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プロローグ
少食故に。
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居候先の番長3姉妹。愛花、アキラ、叶との初対面を終えて、俺は八月朔日家の台所に立っていた。
「いいのよ楓太君、そんな気を使わなくて」
「いえいえ、これくらいはさせてください」
あの3姉妹を産んだ母親、真奈美さんはおっとりとした人だった。
娘達からの勝手な連想で、母親もさぞかし……とやや失礼にあたるかもしれないが、3人に負けず劣らずの元ヤンを想像していた。
「それにしても、猛から連絡があった時は何事かと思っちゃって」
真奈美さんは親父と高校生からの付き合いで、最近でもたまに連絡を取っていたそうだ。
母さんが亡くなった時も、陰ながら親父を支えてくれていたらしく、それを聞いて俺はますます何もしないわけにはいかなくなった。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「迷惑なんて、とんでもない。猛の子供だもの、猛の気持ちも、あなたも見捨てることはできない」
夕食のカレーが出来上がる頃、真奈美さんは俺の目を見据えて言う。
「『楓太を頼む』って、言われたんだから。楓太くんも、しっかり頼まれなさい」
「……ありがとうございます」
一体、親父と真奈美さんの間にはどれだけの絆があるのだろうか。ここまで無条件で俺の事を受け入れてくれるものなのか
ほとんど初対面で、まだ俺の事は何も話していない。
ありがたいことだった。だからこそ、それに甘んじているわけにもいかない。
目の前のカレー鍋に目を落として、俺は真奈美さんに一つ提案をする。
「真奈美さん。俺に家事全般を任せてくれませんか?」
その提案をした理由は二つある。
一つは、親父との二人の生活で、一通りの家事は出来る事。料理も掃除も洗濯もそれなりに出来ると自負している。
もう一つは、真奈美さんの事を考えた結果だ。
真奈美さんも働いていて、朝早くから出勤して、帰る時間も遅くなることだってある。それに加えて家事も全て行っていたわけだ。
愛花さんたちもそれ等を手伝おうとはしてくれたらしい。
だがやる気と技術は比例してはくれなかったようで、3人ともに撃沈していた様子。
鍋は爆発、洗濯機は異音、掃除機は弾け飛んだらしい。
「うぅ~ん……そこまでさせるのも、ねぇ……」
「真奈美さん、これは俺のけじめみたいなものでもあるんです」
親父を責めるような言葉かもしれないが、この状況を作ったのは俺ではない。だからこそ、真奈美さんも俺に何かを要求することもしないのだろう。
けれどそれでは、なにがなんだかわからなくなる。だってそうだろう、俺が手伝えることは何でもするべきだ。
時間は、すでに用意されているんだ。
「……わかった。じゃあ、お願いしようかな」
「ねぇ~ママー、ご飯まだー?」
しびれを切らした叶ちゃんが催促に来た。
鍋の中のカレーを見ると、目を輝かせてお皿を用意してくれる。
「ありがとう、叶ちゃん」
「叶でいいよ楓太兄ぃ。これから一緒にいるんだから、もっとフランクフランク!」
あどけなさが残る叶だけれど、それも正しいかもしれない。同じ空間で生活していくのだ、どこか他人行儀よりも、俺も早く打ち解けることもしないとな。
謙虚さも、やりすぎてしまえば壁となる。
「わかったよ。じゃあ叶、皿にご飯よそってくれるか?」
「はーい!」
叶のような子供らしさは、こういう時に助かる。
ただ単純にいてくれるだけで空気が明るくなるから、俺は好きだ。番長だけど。
「──はい! これ楓太兄ぃの分!」
「あぁ、ありが……」
とう、とは続かなかった。いや続けられなかった。
渡された皿に立ち上る白い塔に圧倒されて。
「へ?」
「楓太兄ぃは男の人だからこれくらい食べるよね!」
その、日本昔ばなしに出てきそうな量の米に驚愕しながらも、俺はなんとか受け取った。
だって、無理じゃないか。こんなに純粋な気持ちでしてくれたのに……無下になんて……。
