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5.神殿での祈り
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旅の準備と馬車の乗車代、ミルカ国への入国費用として所持金の多くを使ってしまったので、とりあえず神殿に向かうことにした。治癒師としての仕事ができればそれなりのお金を得ることができるはずである。それを路銀に、ケッカ国からより離れた場所に移動するつもりだ。ドンゴはまだケッカ国の者も多くいるから安心できない。
全財産が入ったバッグを懐にギュッと抱きしめて、多くの人が行き交う通りを真っ直ぐ進む。遠くの方に見慣れた神殿が見えていた。
「うう、人が多い……」
あまり人混みを歩く経験が無かったので、四方八方から人が押し寄せる空間に息が詰まった。
「あ、やっと着いた……」
人に圧倒されながら歩くこと10分ほど。よく知る神殿の建物に辿り着いた。流石に神殿はそれほど人が多くない。祈りを捧げたり、治癒を受けたりする人がいるくらいである。まあ、その治癒を受ける人が列をなしてはいるが、みな神殿の端の方に並んでいるから神殿への道は十分余裕がある。
どこで治癒師の仕事をしたいと告げたら良いか分からなかったが、とりあえず神に祈りを捧げようと、祈りの間へ向かった。
「礼拝ですか?」
「はい。祈りを捧げても構いませんか?」
「もちろんです。どうぞそのままお進みください」
祈りの間の扉脇には受付があり、優しそうな女性神官に声をかけられた。献金をすべきか迷ったものの、何も求められなかったので、指を合わせて聖印を作り頭を下げた。同様に返してくれたのを見て祈りの間に進む。
祈りの間に並べられたベンチの1つに座り、美しいガラスで描かれた神の姿を仰ぎ見る。しばし眺めた後、聖印を作り目を閉じた。
聖句は全て暗誦できるし、聖女だった頃は国の安寧を祈ったが、その務めを離れて何をどう祈れば良いのか分からなかった。だが、とりあえず何事もなく国を出れて、新しい地に来れたことを感謝して、これからの幸せを祈った。
祈りが終わり、受付の女性の元に向かう。
「すみません、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「はい、何でしょうか」
優しい笑みに励まされて、不安で高鳴る心臓を鎮めようと深呼吸して話す。
「私、治癒師として働きたいのです。ここで暫く働かせて頂けませんか」
「あら。治癒師の方だったのですね」
「……ええ。以前のところでは治癒の仕事をしておりました。暫くしたら、他の地に移るつもりですが、それまでの間ここで働くことは可能でしょうか」
緊張しつつ返答を待つと、にこりと微笑みが返ってきた。
「もちろんですよ。治癒師の才能を持った方はなかなかいませんからね。少しの間だけでも働いて頂ければ有り難いですよ。ただ、まずはどの程度の治癒ができるか見せて貰わなければなりません」
「分かりました。どのように見せれば良いのでしょうか」
「ではこちらに」
受付に『只今不在。ご用件がある方は神殿事務室まで』と書かれた札を立てた女性神官が、にこやかにユリアを案内してくれた。
「私はリアナと申します。この神殿の副神殿長を務めています」
「副神殿長だったのですね。ご無礼を致しました。私、ユリアと申します」
「ユリアさんですね。私が副神殿長だというのはお気になさらず。ただ長くここに勤めているだけですから」
「……はい」
終始穏やかなリアナにユリアは少し緊張が緩んだ。
全財産が入ったバッグを懐にギュッと抱きしめて、多くの人が行き交う通りを真っ直ぐ進む。遠くの方に見慣れた神殿が見えていた。
「うう、人が多い……」
あまり人混みを歩く経験が無かったので、四方八方から人が押し寄せる空間に息が詰まった。
「あ、やっと着いた……」
人に圧倒されながら歩くこと10分ほど。よく知る神殿の建物に辿り着いた。流石に神殿はそれほど人が多くない。祈りを捧げたり、治癒を受けたりする人がいるくらいである。まあ、その治癒を受ける人が列をなしてはいるが、みな神殿の端の方に並んでいるから神殿への道は十分余裕がある。
どこで治癒師の仕事をしたいと告げたら良いか分からなかったが、とりあえず神に祈りを捧げようと、祈りの間へ向かった。
「礼拝ですか?」
「はい。祈りを捧げても構いませんか?」
「もちろんです。どうぞそのままお進みください」
祈りの間の扉脇には受付があり、優しそうな女性神官に声をかけられた。献金をすべきか迷ったものの、何も求められなかったので、指を合わせて聖印を作り頭を下げた。同様に返してくれたのを見て祈りの間に進む。
祈りの間に並べられたベンチの1つに座り、美しいガラスで描かれた神の姿を仰ぎ見る。しばし眺めた後、聖印を作り目を閉じた。
聖句は全て暗誦できるし、聖女だった頃は国の安寧を祈ったが、その務めを離れて何をどう祈れば良いのか分からなかった。だが、とりあえず何事もなく国を出れて、新しい地に来れたことを感謝して、これからの幸せを祈った。
祈りが終わり、受付の女性の元に向かう。
「すみません、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「はい、何でしょうか」
優しい笑みに励まされて、不安で高鳴る心臓を鎮めようと深呼吸して話す。
「私、治癒師として働きたいのです。ここで暫く働かせて頂けませんか」
「あら。治癒師の方だったのですね」
「……ええ。以前のところでは治癒の仕事をしておりました。暫くしたら、他の地に移るつもりですが、それまでの間ここで働くことは可能でしょうか」
緊張しつつ返答を待つと、にこりと微笑みが返ってきた。
「もちろんですよ。治癒師の才能を持った方はなかなかいませんからね。少しの間だけでも働いて頂ければ有り難いですよ。ただ、まずはどの程度の治癒ができるか見せて貰わなければなりません」
「分かりました。どのように見せれば良いのでしょうか」
「ではこちらに」
受付に『只今不在。ご用件がある方は神殿事務室まで』と書かれた札を立てた女性神官が、にこやかにユリアを案内してくれた。
「私はリアナと申します。この神殿の副神殿長を務めています」
「副神殿長だったのですね。ご無礼を致しました。私、ユリアと申します」
「ユリアさんですね。私が副神殿長だというのはお気になさらず。ただ長くここに勤めているだけですから」
「……はい」
終始穏やかなリアナにユリアは少し緊張が緩んだ。
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