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婚約者は来ない
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今日は学園の卒業パーティーだ。
卒業パーティーには、基本的に婚約者のエスコートで出席することになっている。スカーレットはパーティーの時間が迫っても迎えに来る気配のない婚約者にため息をついた。
「あれは来ないのか」
「お父様……。ええ、来ないようですわね」
公爵は既にスミソニアンを名前で呼ぶこともなくなっていた。不快そうに言う父に、スカーレットは軽く頷く。予想できていたことだったからだ。
「……全ては予定通り、か。あの件は了承させるから、お前は卒業パーティーを楽しんできなさい」
「はい。ありがとうございます」
その時執事がやって来た。
「旦那様、スカーレット様。エドガー様がお越しになりました」
「ああ、分かった。……スカーレット、行ってきなさい」
「行って参ります」
玄関広間へ向かうと、待っていたエドガーがスカーレットを見て笑顔を浮かべる。
「やあ、今日は特別綺麗だな」
「あら、ありがとう。煩わしいことから解放されるからかしら」
差し出された腕に手を絡める。そのまま共に馬車に乗り、卒業パーティーに向かった。
「……やっと決まったんだな」
「ええ、そうね。今頃お父様が話をしに行っているはずよ」
「そうか。……それはなにより」
「今日が平穏に終わればいいわね」
「……それは、なんとも難しい問題だな」
スカーレットもエドガーも、この後のことを思ってため息をついた。
卒業パーティーが行われる講堂は煌びやかな装飾で彩られ、オーケストラによる音楽が奏でられていた。既に集まっていた者たちはそれぞれ会話を楽しんだり、食事をしたりしている。
エドガーのエスコートを受けて登場したスカーレットには、驚きと納得の眼差しが送られた。スカーレットを待っていたエミリーが婚約者をつれてスカーレットの元にやって来る。
「ご卒業おめでとうございますわ」
「エミリーもおめでとう。そちらの婚約者に会うのは初めてね?」
エミリーの婚約者は年上で、1度も学園での在籍期間が重ならなかったため初対面である。
「御初に御目にかかります。私はルブラン伯爵家アルバートでございます」
「ご丁寧にありがとうございます。私はフーリエ公爵家スカーレットですわ」
「フーリエ公爵令嬢のお噂はよく聞いておりましたよ」
アルバートがチラリと親しげな視線をエミリーに向けて悪戯に微笑む。そのアルバートの脇腹辺りをエミリーがこっそりと抓っていた。
「あら、悪い噂じゃなければ良いのだけど」
仲睦まじげな2人を優しく見つめる。アルバートの視線がスカーレットの隣に移った。
「そちらは―――?」
「ユクトバル伯爵家エドガーです。スカーレットの従兄弟ですよ」
「そうなのですか。……やはり、殿下はお噂通り……」
エドガーが挨拶すると、アルバートは難しそうな顔をする。学園の外にも殿下の放蕩ぶりの噂は届いていたようだ。エミリーも不快そうに顔を顰めている。
不意にオーケストラの音楽の雰囲気が変わった。全ての卒業生が揃ったらしい。皆が壇上に体を向け姿勢を正す。
学園長が壇上に立ち、卒業への祝福と未来に向けての激励を述べた。それは、卒業生の拍手で終わり、次に卒業生代表としてスミソニアンが壇上に立った。何故か、横にポトリフ男爵令嬢レティをつれている。
会場が不穏にざわめいた。王弟である学園長や王太子に壇上から見下ろされることは当然でも、男爵令嬢に見下ろされることを許容出来る貴族はいない。レティに冷たい眼差しが注がれ、学園長も不快そうにレティを見た。
「卒業おめでとう。私はこの場で皆に報告することがある」
祝福の言葉をおざなりにして、スミソニアンが誰かを探すように視線を巡らせた。その視線がスカーレットを捉える。ニヤッと笑うスミソニアンを見て、スカーレットはため息をついた。
「私はスカーレットとの婚約を破棄し、ポトリフ男爵令嬢レティと婚約を結ぶ!」
