上 下
5 / 11
プロローグ

少食故に。

しおりを挟む
 居候先の番長3姉妹。愛花、アキラ、叶との初対面を終えて、俺は八月朔日家の台所に立っていた。

「いいのよ楓太君、そんな気を使わなくて」
「いえいえ、これくらいはさせてください」

 あの3姉妹を産んだ母親、真奈美さんはおっとりとした人だった。
 娘達からの勝手な連想で、母親もさぞかし……とやや失礼にあたるかもしれないが、3人に負けず劣らずの元ヤンを想像していた。

「それにしても、たけるから連絡があった時は何事かと思っちゃって」


 真奈美さんは親父と高校生からの付き合いで、最近でもたまに連絡を取っていたそうだ。
 母さんが亡くなった時も、陰ながら親父を支えてくれていたらしく、それを聞いて俺はますます何もしないわけにはいかなくなった。


「すみません、ご迷惑をおかけして」
「迷惑なんて、とんでもない。猛の子供だもの、猛の気持ちも、あなたも見捨てることはできない」

 夕食のカレーが出来上がる頃、真奈美さんは俺の目を見据えて言う。

「『楓太を頼む』って、言われたんだから。楓太くんも、しっかり頼まれなさい」
「……ありがとうございます」

 一体、親父と真奈美さんの間にはどれだけの絆があるのだろうか。ここまで無条件で俺の事を受け入れてくれるものなのか

 ほとんど初対面で、まだ俺の事は何も話していない。
 ありがたいことだった。だからこそ、それに甘んじているわけにもいかない。
 目の前のカレー鍋に目を落として、俺は真奈美さんに一つ提案をする。

「真奈美さん。俺に家事全般を任せてくれませんか?」

 その提案をした理由は二つある。
 一つは、親父との二人の生活で、一通りの家事は出来る事。料理も掃除も洗濯もそれなりに出来ると自負している。

 もう一つは、真奈美さんの事を考えた結果だ。

 真奈美さんも働いていて、朝早くから出勤して、帰る時間も遅くなることだってある。それに加えて家事も全て行っていたわけだ。
 愛花さんたちもそれ等を手伝おうとはしてくれたらしい。
 だがやる気と技術は比例してはくれなかったようで、3人ともに撃沈していた様子。

 鍋は爆発、洗濯機は異音、掃除機は弾け飛んだらしい。

「うぅ~ん……そこまでさせるのも、ねぇ……」
「真奈美さん、これは俺のけじめみたいなものでもあるんです」

 親父を責めるような言葉かもしれないが、この状況を作ったのは俺ではない。だからこそ、真奈美さんも俺に何かを要求することもしないのだろう。
 けれどそれでは、なにがなんだかわからなくなる。だってそうだろう、俺が手伝えることは何でもするべきだ。

 時間は、すでに用意されているんだ。

「……わかった。じゃあ、お願いしようかな」
「ねぇ~ママー、ご飯まだー?」

 しびれを切らした叶ちゃんが催促に来た。
 鍋の中のカレーを見ると、目を輝かせてお皿を用意してくれる。

「ありがとう、叶ちゃん」
「叶でいいよ楓太兄ぃ。これから一緒にいるんだから、もっとフランクフランク!」 

 あどけなさが残る叶だけれど、それも正しいかもしれない。同じ空間で生活していくのだ、どこか他人行儀よりも、俺も早く打ち解けることもしないとな。

 謙虚さも、やりすぎてしまえば壁となる。


「わかったよ。じゃあ叶、皿にご飯よそってくれるか?」
「はーい!」

 叶のような子供らしさは、こういう時に助かる。
 ただ単純にいてくれるだけで空気が明るくなるから、俺は好きだ。番長だけど。

「──はい! これ楓太兄ぃの分!」
「あぁ、ありが……」

 とう、とは続かなかった。いや続けられなかった。
 渡された皿に立ち上る白い塔に圧倒されて。

「へ?」
「楓太兄ぃは男の人だからこれくらい食べるよね!」

 その、日本昔ばなしに出てきそうな量の米に驚愕しながらも、俺はなんとか受け取った。

 だって、無理じゃないか。こんなに純粋な気持ちでしてくれたのに……無下になんて……。

「あぁ──もちろんだ!」


 その日の夜から数日、少しカレーがトラウマになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...