上 下
2 / 5

2.

しおりを挟む
「ぐっ、リリィを虐めるような者が聖女であるものか!お前は聖女という身分を騙っているのだ!」
「まあ!私を罪人だと仰るの?聖女の身分を騙るのは極刑ものよ。そんな罪で私を告発しようなんて、それが冤罪であったときのあなたの責任が追及されることはちゃんと理解しているの?」
「お前が聖女でないことは明らかだろう!リリィを虐め、挙げ句に殺そうとする奴が聖女のはずがない!」

 喚くだけで、フレッドの言葉には中身がない。全て彼の主観の話で、何の客観的な根拠もないからだ。本当にお粗末な頭をしている。これが次期王で良いのかと、方々の偉い人たちに問いかけたい。

「前提が間違っていますわね。私はそもそもそちらのリリィさんという方を虐めておりませんわ」
「なっ、まだシラを切るか!リリィ、言ってやれ!」
「えっ、あ、あの、私、あなたに虐められたんですっ」

 挙動不審なリリィはここで話を振られるとは思っていなかったようだ。低位の者からの、あなた、なんて不快な呼び方に眉を顰めるが、今は流しておこう。

「リリィさん、私があなたに何をしたというの?第一、私はあなたと会ったことさえないと思うのだけど」
「あ、その、あ、会いましたよね!」
「いいえ?」

 何やら必死に私に同意を求めてくるが、なぜそこで私が同意すると思うのか不思議だ。どんどん顔を青くしていく少女を見て、なんだか面白くなってきた。こんな頭の弱い少女が私にわざわざ歯向かうような真似をなぜしたのか分からない。

「アリシア、またリリィを虐めるつもりか?!」
「全然虐めてなんかいないでしょう。私は事実確認をしただけよ。勝手にそちらが焦って追い詰められているだけでしょう」

 呆れを隠さない表情で言うと、フレッドがグッと息を詰まらせて私を睨みつけてきた。自分の意思が通らないからって苛立ちも露わに睨みつけるのは王子として以前に人としてどうかと思う。

「ねぇ、結局私がリリィさんを虐めたという証拠はあるの?」

 視界に渋面の王が近づいてくるのを捉えながらフレッドに聞く。ここは王族が集う場所なのだ。一時的に席を外していた王もフレッドの起こした騒ぎに気付いて戻ってきたのだろう。
「しょ、証拠……」
「まさか証拠もなしに私を糾弾したというの?」

 分かりきったことだったが王に聞かせるつもりで問うた。しどろもどろになるフレッドを冷徹に見つめる。なにも婚約者を嫌っていたのはフレッドだけではないのだ。

「そもそも、私は学園に通ってもいないのよ?私がわざわざ学園でリリィさんを虐める理由って何?」
「あ……」

 フレッドは私に言われて初めて私が学園に通っていないことを思い出したようだ。あまりに遅すぎる。リリィも目を見開いて私を見てくるが、予想外のことだったのだろうか。人に冤罪をかけようと思うなら、まず相手のことをきちんと調べるべきだと思うが。

「じゃ、じゃあ、お前以外の誰がリリィを虐めると言うんだ!お前がリリィに嫉妬して、だれか手のものを使って虐めたに違いないんだ!」

 すでに妄言にしか思えないことを叫ぶフレッドに呆れてため息をついた。きちんと王族としての教育を受けているはずなのにここまで馬鹿なのはなぜだろう。……まあ、その理由もなんとなく察しがつくから追究したくないが。

「私が嫉妬なんてするはずないじゃない。私はあなたのことなんて好きじゃないもの」
「なっ」

 驚いたように絶句するフレッドに私のほうが驚く。まさか、私がフレッドのことを好きだと誤解していたのだろうか。そんな誤解をされていたなら、とても不快だ。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

魔法を使える私はかつて婚約者に嫌われ婚約破棄されてしまいましたが、このたびめでたく国を護る聖女に認定されました。

四季
恋愛
「穢れた魔女を妻とする気はない! 婚約は破棄だ!!」 今日、私は、婚約者ケインから大きな声でそう宣言されてしまった。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

「 この国を出て行け!」と婚約者に怒鳴られました。さっさと出て行きますわ喜んで。

十条沙良
恋愛
この国の幸せの為に頑張ってきた私ですが、もう我慢しません。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

自分の家も婚約した相手の家も崩壊の危機だと分かったため自分だけ逃げました

麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
ミネルヴァは伯爵家に養女として引き取られていたが、親に虐げられながら育っていた。 侯爵家の息子のレックスと婚約させられているが、レックスの行動を見て侯爵家は本当は危ないのでは?と嫌な予感を抱く。 調べたところレックスの侯爵家は破綻寸前であることがわかった。 そんな人と心中するつもりもないミネルヴァは、婚約解消をしようとするがどうしても許してもらえないため、家と縁を切り自分だけ逃げることにした。

ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)

白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」 ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。 少女の名前は篠原 真莉愛(16) 【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。 そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。 何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。 「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」 そうよ! だったら逆ハーをすればいいじゃない! 逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。 その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。 これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。 思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。 いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。

処理中です...