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62 謝罪の理由
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「う・・・んー・・・。おはよ、クロウー・・・」
『ああ、おはようハルカ』
カーテンの隙間から零れる光で目が覚めた午前6時。
昨夜は完全に日が暮れる前に家の周りに隠蔽効果のある結界を張り、風呂にゆっくり浸かってから寝た。
ご飯は一般的な食料を買うのを忘れたので食べ慣れた神の森産のフルーツで済ます。
今日はグレーピイ。美味しい。
クロウにはリンゴ。無くても大丈夫なのを知ってるけど、一人飯は嫌なので付き合ってと渡した。
「それじゃ今日も頑張りますか」
一房食べきって身支度を整えたら、自分に気合を入れる為に声に出した。
この周辺は昨日浄化したばかりだからすぐには魔獣が寄ってこないと思うけど、ちょっと離れたら危険がいっぱいな森の中だ。自分に言い聞かせないと頑張れない。
「クロウ、行こう?」
ソファから立ち上がり靴を履くために玄関扉へと向かうと、ドアの前でクロウ向き合い俺を見上げた。
「クロウ?」
『ハルカ、すまない。先に謝らなければならない事がある』
「・・・なんかあった?」
基本的にクロウは俺に危険が及ばない限り俺の好きにさせてくれるし、危険な場所に赴かなければならない時は徹底して守ってくれる。
感謝する事ばかりで謝られる事など無いと思うのだが。
『ここからすぐの場所に、あの王子達が野営の陣を張っている』
「・・・なんかあったんだ?」
俺がアルブレヒト様には暫く会いたくないと思っているのを知っているクロウだ。
何事も無ければクロウは俺の気持ちを尊重して彼らをここに近寄らせる事など無く、隠蔽なりなんなりの魔法を使って他所に誘導してくれただろう。
多分そのくらいは余裕で出来る筈。だってクロウは神獣で、その王だもん。
『騎士団の中に、魔獣に襲われたのだろう負傷者が3人』
「それは・・・」
魔獣と戦って、という事だよな。
『即座に聖水と回復薬を使えたのだろう。すぐに死ぬような状態ではないが、重体だった』
「・・・よく、ここを見つけられたね」
『魔獣に追われたのだろう。彼奴らが来てすぐに見回って来たが、少し離れた場所に魔獣の残した闇の気配が残っている。残滓のみ故、既に危険は無いが。倒したのはあの王子だろう。彼の者の魔力の匂いも残っていた』
「・・・そっか。やっぱあの人強いんだな」
『どうする?会いたくないならこのまま隠蔽を掛けて離れる事も出来るが』
「・・・」
『この場所は昨日ハルカが浄化したばかりで、今はある意味簡易的な聖域と化しておる故、負傷者の闇の残滓が暴れる事も無かった筈だ。すぐに離脱して神殿に駆け込めば切り落とさずに済むだろう』
「切り落とすって・・・」
『浄化が遅くなればそうなる事もある。この辺りの大型魔獣はそこそこに強い。彼奴等に負わされた傷にもそれ相応の闇の残滓が残る故、処置が遅くなれば体内に残る闇が暴れだすというだけだ』
クロウは当たり前の事のように語る。
ここはこんな事が当たり前の世界なんだ。
多分、そんな事は珍しくないのだろう。
けれど、体の一部を切り落とすなんて、そんな事を当たり前みたいに言われて恐怖が湧かない訳が無い。
すぐに死なないって言ったって、3人もの重体の人間を連れて歩くには人も時間も掛かるに決まってる。下手したら・・・。
「放っておいたら、し、死んじゃうかも・・・?」
『そうだな』
「そうだなって・・・」
ここで俺が助けなきゃ、助からない可能性が高い、と思う。多分。
そんな感じがする。
医療も衣食住も充実した平和な日本に生まれて、荒事になんて関わり合いの無い人生を送ってきた。
助けたらきっと、関わらざるを得なくなる。
これから何が起こるのかを知ってしまっているから。
「・・・」
悩んだのはほんの一瞬。
助けないっていう選択肢は無かった。
これから先の事は、クロウがいたって俺一人では絶対に成し遂げられない。
戦力が必要なんだ。
それも、圧倒的な戦力が。
そう考えると、ここで逃げるのは得策じゃない。
打算的だと思われても仕方ないけど、俺は彼らを助ける。
「クロウ、行こう」
『よいのか』
「うん。どっちみち時間の問題だったしね。彼らを助けるよ」