意気揚々と告げられた言葉に会場はシンと静まった。
卒業パーティーには、基本的に婚約者のエスコートで出席することになっている。スカーレットはパーティーの時間が迫っても迎えに来る気配のない婚約者にため息をついた。
「あれは来ないのか」
「お父様……。ええ、来ないようですわね」
公爵は既にスミソニアンを名前で呼ぶこともなくなっていた。不快そうに言う父に、スカーレットは軽く頷く。予想できていたことだったからだ。
「……全ては予定通り、か。あの件は了承させるから、お前は卒業パーティーを楽しんできなさい」
「はい。ありがとうございます」
その時執事がやって来た。
「旦那様、スカーレット様。エドガー様がお越しになりました」
「ああ、分かった。……スカーレット、行ってきなさい」
「行って参ります」
玄関広間へ向かうと、待っていたエドガーがスカーレットを見て笑顔を浮かべる。
「やあ、今日は特別綺麗だな」
「あら、ありがとう。煩わしいことから解放されるからかしら」
差し出された腕に手を絡める。そのまま共に馬車に乗り、卒業パーティーに向かった。
「……やっと決まったんだな」
「ええ、そうね。今頃お父様が話をしに行っているはずよ」
「そうか。……それはなにより」
「今日が平穏に終わればいいわね」
「……それは、なんとも難しい問題だな」
スカーレットもエドガーも、この後のことを思ってため息をついた。
卒業パーティーが行われる講堂は煌びやかな装飾で彩られ、オーケストラによる音楽が奏でられていた。既に集まっていた者たちはそれぞれ会話を楽しんだり、食事をしたりしている。
エドガーのエスコートを受けて登場したスカーレットには、驚きと納得の眼差しが送られた。スカーレットを待っていたエミリーが婚約者をつれてスカーレットの元にやって来る。
「ご卒業おめでとうございますわ」
「エミリーもおめでとう。そちらの婚約者に会うのは初めてね?」
エミリーの婚約者は年上で、1度も学園での在籍期間が重ならなかったため初対面である。
「御初に御目にかかります。私はルブラン伯爵家アルバートでございます」
「ご丁寧にありがとうございます。私はフーリエ公爵家スカーレットですわ」
「フーリエ公爵令嬢のお噂はよく聞いておりましたよ」
アルバートがチラリと親しげな視線をエミリーに向けて悪戯に微笑む。そのアルバートの脇腹辺りをエミリーがこっそりと抓っていた。
「あら、悪い噂じゃなければ良いのだけど」
仲睦まじげな2人を優しく見つめる。アルバートの視線がスカーレットの隣に移った。
「そちらは―――?」
「ユクトバル伯爵家エドガーです。スカーレットの従兄弟ですよ」
「そうなのですか。……やはり、殿下はお噂通り……」
エドガーが挨拶すると、アルバートは難しそうな顔をする。学園の外にも殿下の放蕩ぶりの噂は届いていたようだ。エミリーも不快そうに顔を顰めている。
不意にオーケストラの音楽の雰囲気が変わった。全ての卒業生が揃ったらしい。皆が壇上に体を向け姿勢を正す。
学園長が壇上に立ち、卒業への祝福と未来に向けての激励を述べた。それは、卒業生の拍手で終わり、次に卒業生代表としてスミソニアンが壇上に立った。何故か、横にポトリフ男爵令嬢レティをつれている。
会場が不穏にざわめいた。王弟である学園長や王太子に壇上から見下ろされることは当然でも、男爵令嬢に見下ろされることを許容出来る貴族はいない。レティに冷たい眼差しが注がれ、学園長も不快そうにレティを見た。
「卒業おめでとう。私はこの場で皆に報告することがある」
祝福の言葉をおざなりにして、スミソニアンが誰かを探すように視線を巡らせた。その視線がスカーレットを捉える。ニヤッと笑うスミソニアンを見て、スカーレットはため息をついた。
「私はスカーレットとの婚約を破棄し、ポトリフ男爵令嬢レティと婚約を結ぶ!」
意気揚々と告げられた言葉に会場はシンと静まった。
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