「あぁ──もちろんだ!」
その日の夜から数日、少しカレーがトラウマになった。
「いいのよ楓太君、そんな気を使わなくて」
「いえいえ、これくらいはさせてください」
あの3姉妹を産んだ母親、真奈美さんはおっとりとした人だった。
娘達からの勝手な連想で、母親もさぞかし……とやや失礼にあたるかもしれないが、3人に負けず劣らずの元ヤンを想像していた。
「それにしても、猛から連絡があった時は何事かと思っちゃって」
真奈美さんは親父と高校生からの付き合いで、最近でもたまに連絡を取っていたそうだ。
母さんが亡くなった時も、陰ながら親父を支えてくれていたらしく、それを聞いて俺はますます何もしないわけにはいかなくなった。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「迷惑なんて、とんでもない。猛の子供だもの、猛の気持ちも、あなたも見捨てることはできない」
夕食のカレーが出来上がる頃、真奈美さんは俺の目を見据えて言う。
「『楓太を頼む』って、言われたんだから。楓太くんも、しっかり頼まれなさい」
「……ありがとうございます」
一体、親父と真奈美さんの間にはどれだけの絆があるのだろうか。ここまで無条件で俺の事を受け入れてくれるものなのか
ほとんど初対面で、まだ俺の事は何も話していない。
ありがたいことだった。だからこそ、それに甘んじているわけにもいかない。
目の前のカレー鍋に目を落として、俺は真奈美さんに一つ提案をする。
「真奈美さん。俺に家事全般を任せてくれませんか?」
その提案をした理由は二つある。
一つは、親父との二人の生活で、一通りの家事は出来る事。料理も掃除も洗濯もそれなりに出来ると自負している。
もう一つは、真奈美さんの事を考えた結果だ。
真奈美さんも働いていて、朝早くから出勤して、帰る時間も遅くなることだってある。それに加えて家事も全て行っていたわけだ。
愛花さんたちもそれ等を手伝おうとはしてくれたらしい。
だがやる気と技術は比例してはくれなかったようで、3人ともに撃沈していた様子。
鍋は爆発、洗濯機は異音、掃除機は弾け飛んだらしい。
「うぅ~ん……そこまでさせるのも、ねぇ……」
「真奈美さん、これは俺のけじめみたいなものでもあるんです」
親父を責めるような言葉かもしれないが、この状況を作ったのは俺ではない。だからこそ、真奈美さんも俺に何かを要求することもしないのだろう。
けれどそれでは、なにがなんだかわからなくなる。だってそうだろう、俺が手伝えることは何でもするべきだ。
時間は、すでに用意されているんだ。
「……わかった。じゃあ、お願いしようかな」
「ねぇ~ママー、ご飯まだー?」
しびれを切らした叶ちゃんが催促に来た。
鍋の中のカレーを見ると、目を輝かせてお皿を用意してくれる。
「ありがとう、叶ちゃん」
「叶でいいよ楓太兄ぃ。これから一緒にいるんだから、もっとフランクフランク!」
あどけなさが残る叶だけれど、それも正しいかもしれない。同じ空間で生活していくのだ、どこか他人行儀よりも、俺も早く打ち解けることもしないとな。
謙虚さも、やりすぎてしまえば壁となる。
「わかったよ。じゃあ叶、皿にご飯よそってくれるか?」
「はーい!」
叶のような子供らしさは、こういう時に助かる。
ただ単純にいてくれるだけで空気が明るくなるから、俺は好きだ。番長だけど。
「──はい! これ楓太兄ぃの分!」
「あぁ、ありが……」
とう、とは続かなかった。いや続けられなかった。
渡された皿に立ち上る白い塔に圧倒されて。
「へ?」
「楓太兄ぃは男の人だからこれくらい食べるよね!」
その、日本昔ばなしに出てきそうな量の米に驚愕しながらも、俺はなんとか受け取った。
だって、無理じゃないか。こんなに純粋な気持ちでしてくれたのに……無下になんて……。
「あぁ──もちろんだ!」
その日の夜から数日、少しカレーがトラウマになった。
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