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59 聖女はいない

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言いたい事だけ言った爺さん神さんからの通信(?)はプツリと切れた。


「おーい!ふざけんな!」


絶対聞こえてんだろ!!
あんなタイミングで割り入ってきたんだからさあ!
言うだけ言って放置とかありえねええええ!!
ムカつきを抱えたまま脇に置いてあるクッションをバシバシ叩き、子供のように「もおおおお!!!」と叫ぶ。


『は、ハルカ。神に何か無茶を言われたのか?』


滅多にない物理的な八つ当たりをする俺に心配になったのか、クロウが擦り寄ってくる。
俺はクッションを放し艶々でモフモフなクロウの首に抱きついた。


「爺さん、俺に聖魔法与え過ぎて聖女降ろせないから、代わりに俺に下界をどうにかしろってー・・・」


もー・・・!とため息をつきながら額をクロウの首にグリグリする。


『な・・・ハルカの下界での傷を癒すためにこちらに連れ帰ったというのに!』
「クロウだけだよー。俺に優しくしてくれんのー。爺さん神さんのあほ―!」
『まあ、今だけは神に対する暴言も仕方あるまい・・・』


ふう、とため息をついて、俺の頭を撫でるように顎でスリスリしてくれるクロウ。もー大好きー。


『しかし、ハルカを下界に、か』
「うん・・・」


正直、全然気が進まない。
ずっと一人でいたい訳じゃない。だから森から出てみたんだし。
でもそれはこんな、使命があってとかじゃなくて、ただこの世界に住んでる人と交流して、のんびり旅したいなーって感じだたんだけど。


「・・・今のサランラークってどうなってんの」
『まだかろうじてヤツの封印は効いているが、時間の問題だな。所々綻びもある故、東の森の魔獣が活性化しておる。あの王子が出張ってどうにか持ちこたえているが、いつまで持つか』


あの王子って、アルブレヒト殿下の方だよな。あの小さな王子が出れる訳ないし。


「騎士団が出てるのか」
『騎士団と冒険者だな。国中から手練れが集められている。あの王子が指揮を執って森が溢れるのを防いでいる状況だ』
「そうか」


あの人、王子のくせに自分で最前線に立って部下とか庇っちゃうからなー。
前みたいに怪我してなきゃいいけど。


『ハルカは、どうする?』
「・・・うん」


どうする、かあ――――。
行かなきゃ、たくさんの人が死ぬんだろう。
森の検問所で俺を心配してくれた騎士さんとか、最前線にいる殿下とか。
せっかく助けたんだから、死んでほしくはないなー・・・。
でもなあ。


あの怖さを忘れられた訳じゃなくて。
でも、聖女が降臨しない上に、俺まで無理ってなったら。


「・・・もうさ、ぜっっっんぜん気が進まないんだけどさあ・・・」
『ああ』


うだうだとまったくもって覇気も何もない声で話し掛けると、クロウは労わるように俺を撫でてくれる。
ああ、きもちい・・。後でもっとやってほしい。


「別に爺さん神さんどうでもいいんだけど」
『ああ』


ああ。ってクロウ(笑)
神獣なのにその相槌でいいの?
いいのか。


「なんか、知ってる人が死ぬのはヤダなって思って」
『ああ』
「・・・クロウはそばにいてくれるんだよな」
『勿論だ』
「あ――――・・・もぉおおお―――」


クロウにぎゅっとしがみついて、思いっきりイヤイヤと首を振り、それでも。


「・・・明後日の朝、王子のとこ、行こう」


言葉にすることで、自分と約束した。


『分かった』


クロウは俺といてくれるって言うし、なんか爺さんが魔法の制御も出来るようにしてくれたらしいし。
明日はこの森の果物をちょっともらって、ゆっくり眠って、早起きして。
しかたないから、下界に降りるよ。
俺、聖女じゃないのにな!


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