『分かった』
俺は大きく深呼吸をし、扉を開けた。
「う・・・んー・・・。おはよ、クロウー・・・」
『ああ、おはようハルカ』
カーテンの隙間から零れる光で目が覚めた午前6時。
昨夜は完全に日が暮れる前に家の周りに隠蔽効果のある結界を張り、風呂にゆっくり浸かってから寝た。
ご飯は一般的な食料を買うのを忘れたので食べ慣れた神の森産のフルーツで済ます。
今日はグレーピイ。美味しい。
クロウにはリンゴ。無くても大丈夫なのを知ってるけど、一人飯は嫌なので付き合ってと渡した。
「それじゃ今日も頑張りますか」
一房食べきって身支度を整えたら、自分に気合を入れる為に声に出した。
この周辺は昨日浄化したばかりだからすぐには魔獣が寄ってこないと思うけど、ちょっと離れたら危険がいっぱいな森の中だ。自分に言い聞かせないと頑張れない。
「クロウ、行こう?」
ソファから立ち上がり靴を履くために玄関扉へと向かうと、ドアの前でクロウ向き合い俺を見上げた。
「クロウ?」
『ハルカ、すまない。先に謝らなければならない事がある』
「・・・なんかあった?」
基本的にクロウは俺に危険が及ばない限り俺の好きにさせてくれるし、危険な場所に赴かなければならない時は徹底して守ってくれる。
感謝する事ばかりで謝られる事など無いと思うのだが。
『ここからすぐの場所に、あの王子達が野営の陣を張っている』
「・・・なんかあったんだ?」
俺がアルブレヒト様には暫く会いたくないと思っているのを知っているクロウだ。
何事も無ければクロウは俺の気持ちを尊重して彼らをここに近寄らせる事など無く、隠蔽なりなんなりの魔法を使って他所に誘導してくれただろう。
多分そのくらいは余裕で出来る筈。だってクロウは神獣で、その王だもん。
『騎士団の中に、魔獣に襲われたのだろう負傷者が3人』
「それは・・・」
魔獣と戦って、という事だよな。
『即座に聖水と回復薬を使えたのだろう。すぐに死ぬような状態ではないが、重体だった』
「・・・よく、ここを見つけられたね」
『魔獣に追われたのだろう。彼奴らが来てすぐに見回って来たが、少し離れた場所に魔獣の残した闇の気配が残っている。残滓のみ故、既に危険は無いが。倒したのはあの王子だろう。彼の者の魔力の匂いも残っていた』
「・・・そっか。やっぱあの人強いんだな」
『どうする?会いたくないならこのまま隠蔽を掛けて離れる事も出来るが』
「・・・」
『この場所は昨日ハルカが浄化したばかりで、今はある意味簡易的な聖域と化しておる故、負傷者の闇の残滓が暴れる事も無かった筈だ。すぐに離脱して神殿に駆け込めば切り落とさずに済むだろう』
「切り落とすって・・・」
『浄化が遅くなればそうなる事もある。この辺りの大型魔獣はそこそこに強い。彼奴等に負わされた傷にもそれ相応の闇の残滓が残る故、処置が遅くなれば体内に残る闇が暴れだすというだけだ』
クロウは当たり前の事のように語る。
ここはこんな事が当たり前の世界なんだ。
多分、そんな事は珍しくないのだろう。
けれど、体の一部を切り落とすなんて、そんな事を当たり前みたいに言われて恐怖が湧かない訳が無い。
すぐに死なないって言ったって、3人もの重体の人間を連れて歩くには人も時間も掛かるに決まってる。下手したら・・・。
「放っておいたら、し、死んじゃうかも・・・?」
『そうだな』
「そうだなって・・・」
ここで俺が助けなきゃ、助からない可能性が高い、と思う。多分。
そんな感じがする。
医療も衣食住も充実した平和な日本に生まれて、荒事になんて関わり合いの無い人生を送ってきた。
助けたらきっと、関わらざるを得なくなる。
これから何が起こるのかを知ってしまっているから。
「・・・」
悩んだのはほんの一瞬。
助けないっていう選択肢は無かった。
これから先の事は、クロウがいたって俺一人では絶対に成し遂げられない。
戦力が必要なんだ。
それも、圧倒的な戦力が。
そう考えると、ここで逃げるのは得策じゃない。
打算的だと思われても仕方ないけど、俺は彼らを助ける。
「クロウ、行こう」
『よいのか』
「うん。どっちみち時間の問題だったしね。彼らを助けるよ」
『分かった』
俺は大きく深呼吸をし、扉を開けた。
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