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覚醒編
1話 覚醒
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後ろから聞こえた声は、ケント・イスラットの
ものだった。
今日もメイドとして紛れ込んでいたらしい。
「どうしてこんな事するの?僕はこんな事を望
んでなんかないのにっ!」
「そうか?本当にそう思ってるのか?こいつが
消えれば、お前は大事にされるんだぞ?最近
はこいつに無理矢理抱かれているんだろ?無
理してないか?…同じ王子なのに先に産まれ
たってだけで、不公平だとは思わないか?」
「それは………でも、僕はジェイムス兄さんを嫌
ってなんかない!僕の事を本気で心配してくれ
るし……愛してくれるから……」
「本当にそれが愛なのか?都合のいい相手だとは
思わないか?そのうち王妃が来れば、もうお前
などお払い箱だ。城から追い出されるか、一生
飼い殺されるか、どちらかだぞ?」
「それは……」
ケントの言っていることもわからなくはない。
それでも、ジェイムスを信じたかった。
「聞くなっ………そんな奴のいうことなど………
ルイス…」
「兄さんっ!」
よろよろと立ち上がるが、よろめくとその場に崩
れ落ちた。
汗の如き血が滴る。
目も充血して血が流れ出る。
このままでは本当に死んでしまう。
「お願い、なんでもするからジェイムス兄さんを
助けて…」
「なんでも?」
「聞くなっ……そんな奴の事など……聞く必要は
……げほっ、ごほっ…」
「なら、楽にさせてやれよ。」
と、短剣を投げて寄越したのだった。
「心臓をひとつき。それで薬は切れる。俺の言葉
を信じるか?」
「そ……そんな……」
普通そんな事をしたら死んでしまう。
物語りの中といえど、そんな事で助かるわけはない。
だが、ここでセシリアなら、どうしたのか?
そう、セシリアはこうしたんだった。
セシリアは短剣を持って……。
自分の腕を切りつけたのだ。
するとそこから光が集まっていって、ジェイムス
へと流れこんだのだった。
聖女の覚醒だった。
だが、ルイスはセシリアのような事はできない。
今この場にはセシリアはいないのだ。
「さぁ、選ぶんだな……大事な兄なんだろ?」
「……」
「いい……ルイス……もういい……」
目の前で死んで行くのを見ているだけなんて、
そんな事……
ルイスの目に涙が溢れ出す。
「嫌だ……死んじゃ、いやだ………」
セシリアのようになんて、多分ならないだろう。
そんな事はルイスも分かっている。
それでも……これがゲームなら奇跡が起こって欲
しい。
主人公の攻略相手がここで死ぬのなんか、誰も望
んでいないのだから。
ルイスが短剣を握り締めると、鞘から抜き震える
手をしっかりと握り締める。
そして……ザシュッとルイスは自分の腕を切り裂
いたのだった。
ケントには一瞬血が吹き出したかに見えた。
後ろからではっきりとは見えなかった。
その時、丁度医者を呼びに行った兵士が戻って来
る足音が聞こえ出すと、ケントは慌てるように去
って行ったのだった。
「何を……早く止血し……」
弱々しい声で言うジェイムスに、痛みに堪えなが
らルイスが問いかける。
「ごめん……ごめんなさい……ここにいるのが僕
で……ごめん」
もし、物語りのようにセシリアだったなら……助
けられたのに。
深く切り裂いたせいで血の量も多く、ドクドクと
流れ出ている。
ジェイムスは慌てて止血したかったが、目が眩ん
できて、腕も上手く動かせない。
ジェイムスの上に倒れ込むようにルイスが意識を
失って倒れ込んでくる。
あぁ、エンディング見れなかったなぁ~。
そう思った瞬間眩い光が辺たりを包み込むと、身
体が温かい何かに覆われた気がした。
光がなくなった後には、傷はおろかジェイムスの
毒も綺麗さっぱり解毒されていたのだった。
「これは……ルイスっ、ルイスっ!起きてくれ」
腕の怪我は綺麗に跡形もなく治っていた。
