアナウンスが耳に響いた。

 「え?」

 辺りを見回すと、さっき見たときは確かに無かったはずの、まるでカーナビの液晶画面のような画面が舳先に設置されていた。

 まるでここに触れろ、と言わんばかりに画面には右の掌の絵が、背景の画面の色をパッパと入れ替え表示されていた。

 ……恐る恐る、画面に触れてみる。
 
 「“登録完了しました。ホーム画面へ移動します”」

 再び機械の声――音の高さから男性のものっぽいそれが耳に響く。……スピーカーから出る音、ではなくやはり耳に直接響いているらしい。

 そして、現れたのはこの手漕ぎボートの3D画像と、文字列。
 文字列の方は、このボートの仕様書……と言うか、平たく言うとステータス、と呼ぶべき物の様だった。

 ◆手漕ぎボート
 ・木製
 ・耐久 95/100
 ・攻撃 1/1
 ・特殊 無
 ・所有者 潮谷しおや 晴海はるみ

 ……攻撃、って何だろうね?
 手漕ぎボートに攻撃性なんて……、あ、いやこのオールでぶん殴れば素手で殴るよりは攻撃力は増すか。

 そして、気になるのは耐久。……これ、既に5程減ってるのは……? そしてコレが0になったらどうなるの!?

 だけど。ここで何もせず悩むばかりでは結局死が待つだけだ。

 私は一度ボートから降りて、砂浜に上げたボートを再び海に戻し、もう一度ボートに乗り込みオールを手に取る。

 さて、手漕ぎボートなんてまともに乗るのは久しぶりだ。

 「……ボート部に入ってれば良かったのかな」
 そんな事を思いながら、私はオールで水を掻いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...