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9.治癒師としての日々

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 神殿で治癒師として勤めるのは順調だった。毎日多くの患者と接したが、ユリアの魔力は尽きることなく、いくらでも治癒の力を使うことができた。

「いやー、今日もユリアがいて助かりました!」
「いえ、そんな……」

 この神殿に勤める治癒師はステファノとユリアの他に5人だ。日々多くの患者が訪れるので、治癒師たちにも疲れが溜まっていたらしく、ユリアがどんどん患者を治癒していくのは大歓迎された。今では、仕事の空き時間に治癒石に力をこめて、冒険者向けへの販売ができるくらいである。

「そんな謙遜しないでくださいよ。あなたの治癒師としての才能は素晴らしいです」
「ありがとうございます」

 温かい労いの言葉に嬉しくなって微笑む。ここでの暮らしは穏やかで優しく、居心地が良かった。仕事に対してきっちり増額された給料が支払われるので、ユリアの懐も大分暖かくなった。

「急患だー!頼む!」

 患者が途切れてゆったりしていた空間は突如叫び声により破られた。一瞬ステファノと顔を見合わせて、処置室に走る。
 処置室では女性が血だらけで横たわっていた。

「馬車で引かれたんだ!妻を助けてくれ!」

 必死に叫ぶ男性に頷き、すぐさま治癒に取りかかった。脚の損傷が酷く、既に多くの血液が失われ、意識もない。一刻の猶予もない状況だったので、治癒の力を最大限注ぐことにした。

「……神よ!」

 女性に付き添っていた男性が祈りを捧げる中、女性に治癒の力を注ぐと、パアッと光が溢れた。それは女性だけに留まらず、部屋全体を白く染める。

「……ああ、ラナ、大丈夫か……?」
「ん、……あなた、私は、一体……?」

 光が収まった頃、女性から怪我はなくなっていた。流石にすぐに血は戻らないようだが、その回復力も高まるように調整したので、数時間休めば大丈夫だろう。

「ラナ!無事で良かった!」
「私、……死んだものと、思っていたわ」

 女性が起き上がろうとするので慌てて止める。

「お待ちください!怪我は治りましたが、まだ血が戻っておりません。後数時間は安静に」
「ああ、治癒師様、ありがとうございます!ラナ、こちらの治癒師様が助けてくれたのだ。治癒師様の言う通り、まだ安静にしなさい」
「そうね。ありがとうございます、治癒師様」

 瞳を潤ませながら感謝を伝えてくれる2人に、ユリアも瞳を潤ませつつ微笑んだ。助けられて本当に良かった。心からそう思った。

「無事に治癒が済んだようですね」
「はいステファノ様。暫く休む必要がありますので、休養室にお移り頂きましょう」
「分かりました。神官に手配させます」

 女性に自力で移動してもらうのは論外なので、神官に運んでもらうのだ。処置室のベッドは固く、休むのには不十分だから。
 手配が済んで処置室から出ると、待合室に1人の男がぼうっと座っていた。その周囲を数人の警備兵が囲んでいる。

「……あれ、お前、もしかして、元聖女?」
「……え」

 ぼうっとしていた男がユリアを見て驚いて呟いた。その言葉に思わず男を凝視した。その仕草で確信を持ったのか、男が目を爛々と光らせてユリアに掴みかかろうとする。

「きゃっ」
「おい、落ち着け!治癒師様に暴力を振るおうとするとは何事だ!」
「くそっ、お前のせいだ!お前のせいでっ―――!」

 男はすぐに警備兵に取り押さえられたが、ユリアはその負の感情に満ちた眼差しを見て、心臓をバクバクさせて動けなくなった。


 

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