だが、混沌の眠りについたまま揺すっても目覚め
る様子はなかった。
ものだった。
今日もメイドとして紛れ込んでいたらしい。
「どうしてこんな事するの?僕はこんな事を望
んでなんかないのにっ!」
「そうか?本当にそう思ってるのか?こいつが
消えれば、お前は大事にされるんだぞ?最近
はこいつに無理矢理抱かれているんだろ?無
理してないか?…同じ王子なのに先に産まれ
たってだけで、不公平だとは思わないか?」
「それは………でも、僕はジェイムス兄さんを嫌
ってなんかない!僕の事を本気で心配してくれ
るし……愛してくれるから……」
「本当にそれが愛なのか?都合のいい相手だとは
思わないか?そのうち王妃が来れば、もうお前
などお払い箱だ。城から追い出されるか、一生
飼い殺されるか、どちらかだぞ?」
「それは……」
ケントの言っていることもわからなくはない。
それでも、ジェイムスを信じたかった。
「聞くなっ………そんな奴のいうことなど………
ルイス…」
「兄さんっ!」
よろよろと立ち上がるが、よろめくとその場に崩
れ落ちた。
汗の如き血が滴る。
目も充血して血が流れ出る。
このままでは本当に死んでしまう。
「お願い、なんでもするからジェイムス兄さんを
助けて…」
「なんでも?」
「聞くなっ……そんな奴の事など……聞く必要は
……げほっ、ごほっ…」
「なら、楽にさせてやれよ。」
と、短剣を投げて寄越したのだった。
「心臓をひとつき。それで薬は切れる。俺の言葉
を信じるか?」
「そ……そんな……」
普通そんな事をしたら死んでしまう。
物語りの中といえど、そんな事で助かるわけはない。
だが、ここでセシリアなら、どうしたのか?
そう、セシリアはこうしたんだった。
セシリアは短剣を持って……。
自分の腕を切りつけたのだ。
するとそこから光が集まっていって、ジェイムス
へと流れこんだのだった。
聖女の覚醒だった。
だが、ルイスはセシリアのような事はできない。
今この場にはセシリアはいないのだ。
「さぁ、選ぶんだな……大事な兄なんだろ?」
「……」
「いい……ルイス……もういい……」
目の前で死んで行くのを見ているだけなんて、
そんな事……
ルイスの目に涙が溢れ出す。
「嫌だ……死んじゃ、いやだ………」
セシリアのようになんて、多分ならないだろう。
そんな事はルイスも分かっている。
それでも……これがゲームなら奇跡が起こって欲
しい。
主人公の攻略相手がここで死ぬのなんか、誰も望
んでいないのだから。
ルイスが短剣を握り締めると、鞘から抜き震える
手をしっかりと握り締める。
そして……ザシュッとルイスは自分の腕を切り裂
いたのだった。
ケントには一瞬血が吹き出したかに見えた。
後ろからではっきりとは見えなかった。
その時、丁度医者を呼びに行った兵士が戻って来
る足音が聞こえ出すと、ケントは慌てるように去
って行ったのだった。
「何を……早く止血し……」
弱々しい声で言うジェイムスに、痛みに堪えなが
らルイスが問いかける。
「ごめん……ごめんなさい……ここにいるのが僕
で……ごめん」
もし、物語りのようにセシリアだったなら……助
けられたのに。
深く切り裂いたせいで血の量も多く、ドクドクと
流れ出ている。
ジェイムスは慌てて止血したかったが、目が眩ん
できて、腕も上手く動かせない。
ジェイムスの上に倒れ込むようにルイスが意識を
失って倒れ込んでくる。
あぁ、エンディング見れなかったなぁ~。
そう思った瞬間眩い光が辺たりを包み込むと、身
体が温かい何かに覆われた気がした。
光がなくなった後には、傷はおろかジェイムスの
毒も綺麗さっぱり解毒されていたのだった。
「これは……ルイスっ、ルイスっ!起きてくれ」
腕の怪我は綺麗に跡形もなく治っていた。
だが、混沌の眠りについたまま揺すっても目覚め
る様子はなかった。
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