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聖剣と聖女と聖木と
2話 攫われた聖女
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神殿の奥にある部屋では、いつものように白い法
衣を纏った女性が一人、佇んでいた。
そこでは、祈りを捧げる部屋がありそこに入れる
のは一部の関係者だけだった。
神殿の入り口は何人もの信者が周りを見回り部外
者が入ってくるのを警戒している。
100年ぶりの聖女の覚醒に国をあげての催しもの
が準備されていた。
これには、民衆の前に出て聖女の姿を晒して、こ
れからも安泰である事を知らせる行事でもある。
もうすぐ国をあげての祭典とあって、ひとめ聖女
を拝みたいという人で溢れていた。
たまにはお金をはらって先にお眼通りを叶えた貴
族もいた。
ただ、見るだけに巨額の大金を払うのだから偽者
と知ったら、どんな目に遭うかとビクビクしてし
まう。
彼女は本当の聖女が誰かを知っている。
目の前で、呪いを解呪したのだからわからないわ
けはない。
だが、彼女の母親の病を治す為には多くのお金が
いる。
ましてや、ルイスに頼むわけにもいかなかった。
それには、過去の事が関係している。
なぜならば、彼女はルイスが折檻を受けていた時、
何もしなかったという後ろめたい気持ちがあるか
らだった。
イザベラ王妃の命令であったが、まだ幼いルイス
王子を何度も部屋に運んだ記憶がある。
自分を睨みつけるルイスの顔を今も忘れられずに
いたのだった。
「これは私の業……なのでしょうね………」
エリス王妃に言われて、代理として神殿にきてか
らは贅沢な暮らしをさせてもらっている。
だが、それは何事もなかったらという事が前提
だった。
聖女に会いたい一心で侵入を図る不届者や、強引
に既成事実を作ろうとする貴族も度々いた。
面会に大金を払うのだからそれくらいはと、強引
に来るのだった。
ため息と共に、自分にあてがわれた部屋へと戻っ
た。
今日のお勤めは終わって、就寝時間を待つだけだ
った。
そんな時、外が騒がしく感じた。
窓の外を眺めると、暗い中を何かが動いている。
「誰かいるのかしら?」
そんな時、バンっ!と入り口のドアが蹴破られた
のだった。
顔は黒いフードをかぶっていてわからなかったが、
何が起きたのかは理解したのだった。
「命が欲しければこのままついて来い。暴れれば
その時は」
「私に何のようですか?私が誰か分かって来たの
ですか?」
「あぁ、勿論だ。聖女様には、素直に従ってもら
えれば危害を加えない……だが逃げるようなら」
「荷物はどうすればいいかしら?」
堂々としている女性に、侵入者は少し呆気に取ら
れた。
「何かいるものはあるのか?」
「いいえ。ないわ。どーせここにあるものは私の
ではないわ。全部与えられたものよ」
「だったら、早く来い」
「私、運動は苦手なのだけど……」
「なら……これでいいだろう?」
侵入者は聖女を抱きかかえると仲間と共にきた道
を戻っていく。
通った後には夥しいほどの鮮血が飛んでいた。
「可哀想に……」
「仕方ない……これも運命だと思うんだな」
「そうね……これも…運命…なのね?」
「そういう事だ。まぁ、そんなに悪い話じゃな
いと思うぞ?」
「そう……ならいいけど」
あまりの落ち着きに、諦めているのか、助けが
来るのを知っているのか?
どちらにしろ、逃げる様子もなくおとなしく連
れ攫われていったのだった。
衣を纏った女性が一人、佇んでいた。
そこでは、祈りを捧げる部屋がありそこに入れる
のは一部の関係者だけだった。
神殿の入り口は何人もの信者が周りを見回り部外
者が入ってくるのを警戒している。
100年ぶりの聖女の覚醒に国をあげての催しもの
が準備されていた。
これには、民衆の前に出て聖女の姿を晒して、こ
れからも安泰である事を知らせる行事でもある。
もうすぐ国をあげての祭典とあって、ひとめ聖女
を拝みたいという人で溢れていた。
たまにはお金をはらって先にお眼通りを叶えた貴
族もいた。
ただ、見るだけに巨額の大金を払うのだから偽者
と知ったら、どんな目に遭うかとビクビクしてし
まう。
彼女は本当の聖女が誰かを知っている。
目の前で、呪いを解呪したのだからわからないわ
けはない。
だが、彼女の母親の病を治す為には多くのお金が
いる。
ましてや、ルイスに頼むわけにもいかなかった。
それには、過去の事が関係している。
なぜならば、彼女はルイスが折檻を受けていた時、
何もしなかったという後ろめたい気持ちがあるか
らだった。
イザベラ王妃の命令であったが、まだ幼いルイス
王子を何度も部屋に運んだ記憶がある。
自分を睨みつけるルイスの顔を今も忘れられずに
いたのだった。
「これは私の業……なのでしょうね………」
エリス王妃に言われて、代理として神殿にきてか
らは贅沢な暮らしをさせてもらっている。
だが、それは何事もなかったらという事が前提
だった。
聖女に会いたい一心で侵入を図る不届者や、強引
に既成事実を作ろうとする貴族も度々いた。
面会に大金を払うのだからそれくらいはと、強引
に来るのだった。
ため息と共に、自分にあてがわれた部屋へと戻っ
た。
今日のお勤めは終わって、就寝時間を待つだけだ
った。
そんな時、外が騒がしく感じた。
窓の外を眺めると、暗い中を何かが動いている。
「誰かいるのかしら?」
そんな時、バンっ!と入り口のドアが蹴破られた
のだった。
顔は黒いフードをかぶっていてわからなかったが、
何が起きたのかは理解したのだった。
「命が欲しければこのままついて来い。暴れれば
その時は」
「私に何のようですか?私が誰か分かって来たの
ですか?」
「あぁ、勿論だ。聖女様には、素直に従ってもら
えれば危害を加えない……だが逃げるようなら」
「荷物はどうすればいいかしら?」
堂々としている女性に、侵入者は少し呆気に取ら
れた。
「何かいるものはあるのか?」
「いいえ。ないわ。どーせここにあるものは私の
ではないわ。全部与えられたものよ」
「だったら、早く来い」
「私、運動は苦手なのだけど……」
「なら……これでいいだろう?」
侵入者は聖女を抱きかかえると仲間と共にきた道
を戻っていく。
通った後には夥しいほどの鮮血が飛んでいた。
「可哀想に……」
「仕方ない……これも運命だと思うんだな」
「そうね……これも…運命…なのね?」
「そういう事だ。まぁ、そんなに悪い話じゃな
いと思うぞ?」
「そう……ならいいけど」
あまりの落ち着きに、諦めているのか、助けが
来るのを知っているのか?
どちらにしろ、逃げる様子もなくおとなしく連
れ攫われていったのだった。
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