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聖剣と聖女と聖木と
25話 必死な願い
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国では盛大な歓迎会パレードが催されていた。
遠征に行ったジェイムスをよそに、隣国の皇女と
ルイスの縁談が裏でゆっくりと進むはずだった。
だが、ルイスの姿はなくどこに行ったのか、隣国
皇女が来ても姿を現す事はなかった。
城中を探しても、食事の時間にも部屋にすら居な
かった。
皇女はすでに到着している。
しかし案内するはずの未来の旦那は居ないのだ。
エリス王妃が直々に案内したのだがその間も、城内
では捜索が進められていた。
「ここには第一王子のジェイムス殿下がおいでだ
とうかがいましたが?」
「いえ、ジェイムスは廃嫡され、今は第二王子の
ルイスが………ちょっと今は事情があって出て
来る事もかないませんが……」
「そうですか……どんな殿方なのでしょう?」
「そうですね。優しく、賢い子ですよ。母想いの
いい子です」
「そう……ですか」
あまり興味のなさそうな聞き方だった。
銀髪の長い髪を纏めて編み込まれたヘアスタイル
は斬新だった。
ドレスも身体に添ってフィットした感じが、身体
のラインを強調するようなもので、首のあたりま
で装飾が施されている。
普通なら胸を少し開けて殿方を誘惑するようなデ
ザインのが主流なのだが、彼女はそうではなかっ
た。
わざと身体のラインを強調する割に肌を晒さない
のだった。
到着が遅れに遅れたせいで、丁度パレードが今日
になってしまった。
ひとめ聖女を見ようとヴェールのかかった馬車に
集まった民衆がひしめきあっていた。
「そういえばこの国では聖女様がおられるとか…
少しお話させてはいただけ…いえ…なんでもな
いです」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
エリスの顔が一瞬殺気だったからだ。
皇女にとって大事な事だった。
隣国の政略結婚を前提に、妹の病を治して欲しい
と願い出るつもりだった。
それは、薬では治らず、奇跡の力に頼るしか方法
がないからだ。
だが、実際に皇女として行く事もままならない妹
の代わりに来たのはスラン・バリウス。
妹は王族だが、兄は違う。
腹違いの兄妹なのだ。
もし、バレれば国としても、スランさえもその場
で処刑されてもおかしくない。
そんな危険を犯してまで来ているのだ。
聖女と話せるのなら、話したい。
助けを求めたい。
そう切に願っていたのだった。
丁度その頃、ルイスを置いてジェイムスだけ王城
へと帰宅していた。
「ただいま戻りました。無事世界樹の浄化を終え
て参りました」
「ご苦労だった。褒美をやろう。何が欲しい?」
「では、お金と自由が欲しいです。この城を出て
冒険者になりたいのです」
「なるほど、わかった。好きにするがいい」
「ありがとうございます、お父様……………いえ、
国王陛下」
跪くと、金貨の入った袋を受け取った。
部屋に戻って荷物をまとめると、すぐに城を出よ
うとして、足を止めた。
「……」
「……ジェイムス王子様?」
「もう、王子じゃない。俺はただのジェイムスだ。
君は……」
「バリウス王国、第二皇女イーナ・バリウスです。
お会いできて光栄です」
「そうかしこまらないでくれ…」
「あの、聖女様にはどうしたら会えますか?家族
が病気なんです。この結婚を機に治療を……」
「それは無理だ。王族といえど、聖女の治療は受
けられない。ましてや今の聖女は……いや、な
んでもない」
言いかけた言葉を引っ込めた。
何を言っても無駄なのだ。
聖女という名の、ただのお飾りなのだから。
「お待ちくださいっ、それはあの噂の事ですか?
