上 下
19 / 113

第十九話 次は?

しおりを挟む
春に押されるようにそこに決めた。

「泊まりたいんだが、食事付きで頼む」
「はいよっ、一泊かい?」
「はい」
「なら銀貨8枚、食事は付きさね。時間は夜の鐘が鳴るまでに下に食べ
 においで」
「2部屋で頼みたいんだが…」
「何言ってんだい?一部屋しか空いてないさね。そうそう、夜は多少暴
 れても文句は言わないから安心していいよ」

宿屋の女将はすごい誤解をしている気がする。

「そういう関係じゃないですから!」
「なぁ~椎名~腹減った~」
「分かった、すぐに部屋に荷物置いたら行くか!」
「おう!」

スカーフで顔を隠していてもこの仕草にはドキドキさせられる。
部屋に着くと持ってる荷物を置くと下の酒屋へと降りる。
荷物と言っても服の替えくらいしか入っていない。

「おぉ~美味そうな匂い~」
「宿屋の料金に入ってるって言ってたよな~好きなもの頼んでいいぞ?」

椎名が言っているうちに春は店員さんを呼んでいた。

「これと、これと…あとはこっちもね!飲み物は…ジュース2個ね」
「…春、お前…分かって頼んでるのか?」
「んー…知らね~よ。でもさ、こういうのってノリじゃん?」

春がノリと言って頼んだものは煮込み料理と肉に塩で焼いたものに野菜が刺
さったものと、あとは貝類がご飯と一緒に炒めてあるものだった。

ジュースは果実を絞っただけのようなもので、少し酸味はあるが飲みやすか
った。

「この煮込み料理美味いよな~肉がほろほろですげー美味い!」

春が絶賛するだけあってか本当に美味しかった。
炒め物もそこまで濃い味付けではないがスパイスがきいていて酒のつまみには
よかった。

「エーテルかぁ~、あの泡のある奴だよな~」
「ようはビールだろ?俺ら未成年じゃん?」
「まぁ、こういう世界だしいいだろ?お姉さん、エーテル1」

椎名は試しにと言って頼んでみた。
それを横取りするように春が掻っ攫って飲んだが、不味かったのかすぐに椎名の
前に返ってきた。

「まずっ、すげー苦いじゃん!」
「んー。そうでもないぞ。飲みやすいかも…アルコールも入ってるみたいだな…」
「俺はいらね~、ジュースでいいじゃん」

春は気に入らなかったらしい。
しかし、勇者の身体ではアルコールが回る前にピコンッと音が鳴って…

『毒素を中和します』

という表示が出ると、酔いが一気に覚めた。

「こういうところはゲームだな…」

改めてゲームらしさを見て安心した。
もしかしたら死んでもリセットできるのかもしれないと。
それでも、それだけは試す気にはなれかった。

食べ過ぎたとぼやきながら部屋へと入るとベッドへと転がった。
キングサイズのベッドに一緒に入るといつものように春がくっついてくる。

「春、ちょっとくっつき過ぎだって…」
「いいじゃん、男同士だろ~、もう眠いんだよ…」

文句を垂れるとすぐに寝息が聞こえ始めた。
人の気も知らないですやすやと寝られては、流石にこれ以上何もいえなかった。
危機感が無さすぎる。
いくら椎名が安心と言っても、少しは危機感を持って欲しかった。

「春が恥じらう姿なんて想像出来ないか…こっちが意識しているだけアホらし」

明日はまた馬車での移動なので早く寝ないとと考えると隣の温もりを感じながら
目を瞑った。

この世界に来て疲れていたのだろう。ぐっすりと眠ってしまっていた。

二人が起きた時には昼前だった。
慌ててチェックアウトすると乗り合い馬車の時間を聞くとちょうど今から出る所
らしかった。
すぐにチケットを払うと乗り込んだ。

「危なかったな~、マジでそのまま寝るところだったぜ~」
「この世界にはめざましってないもんな~」
「そうだよな~、でも…椎名まで寝過ごすってマジウケる~」
「春、お前な~」
「昨日エーテル飲んだせいじゃね?」
「それはない。勇者ってアルコールは毒素と判断して分解されるらしいんだ」
「それって、酔えねーの?」
「まぁ、そういうことになるな…」

なんか面白くないと言わんばかりの顔で見てきた。

「仕方ないだろ?そういうスキルなんだし。毒無効、麻痺無効、催眠無効、炎耐性
 冷感耐性、感度補正この辺は最初からついてるからな~」
「勇者ってなんでも有りだな?」
「まぁ~な」

それは…倒せない訳だ。
ならなんで狂ってしまうのだろう?
そこまで耐性があるって事は自分からなんらかの衝撃を与えたとしか考えられな
かった。
外部からの攻撃は全部耐性で防がれてしまってダメージにはならない。
ここまで耐性が多いと敵も攻撃手段に困るだろう。

まるで、ラスボス並みのステータスに呆れるしかなかった。

「椎名のステータスってさ~、まるで魔王のステータスって言われても納得しち
 まいそうだな~」

何の気なしに言った言葉に周りの視線が集まった。

「魔王が復活したって言うのに、変な事を言うもんじゃないよっ!」
「そうだぞ。魔王が復活すれば近隣の街は順番に死体の山になると言われてるん
 だぞ、すでに一つの街が壊滅したと聞くぞ」
「怖や、怖や。ここもいつ襲われるかわかったもんじゃないな」

口々に不安の声を漏らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

アルファだけの世界に転生した僕、オメガは王子様の性欲処理のペットにされて

天災
BL
 アルファだけの世界に転生したオメガの僕。  王子様の性欲処理のペットに?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

トップアイドルのあいつと凡人の俺

にゃーつ
BL
アイドル それは歌・ダンス・演技・お笑いなど幅広いジャンルで芸能活動を展開しファンを笑顔にする存在。 そんなアイドルにとって1番のタブー それは恋愛スクープ たった一つのスクープでアイドル人生を失ってしまうほどの効力がある。 今この国でアイドルといえば100人中100人がこう答えるだろう。 『soleil』 ソレイユ、それはフランス語で太陽を意味する言葉。その意味のように太陽のようにこの国を明るくするほどの影響力があり、テレビで見ない日はない。 メンバー5人それぞれが映画にドラマと引っ張りだこで毎年のツアー動員数も国内トップを誇る。 そんなメンバーの中でも頭いくつも抜けるほど人気なメンバーがいる。 工藤蒼(くどう そう) アイドルでありながらアカデミー賞受賞歴もあり、年に何本ものドラマと映画出演を抱えアイドルとしてだけでなく芸能人としてトップといえるほどの人気を誇る男。 そんな彼には秘密があった。 なんと彼には付き合って約4年が経つ恋人、木村伊織(きむら いおり)がいた!!! 伊織はある事情から外に出ることができず蒼のマンションに引きこもってる引き篭もり!?!? 国内NO.1アイドル×引き篭もり男子 そんな2人の物語

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...