20 / 25
20.気づいた想い
しおりを挟む
ユリアは神殿の宿舎に帰ってきて、今日のアイザックとのお出かけを思い出して頬を緩めていた。
アリーシャの店で買ってもらったものは既に宿舎に届いていて、ユリアはそれを1つずつ慎重にクローゼットに仕舞った。ユリアのクローゼットはそのほとんどをアイザックに買ってもらったものが占めていて、それがなんだか嬉しくなる。
それに、このブレスレット。ユリアは自分の手を掲げてしげしげと手首にはまっているものを見つめた。これもアイザックに買ってもらったものだ。仕事中でも付けられるようにと飾りつけは控えめだが、繊細なつくりで、一目見た時からユリアは気に入っていた。それにすぐに気づいたアイザックが買い求めユリアの手首にはめてくれたのだ。これを見るたびにアイザックの顔を思い出して胸が高鳴る。
ユリアは、このドキドキがどういう理由によるものかなんとなく分かってきていた。だって、アイザックは誰から見ても素敵な男性なのだ。心が浮き立つのも仕方ないだろう。
「……でも、私は、貴族じゃないし、この国の国民でもないのよ―――」
窓辺に立ち、そこから見える街並みに目を細めた。
ユリアはここで働き出してから役所に届け出をし、税金を納めだした。だが、正式に国民として認められるのは税金を3年以上納めた者だ。ユリアの身分は未だ流民である。そんな者がどうして貴族に想いを告げられようか。国民としての身分をもらったところで、貴族との身分差は大きい。ユリアの想いが叶わないことは初めから分かっていた。
ふいに、ユリアの部屋の扉がノックされた。開けた先にいたのは満面の笑みを浮かべたローズである。
「おかえり!お出かけはどうだったの?……まさか、なんか嫌なことされた?」
ユリアの表情を見てローズの顔が曇る。思い悩んでいたことがそのまま顔に出てしまっていたようだ。
「違うのよ!お出かけは楽しかったわ。ローズが色々準備を手伝ってくれたおかげよ」
「そう?じゃあ、なんでそんな浮かない表情なの?」
部屋にローズを招き入れてお茶を出す。そのあとユリアも座って返す言葉を探した。
「……私が、アイザック様みたいな貴族にこんなに親しくしてもらっていいのかしら、と思って」
「ああ、そういうこと」
言葉を選んで相談すると、ローズがほっとしたように笑った。なぜそんな表情になるのか分からなくて、ユリアは首を傾げる。
「ユリアはもしかして知らないの?あなた、治癒石の普及の功績で叙爵の話が出ているのよ」
「え?」
あまりに意外な言葉を聞いて、ユリアは目を見開いて固まる。
「そうじゃなきゃ、いくら私だって、アイザック様を薦めたりなんかしないわよ。あなたが3年を待たずに国民資格を取るのはもう本決まりのはずだし、恐らく叙爵も確実ね。王のところまでしっかり報告がいっているようで、この神殿自体も王からお褒めの言葉をいただくかもしれないって聞いたわ」
「そ、そうなの……?」
「まさか本人が知らないとは思わなかったわ」
明るく笑うローズを見ていると、聞かされたことに実感がわいてきた。叙爵されるなんて恐れ多いことだと思うが、今は単純に自分の気持ちに素直になっていいと言われているようで嬉しくなった。
「全てあなたがしてきたことの結果よ。あなたの頑張りはみんなが見てきたの。もっと自分を誇らしく思いなさいよ。偉ぶる必要はないけれど、自分で自分を認めてあげなきゃ可哀そうよ」
「……ありがとう」
まっすぐ穏やかなローズの言葉はユリアの胸に染み入り、心をぽかぽかと温かくするようだった。
アリーシャの店で買ってもらったものは既に宿舎に届いていて、ユリアはそれを1つずつ慎重にクローゼットに仕舞った。ユリアのクローゼットはそのほとんどをアイザックに買ってもらったものが占めていて、それがなんだか嬉しくなる。
それに、このブレスレット。ユリアは自分の手を掲げてしげしげと手首にはまっているものを見つめた。これもアイザックに買ってもらったものだ。仕事中でも付けられるようにと飾りつけは控えめだが、繊細なつくりで、一目見た時からユリアは気に入っていた。それにすぐに気づいたアイザックが買い求めユリアの手首にはめてくれたのだ。これを見るたびにアイザックの顔を思い出して胸が高鳴る。
ユリアは、このドキドキがどういう理由によるものかなんとなく分かってきていた。だって、アイザックは誰から見ても素敵な男性なのだ。心が浮き立つのも仕方ないだろう。
「……でも、私は、貴族じゃないし、この国の国民でもないのよ―――」
窓辺に立ち、そこから見える街並みに目を細めた。
ユリアはここで働き出してから役所に届け出をし、税金を納めだした。だが、正式に国民として認められるのは税金を3年以上納めた者だ。ユリアの身分は未だ流民である。そんな者がどうして貴族に想いを告げられようか。国民としての身分をもらったところで、貴族との身分差は大きい。ユリアの想いが叶わないことは初めから分かっていた。
ふいに、ユリアの部屋の扉がノックされた。開けた先にいたのは満面の笑みを浮かべたローズである。
「おかえり!お出かけはどうだったの?……まさか、なんか嫌なことされた?」
ユリアの表情を見てローズの顔が曇る。思い悩んでいたことがそのまま顔に出てしまっていたようだ。
「違うのよ!お出かけは楽しかったわ。ローズが色々準備を手伝ってくれたおかげよ」
「そう?じゃあ、なんでそんな浮かない表情なの?」