聖女は数日前に拐われて、今の聖女様は…偽物
であるのだと…」
「そうかもな……、じゃ~俺は行くから」
「待ってください。どうしたら聖女様にお会いで
きますか?居場所を知っているのでしょ?」
「諦めろ、この国に嫁いだところで治療は受けら
れない。それが現実だ」
スランを置いてジェイムスは出て行く。
一向に顔を出さない第二王子ルイス。
ジェイムスが廃嫡になった原因のルイスとはどん
な人物なのか。スランはまだ何も知らなかった。
遠征に行ったジェイムスをよそに、隣国の皇女と
ルイスの縁談が裏でゆっくりと進むはずだった。
だが、ルイスの姿はなくどこに行ったのか、隣国
皇女が来ても姿を現す事はなかった。
城中を探しても、食事の時間にも部屋にすら居な
かった。
皇女はすでに到着している。
しかし案内するはずの未来の旦那は居ないのだ。
エリス王妃が直々に案内したのだがその間も、城内
では捜索が進められていた。
「ここには第一王子のジェイムス殿下がおいでだ
とうかがいましたが?」
「いえ、ジェイムスは廃嫡され、今は第二王子の
ルイスが………ちょっと今は事情があって出て
来る事もかないませんが……」
「そうですか……どんな殿方なのでしょう?」
「そうですね。優しく、賢い子ですよ。母想いの
いい子です」
「そう……ですか」
あまり興味のなさそうな聞き方だった。
銀髪の長い髪を纏めて編み込まれたヘアスタイル
は斬新だった。
ドレスも身体に添ってフィットした感じが、身体
のラインを強調するようなもので、首のあたりま
で装飾が施されている。
普通なら胸を少し開けて殿方を誘惑するようなデ
ザインのが主流なのだが、彼女はそうではなかっ
た。
わざと身体のラインを強調する割に肌を晒さない
のだった。
到着が遅れに遅れたせいで、丁度パレードが今日
になってしまった。
ひとめ聖女を見ようとヴェールのかかった馬車に
集まった民衆がひしめきあっていた。
「そういえばこの国では聖女様がおられるとか…
少しお話させてはいただけ…いえ…なんでもな
いです」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
エリスの顔が一瞬殺気だったからだ。
皇女にとって大事な事だった。
隣国の政略結婚を前提に、妹の病を治して欲しい
と願い出るつもりだった。
それは、薬では治らず、奇跡の力に頼るしか方法
がないからだ。
だが、実際に皇女として行く事もままならない妹
の代わりに来たのはスラン・バリウス。
妹は王族だが、兄は違う。
腹違いの兄妹なのだ。
もし、バレれば国としても、スランさえもその場
で処刑されてもおかしくない。
そんな危険を犯してまで来ているのだ。
聖女と話せるのなら、話したい。
助けを求めたい。
そう切に願っていたのだった。
丁度その頃、ルイスを置いてジェイムスだけ王城
へと帰宅していた。
「ただいま戻りました。無事世界樹の浄化を終え
て参りました」
「ご苦労だった。褒美をやろう。何が欲しい?」
「では、お金と自由が欲しいです。この城を出て
冒険者になりたいのです」
「なるほど、わかった。好きにするがいい」
「ありがとうございます、お父様……………いえ、
国王陛下」
跪くと、金貨の入った袋を受け取った。
部屋に戻って荷物をまとめると、すぐに城を出よ
うとして、足を止めた。
「……」
「……ジェイムス王子様?」
「もう、王子じゃない。俺はただのジェイムスだ。
君は……」
「バリウス王国、第二皇女イーナ・バリウスです。
お会いできて光栄です」
「そうかしこまらないでくれ…」
「あの、聖女様にはどうしたら会えますか?家族
が病気なんです。この結婚を機に治療を……」
「それは無理だ。王族といえど、聖女の治療は受
けられない。ましてや今の聖女は……いや、な
んでもない」
言いかけた言葉を引っ込めた。
何を言っても無駄なのだ。
聖女という名の、ただのお飾りなのだから。
「お待ちくださいっ、それはあの噂の事ですか?
聖女は数日前に拐われて、今の聖女様は…偽物
であるのだと…」
「そうかもな……、じゃ~俺は行くから」
「待ってください。どうしたら聖女様にお会いで
きますか?居場所を知っているのでしょ?」
「諦めろ、この国に嫁いだところで治療は受けら
れない。それが現実だ」
スランを置いてジェイムスは出て行く。
一向に顔を出さない第二王子ルイス。
ジェイムスが廃嫡になった原因のルイスとはどん
な人物なのか。スランはまだ何も知らなかった。
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