上 下
2 / 50

ダンジョンの罠

しおりを挟む
長方形の灰色のブロックが敷き詰められた壁に四方を囲まれたダンジョン。
日の光は届かない為、薄暗い。
手にはライトを持ち、足元とその周辺をほのかに照らす。
視界はあまり良くないが、壁の所々に松明が置けるようになっているので、見つけたら火を灯す。

「あまり視界が良くないなぁ。ここで魔物に襲われたらひとたまりもないぜ。」

と、壁に手をそっと近づける。
そこに何か突起物を発見した。

「これは・・・?鑑定してみるか。」

鑑定の魔法を使うと、それは明かりを灯すスイッチのようだった。罠などは無さそうだ。

「ありがたい。視界が悪いのはどうも危険だと思ってたんだ。」

ユータがスイッチを入れてみると、頭上がパッと明るくなった。先の通路まで明々と照らしてくれていた。
進みやすくなった通路だが、それでも慎重に進んで行く。

ふと、少し先の足元に違和感を覚えた。
今まで長方形のブロックが続いていた通路が途中からブロックではなく突如、草原が広がっていた。それも色とりどりのカラフルな色合いをしている。
そして草の生え方が何故か、円を描くかのように生えている。

「怪しい・・・。これは罠か?」

あからさま過ぎるが、鑑定を行うと・・・落とし穴だった。

「よし、罠を避けて進もう!」

なるべく落とし穴を回避できるように、少しずつ進む。時にはジャンプして、落とし穴を避けて行く。

落とし穴エリアをなんとか避け、先に進もうとしたところ・・・前方を見て驚いた。

崖になっており、その底は見えなかった。対岸へ渡るには細い吊り橋を渡るしかなかった。吊り橋はガタがきているのか所々ボロボロになっており、足を乗せるとギシギシと音が鳴る。

「ここを渡るしか・・・ないか。」

不安になりながらも意を決して、足を踏み出そうとした・・・その時!

「わうんっ!!」

後ろからアッシュの声が響いてきた。
反射的に後ろを振り返ると、なんとアッシュが落とし穴エリアの手前に小さい尻尾をフリフリして立っていた。

「危ないっ!アッシュ!その先に進むのは危険だ!」

しかし、悲痛なユータの叫びも虚しくアッシュは足を踏み出してしまった!
その行く先は落とし穴が待っている。

だが、そんな不安もすぐに消えた。アッシュには落とし穴があることがわかっていたのか、スイスイと避けて歩いてきたのだった。

安心して、ホッと一息ついた時だった。

もう少しでユータの所へたどり着けるという所まで来たアッシュは、油断したのか最後の落とし穴の上を通ってしまった。
落とし穴が起動する。
アッシュの体はガクンと下に落ちていく。

「アーッシュ!!」

咄嗟に手を伸ばしたユータ。
必死でアッシュを掴もうと、手をガムシャラに動かした!
その必死さが功を奏したのか、指先に何かが触れた。紐だった。
必死に紐を掴み、自分の方へと手繰り寄せる。
それはアッシュの胴体に巻き付いていた命綱のようだった。

「さすがアッシュだ。命綱をつけているなんて、やるな!」

危機一髪の所でアッシュを助ける事ができたユータは満面の笑みを浮かべ、アッシュを撫でた。
お礼のつもりかアッシュはユータの顔をペロペロと舐めていた。

1人と1匹は、難関である吊り橋に向き合った。ここは一気に進むべきか、慎重に進むべきか・・・。

「ここは一気に駆け抜けるべきだな。いつ壊れるかもわからないし、仕方ない!アッシュ、行くぞ!」
「ワン!」

対岸を見つめ、呼吸を整える。
そして・・・カッと目を見開くと一気に駆け抜ける!足下が不安定でも振り返らない。ただひたすら、足を動かした。
すぐ後ろからはアッシュも駆けてきた!

長いようで短い吊り橋を危なげなく渡りきったユータとアッシュは、顔を見合わせてフヒッと笑い合った。

辿り着いた先には小さな宝箱があった。

「宝箱だ・・・!やったぞ、アッシュ!」
「ワフっ?」

何か分からない様子のアッシュだったが、ユータの喜びようを見て何か感じたのかユータの周りを飛び跳ねるように回り始めた。

「ワン!ワン!」
「へへっ!アッシュも嬉しいか!よーし、じゃあ開けるぞー!」

ゆっくりと宝箱の蓋に手を添え、深呼吸をしてから、蓋を開けていく。

と、その時。















「ユー君!アッシュ見なかった?散歩に行こうと思ってリード付けたのに、ちょっと目を離した時には玄関に居なかったのよ。ユー君のとこに居ない?」

トタトタと軽い足音が聞こえてきた。

「あれ?廊下の電気付けっぱなしじゃない。消し忘れたかしら?・・・え、なんでリビングに敷いてたラグが廊下に?しかもダンボールも・・・。」

トタトタと足音と共にママの声が聞こえてきた。


「ママー!アッシュは、ぼくのところにいるよー!」

「あら、やっぱりユー君のとこに居たのね。もうアッシュはユー君が大好きねぇ。さあ、アッシュお散歩に行くわよー!」

「アッシュのお散歩に行くの?ぼくも一緒に行っていい?」

「もちろん!一緒に行きましょう!」

ママの笑顔と共に外へ飛び出して行くユータ。彼の瞳にはワクワクしか見えない。




「ユー君、なんでラグを廊下に動かしてたの?」
「落とし穴で遊びたかったんだ!丸い模様を踏んだら落ちちゃうんだよ!怖いんだよ!」
「そうなの!・・・落ちちゃったらどうなるの?」ドキドキ


「・・・穴の中には笑いガスがいっぱいで死ぬまで笑っちゃうんだよ。」
「そ・それは、怖いわねぇ・・・。」


廊下にはユータお気に入りの宝箱の形をした貯金箱が残されていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...