上 下
44 / 67
王都での出会い

謎の商人

しおりを挟む
「その商人についてきた助手が、・・・エライザだった。初めはただ、商品の説明や注文を受けていただけだったのだが、段々と間合いを詰められていて、いつの間にか隣に座っていたんだ。咎めようとエライザを見たのは覚えているんだが、それからはなんだか曖昧になってしまった。・・・あのがじっと見ていた事しか覚えていない。」


じっと目の前にある白い棺を見ながら、ポツリポツリと話す。


「おそらくそこで、フローレンスの言う魅了の魔法にかかってしまったのだろうと思う。・・・よく気づいてくれた。出来る事なら、もっと前に・・・・・・いや、わたしが悪いのだ。わたしが魅了なんぞにかからなければ・・・。」

「・・・・・・・・お父様。」

「それに、わたしは別に黒髪を忌避してなどはしていない。確かに産まれた時は驚いたけど、先祖に黒髪がいたのは調べたから、知っていた。それに、その、言いにくいが黒髪を忌避していたのは乳母の方だと思う。感情だけは思うようにならなかったが、記憶はちゃんと・・・とは、怪しいが乳母の事は覚えている。」

「え・・・乳母が・・・?」

「ああ、あの乳母は確かエライザが選んだ筈だ。」

「エライザ様が・・・あ、ワザと?」

「おそらく・・・幼いお前を精神的に追い詰め、自分の都合の良い事を教え、いいように操ろうとしたのだろうな。魅了を使えば早いものを、こんな酷い真似をしおって・・・。」


後悔の念が父の頭の中を駆け巡る。頭を両手で抱え込み、また、涙が止まらなくなる。


「・・・グス・・。はぁ・・・、すまない。どうしても悲しくて・・・悔しくて涙が止まらない。本当に泣きたいのは、フローレンスに・・・グレースの方だろうに・・・。」


いつも蔑むような眼差しでしか見られた事がなかったフローレンスだったが、父がこれほどまでに涙を流す姿を見て凍りついていた心が痛むのを感じた。

ふと、父が涙を袖で乱暴に拭い深呼吸をした。そしてフローレンスへと向き合う。


「それにしてもフローレンス。お前はどうやって魅了の魔法に気づいたんだい?そして、解除まで。」


フローレンスはじっと父を見つめ、慎重に口を開いた。


「それは・・・のおかげなのよ。でも、それが誰かは言えないわ。だって、まだわたくしはお父様を信用したわけではないもの。」


と、フローレンスが言い放った瞬間だった。突然、フローレンスの横から手が現れたかと思うとフローレンスの体をぎゅっと抱きしめたのだった。


「・・・フローレンス、長い間辛い思いをさせたわね。本当にごめんなさい。わたくしも貴女のことをあまり気にかけてあげられなかったわね。それが魅了の影響だったとしても、許される事ではないわ。寂しくて辛い思いをしたのは、フローレンスだもの。」


抱きしめてきた腕をフローレンスは、ぎゅっと抱きしめ返す。


「お母様・・・!わたくしはお母様がいてくれたから、寂しくはなかったわ!お母様が、たくさんわたくしの為に動いてくれていたのも知ってるわ。よくお父様と喧嘩なさってたのも見ていたわ。だから、、、だから!お母様が謝る事など・・・!」

「そう・・・ありがとう、フローレンス。貴女は強くて優しい子ね。・・・お父様の事もわたくしの事も無理して許せなくてもいいの。でも、今は少しだけ信じてあげて?旦那様がこんなに泣くの・・・わたくしも初めて見たのよ?」


そう言って公爵の方をグレースとフローレンスが揃って見ると、真っ赤に充血した目が驚きに見開き固まっていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

処理中です...