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第七十話 虐殺

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お忍びで少し人間達の様子や情報を聞いてこようとしただけなのに、
大事になってしまった。

こんなはずではなかったと春樹は思いながらも、後戻りはできない。

張り切っているガスを横目にため息しか出てこない。

「私が先陣を切っていいですかな?」
「もう、いいよ。好きにして…」
「分かりました。お任せください」

きっとガスが出て行けば人などひとたまりもないのだろう。
対抗するなど、無駄で圧倒的な力の前に平伏し、死を待つだけ。
門の前にいた冒険者達もあっという間に挽肉となり、中へと魔物達が入
っていく。

きっと今からただの殺戮が行われるのだろう。
それを俺は止める事もしない。

ただ眺めるだけだった。
あの街には女、子供もいるだろう。
全てを失って…そして…。

2時間経つと、街の中は静かになった。燃える建物も数件あったが、殆ど
が崩壊していた。
魔法で雨をもたらすと鎮火させた。
ゆっくりと街を歩くとそこらじゅうに死体が転がっていた。

「どうですかな。歩きやすくなりましたか?」
「瓦礫が邪魔…それと…食べ物屋は残して欲しかったな…」
「食べたいものが有れば今度シェフを連れて来ましょう。」
「そう…だな…」

考え方が根本から違う。
そう言うことがしたいんじゃないんだ…。

「これからはついて来ないくていい。」
「お一人で出るのはいけません!」
「なら、今度ララを連れてくよ」
「まぁ、それなら…」

今度はこんな事にならないようにしよう。
これじゃ~悪い奴みたいじゃん?
いや、魔王ってそうなんだけどさ~、それでも限度ってもんがあるでしょ?

瓦礫の中からうめき声が漏れてきた。
瓦礫を吹き飛ばすと上からの梁に押しつぶされるように子供がこちらを見
ていた。

「たすけ…て…」
「…!」

春樹は咄嗟に手を差し伸べようとして止まった。
明らかにこちらを見て恐怖を浮かべる顔に後ずさってしまった。
その一瞬にメキメキッと音がして頭部をも崩れた梁に潰されて潰れていく
のを目の当たりにしてしまった。

「うっ…」

吐き気がして蹲るとその場で吐いていた。

「おぇっッ…」
「大丈夫ですか?見苦しいモノがまだ残っていたとは…すぐに片付けます。
 おい!すぐに片付けろ!」

ガスの指示に従うように魔物達がさっきの子供の死体を引きずり出すとど
こかへ運んでいった。

もう原型すらとどめていない。
無理矢理引き出したせいか首がとれて転がるとそれをパクッと咥えると持
っていく。
目に牙が刺さりグチャッと音がしていた。

「疲れたから…帰るよ…」
「はい、街の方は片付けておきます」
「あ、そうだ。冒険者ギルドにある書類なんかは持ち帰ってきてくれる?」
「分かりました。そちらはララに任せるとしましょう」
「うん、よろしく」

魔王城に帰るとやっと落ち着いた。
こんなはずじゃなかった。頭の中でずっと言い続けた言葉だった。

「椎名…お前だったらどうしてた?俺は…どうしたらいい?」

コンコンッ。

「誰だ?」
「お疲れのところ失礼します。」
「あぁ、ララか。いいよ入って」

唯一このスライムのララだけが癒しだった。
攻撃性もあまり感じられず血の匂いもしない。
ただ、たまに包み込むようにベッドの代わりになってマッサージしたりと癒し
てくれた。

「何だった?」
「先程行ってきた街でのギルドに置いてあった書類なのですが、どこに運びま
 すか?」
「あぁ、そこに置いておいてくれ」
「では、こちらに…」

スライムだからか、身体の中からドサッと書類や書物など大量の書き置きが飛
び出てきた。

「いつ見てもすごいな…」
「ありがとうございます。私にはこのようなことしかできないので。」
「そんな事ないよ。助かってるよ。」

春樹は起き上がると、出された書類に目を通す。

「こちらが、依頼とその達成冒険者の名簿です。そしてこちらが他の国からの情報。
 そしてこちらが、収入に支出のまとめ。そしてこちらが…」
「分けてくれたのか!ありがと」
「いえ、このくらいは…身体に収めていた時に全て読んでおりますので」
「ならさ、勇者についてのは何かあった?」

春樹は聞きたい情報をララに確認をした。
もし、勇者の情報があるならそれはきっと…。

「それでしたら、こちらに…北の方に勇者召喚で成功したとあります。着実にこちらに
 近いていいる模様。ギルドにも融通をする様に伝わっております。」
「それ以外では?」
「以外はめぼしいものはありませんね~。あー獣王国の勇者が姿を消したという事くら
 いでしょうか?」

(それは天野のことだよな…多分聖女と椎名と今も一緒にいるのかな?地下都市ベイルで
暴れた時に天野の姿を見た。あれ以来どうしているか見ていない。椎名は今どこにいる
のだろう?俺を取り戻しにここに来るのだろうか?)

「何かお悩みですか?私でよければなんでも言ってください」
「そうだな~前みたいにマッサージ頼んでもいい?」
「はい!もちろんです」

ララは身体をスライム状の液体に変えると体積を増やしてベッドを覆った。
春樹の身体をすっぽりと包み込むとゆっくりと全身をもみほぐしていく。
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