部屋にローズを招き入れてお茶を出す。そのあとユリアも座って返す言葉を探した。
「……私が、アイザック様みたいな貴族にこんなに親しくしてもらっていいのかしら、と思って」
「ああ、そういうこと」
言葉を選んで相談すると、ローズがほっとしたように笑った。なぜそんな表情になるのか分からなくて、ユリアは首を傾げる。
「ユリアはもしかして知らないの?あなた、治癒石の普及の功績で叙爵の話が出ているのよ」
「え?」
あまりに意外な言葉を聞いて、ユリアは目を見開いて固まる。
「そうじゃなきゃ、いくら私だって、アイザック様を薦めたりなんかしないわよ。あなたが3年を待たずに国民資格を取るのはもう本決まりのはずだし、恐らく叙爵も確実ね。王のところまでしっかり報告がいっているようで、この神殿自体も王からお褒めの言葉をいただくかもしれないって聞いたわ」
「そ、そうなの……?」
「まさか本人が知らないとは思わなかったわ」
明るく笑うローズを見ていると、聞かされたことに実感がわいてきた。叙爵されるなんて恐れ多いことだと思うが、今は単純に自分の気持ちに素直になっていいと言われているようで嬉しくなった。
「全てあなたがしてきたことの結果よ。あなたの頑張りはみんなが見てきたの。もっと自分を誇らしく思いなさいよ。偉ぶる必要はないけれど、自分で自分を認めてあげなきゃ可哀そうよ」
「……ありがとう」
まっすぐ穏やかなローズの言葉はユリアの胸に染み入り、心をぽかぽかと温かくするようだった。
25
お気に入りに追加
1,526
あなたにおすすめの小説
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~
アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。
魔法を使える私はかつて婚約者に嫌われ婚約破棄されてしまいましたが、このたびめでたく国を護る聖女に認定されました。
四季
恋愛
「穢れた魔女を妻とする気はない! 婚約は破棄だ!!」
今日、私は、婚約者ケインから大きな声でそう宣言されてしまった。
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます
白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。
そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。
最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。
『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』
この婚約破棄は、神に誓いますの
編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された!
やばいやばい!!
エミリー様の扇子がっ!!
怒らせたらこの国終わるって!
なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。
殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?
星ふくろう
恋愛
聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。
数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。
周囲から最有力候補とみられていたらしい。
未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。
そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。
女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。
その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。
ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。
そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。
「残念だよ、ハーミア。
そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。
僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。
僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。
君は‥‥‥お払い箱だ」
平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。
聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。
そして、聖女は選ばれなかった.
ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。
魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる