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20.気づいた想い

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 ユリアは神殿の宿舎に帰ってきて、今日のアイザックとのお出かけを思い出して頬を緩めていた。
 アリーシャの店で買ってもらったものは既に宿舎に届いていて、ユリアはそれを1つずつ慎重にクローゼットに仕舞った。ユリアのクローゼットはそのほとんどをアイザックに買ってもらったものが占めていて、それがなんだか嬉しくなる。
 それに、このブレスレット。ユリアは自分の手を掲げてしげしげと手首にはまっているものを見つめた。これもアイザックに買ってもらったものだ。仕事中でも付けられるようにと飾りつけは控えめだが、繊細なつくりで、一目見た時からユリアは気に入っていた。それにすぐに気づいたアイザックが買い求めユリアの手首にはめてくれたのだ。これを見るたびにアイザックの顔を思い出して胸が高鳴る。
 ユリアは、このドキドキがどういう理由によるものかなんとなく分かってきていた。だって、アイザックは誰から見ても素敵な男性なのだ。心が浮き立つのも仕方ないだろう。

「……でも、私は、貴族じゃないし、この国の国民でもないのよ―――」

 窓辺に立ち、そこから見える街並みに目を細めた。
 ユリアはここで働き出してから役所に届け出をし、税金を納めだした。だが、正式に国民として認められるのは税金を3年以上納めた者だ。ユリアの身分は未だ流民である。そんな者がどうして貴族に想いを告げられようか。国民としての身分をもらったところで、貴族との身分差は大きい。ユリアの想いが叶わないことは初めから分かっていた。

 ふいに、ユリアの部屋の扉がノックされた。開けた先にいたのは満面の笑みを浮かべたローズである。

「おかえり!お出かけはどうだったの?……まさか、なんか嫌なことされた?」

 ユリアの表情を見てローズの顔が曇る。思い悩んでいたことがそのまま顔に出てしまっていたようだ。

「違うのよ!お出かけは楽しかったわ。ローズが色々準備を手伝ってくれたおかげよ」
「そう?じゃあ、なんでそんな浮かない表情なの?」

 部屋にローズを招き入れてお茶を出す。そのあとユリアも座って返す言葉を探した。

「……私が、アイザック様みたいな貴族にこんなに親しくしてもらっていいのかしら、と思って」
「ああ、そういうこと」

 言葉を選んで相談すると、ローズがほっとしたように笑った。なぜそんな表情になるのか分からなくて、ユリアは首を傾げる。

「ユリアはもしかして知らないの?あなた、治癒石の普及の功績で叙爵の話が出ているのよ」
「え?」

 あまりに意外な言葉を聞いて、ユリアは目を見開いて固まる。

「そうじゃなきゃ、いくら私だって、アイザック様を薦めたりなんかしないわよ。あなたが3年を待たずに国民資格を取るのはもう本決まりのはずだし、恐らく叙爵も確実ね。王のところまでしっかり報告がいっているようで、この神殿自体も王からお褒めの言葉をいただくかもしれないって聞いたわ」
「そ、そうなの……?」
「まさか本人が知らないとは思わなかったわ」

 明るく笑うローズを見ていると、聞かされたことに実感がわいてきた。叙爵されるなんて恐れ多いことだと思うが、今は単純に自分の気持ちに素直になっていいと言われているようで嬉しくなった。

「全てあなたがしてきたことの結果よ。あなたの頑張りはみんなが見てきたの。もっと自分を誇らしく思いなさいよ。偉ぶる必要はないけれど、自分で自分を認めてあげなきゃ可哀そうよ」
「……ありがとう」

 まっすぐ穏やかなローズの言葉はユリアの胸に染み入り、心をぽかぽかと温かくするようだった。


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