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光と麻那人

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 光が結界を抜けて裏山を走り、公園に来た!?
 慌てて裏山を覆っていた結界を、麻那人は解く。

「光!? どうして此処に!」
 
「麻那人ーー! ゲホゲホ! ザ、ザボは……!」

 光は自分も戦おうとしているのか、ステッキを振り回しながら走ってくる。

「もうやっつけて、魔界に送りつけたよ! 結界張ってたのに、どうして……」

「ほ、本当に!? やったぁ! わっわわ! わぁああ!」

 光が石につまずいた!

「わ! 危ない!」
 
 光がつまずいたのを、麻那人は抱きとめようとして二人ともひっくり返った。
 光は麻那人に抱きついた状態になったけど、それがなんだか安心して涙があふれてくる。
 麻那人もそのまま、二人で抱き合ったまま地面に倒れ込んで、はぁーと息を吐く。
 お互いが無事なことがわかって改めてホッとする。

「麻那人、ザボを捕まえたんだね……」

「うん、やったよ……ごめんね。もっと光達のほうに早く駆けつけられなくて」

「ううん……だって頑張るって言ったもん。麻那人は私を信じてくれたんだもんね」

「光……うん、信じていたよ」

 抱きしめてくれる麻那人の身体はやっぱり冷たいけれど、それでも光も嬉しく思う。
 そして、今度は寂しい寂しい寂しさで胸が痛んで涙が止まらない。

「う、うっう……」

 抱きついたままで、麻那人に抱きついたままで涙が溢れてくる。
 泣いてしまう。

「ひっ光!? どうしたの? どこか痛い?」

 珍しく麻那人の慌てた声。

「だって、だって……だって寂しいよ……やだ……やだよ……」

「さびしい……?」

「麻那人が帰っちゃうの、寂しいよー!」

 想いが溢れて叫んでしまった。
 光は自分でもちょっとびっくりした。
 心のモヤモヤが飛び出してきた気がする。

「えっ……」



 麻那人の方がびっくりしていた。

「なんで帰っちゃうの……嫌だよ……やだ……」

 涙が溢れて止まらない。

「せっ、せっかく追いかけ鬼を倒したのにっっなんで……寂しいよぉ……」

 ひっく、ひっくと光は話す。

「光……」

「しっかり見送らなきゃって思ってたけど……寂しいよ……麻那人っうぅう……うわーん」

 麻那人に抱きついて、たくさん泣いてしまう。
 楽しい思い出がいっぱい溢れて流れていく。

「僕がどこに行くの?」

「魔界に帰るんでしょ? っひくっ嫌だよっ寂しいよっ」

「誰が言ってたの?」

「ファ……まんじゅう悪魔おじさん……」

 ファルゴンだっけ? 途中から自信がなくて思ってた呼び名を言った。
 そう言ったら、ふふっと悪魔王子は笑った。
 そして、ぎゅーっと麻那人も光を抱きしめてくれた。

「僕はまだまだ、此処にいるつもりだよ」

「えっ……」

 わーわーっと公園の入り口の方から、みんなの声が聞こえる。
 空太達だ。

「あ、わわ! ごめんね!」

 麻那人に抱きついていた事に気付いて、光は離れた。

「謝ることじゃないよ」

 恥ずかしくなった光に、麻那人はいつも通りに微笑む。
 そして、悪魔王子の身体はまた人間の姿に戻っていく。

「まだいるつもりだよ? 僕は」

「い、い、いるって……じゃあ」

「魔界へはまだ帰らない」

「光ー! 麻那人ー!」
 
 みんなの声が聞こえる。

「こんなちょっとで終わるわけないじゃない? まだドライカレーも食べてないしスープカレーも食べていないし五年生はこれから宿泊学習があるんだよね? 遠足もあるって……それなのに帰るわけないよ。ここにいるよ」

 『ここにいる』という言葉が光の心に沁みる。

「え……じゃあ」

「ファルゴンの勘違いさ」

「えええーーー!!」

「ありがとう、嬉しいよ光」

 ふふ、っと麻那人は笑って、光はカーっと顔が熱くなる。
 でも、麻那人は光をからかうことはしなかった。

 まず麻那人が立ち上がって、手を差し出してくれて光もその手につかまって立ち上がる。

「まだまだ楽しいことがいっぱいだよね!」

「……うん!」

 麻那人が笑って、光も笑う。
 心のなかに寂しさはもうない。

 嬉しさでいっぱいだ!

「光ー! 麻那人ー!」

 魔術クラブのみんなも笑顔で走ってくる。

「みんなー!!」

「作戦大成功! 勝ったよ!」

 全員で抱き合って、やったー! と裏山で飛び跳ねた。
 追いかけ鬼もザボもいなくなった。

 魔術クラブの完全勝利!
 作戦大成功!!

 パタパタと上空を飛んで、ファルゴンはザボの入った瓶を持ってまた魔界へと行った。 

 新月の暗い夜は、終わる――。

 
 
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