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51 元気になーあれ!
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俺の涙入りの水を少しずつ2つのグラスに移し、ひとつは侍従長さんが、もう一つは俺が飲む。
結局殿下には遠慮してもらった。
侍従長さんが許可しなかったのは勿論だし、俺もその方が良いと思ったから。
飲み下して、一応毒見の最短基準であるらしい15分を計る。
「・・・ただの、水のようですね」
「そうだ。私たちにとってはな」
時間が経ち、侍従長さんの身体になんの変化も見られないと確認されると、彼は淡々と吸い飲みに水を移した。
一口か二口でいいと言っておいたので、その量はほんの少しだ。
「エドワード。彼はハルカ。信用に足る人物だ。安心して彼の治癒を受けて欲しい」
「殿下、ハルカと申します」
殿下の言葉を受け、俺は名前だけを告げ王子に会釈で挨拶する。
本当はこんな時間さえ惜しいと思っている。
王子の呼吸は苦しそうなまま、時折出る咳も乾いて上手く出ていない。
見ていて可哀そうで仕方ないのだ。
「さっき、見ていましたよね?あれは身体に害のあるものではありません。俺の治癒を浸透させるのを助けてくれる水です。ほんの少しでいいんです。あの水を飲んで、治癒を受けてください。
必ず、お助けします」
ベッドの脇にしゃがんで、王子と同じ目線で話すと王子は僅かに頷いてくれた。
「エドワード、起こすぞ?」
殿下は優しく王子の頭を撫でてから、背の下に腕を入れゆっくりと身体を起こさせた。
「ゆっくりでいい。少しずつな」
侍従長さんから吸い飲みを受け取り、王子の口にくわえさせたのも殿下だ。王子も素直に口にしている。
こんなに可愛がっているなら、あんな危険な森に入っていたのも頷けた。
王子のこの状況を見て、俺は森での事を後悔し始めていた。
面倒を避ける為と、森で彼を放置した。あの時にきちんと話を聞いていればこの子が苦しむ時間が少なくなったと思うのに。
今更としか言いようがないが自分の事だけしか考えられない狭量さを恨めしく思った。
だから、決めた。
絶対に助ける。
数分の時間を掛けてやっと二口分の水を嚥下した王子は、俺に向かって微笑んだ。
これでいい?そんな風に。
「頑張りましたね、エドワード王子。殿下、もう寝かせて頂いて結構ですよ」
「ああ。頼む」
「はい。お任せ下さい」
白く細い王子の手を握り、目を閉じてイメージする。
この子の苦しみが消えますように。
「ヒール」
王子を包むように自分の魔力を広げていく。
この小さな男の子が苦しみから救われますように。
身体の中のイメージなんて浮かばないから、とにかくこの子の中の悪いものが消えていくように、ただ祈る。
『はーやく元気になーあれ!』
昔、母親が俺の手を握って、歌うように言ってた。そして・・・。
思い出して、握ったままの王子の手に額を当てる。
「はーやく元気になーあれ」
口に出した瞬間、閉じた瞼の裏が白くなって思わず目を開けると
「え・・・?」
王子の身体が白い光に包まれていた。
侍従さんが息を呑んだ気配がしたけど、実は俺だって驚いている。
だってさっきはこんな現象起きなかった。
何が違う?
『ハルカ』
半ばパニックになっていると、スリッとクロウが俺の肩に顔を乗せてきた。
デカいモフモフがポフンと乗ってるの可愛いな、なんて和んでる場合じゃない。
「クロウ・・・。何が起きた?」
侍従さんに聞こえないようにコソコソと会話をする。
『治癒魔法が途中から浄化魔法に変化したから周りが驚いているだけだ』
「・・・浄化って・・・」
『治癒魔法が効き始めてすぐ、子供の中から微かな闇の気配が沸き上がった。
それを感じたのではないのか?』
「いや・・・この子の中の悪いものが消えるように祈っただけだけど」
『では無意識か』
「・・・闇の気配って、本当?」
『ああ。器が小さい故抵抗力が無かったのだろう。魔獣化せずに済んでいたのはあれの守護が僅かに残っていたからであろう』
そう言われて、先日見たばかりの光景を思い出した。
狂暴化した猪の魔獣を倒したにも関わらず残る気持ち悪い気配。
アレはダメだ。
「ここの空気が悪いのもその所為なのか?」
『何か感じるのか?』
「俺には、少し息苦しく感じる。浄化しちゃっていいかな」
『濃い闇の気配は感じぬが、闇の気配に慣れないハルカがそう感じるのならハルカの為にもこの子供の為にもそうした方が良いだろう』
「分かった。じゃあやる」
心の中で「浄化」と唱え、部屋の中に魔力を広げる。
雨あがり、雲の裂け目から降り注ぐ太陽の光。天使の梯子と呼ばれるあの光が灰色の雲を消しながら広がるようなイメージで両手を掲げた。
「ハルカ・・・」
天井からキラキラと光の粒子が降り注ぐ。
見上げた自分の腕や手は白い光に包まれて、多分全身が白いんだろうな、なんて他人事のように思った。
結局殿下には遠慮してもらった。
侍従長さんが許可しなかったのは勿論だし、俺もその方が良いと思ったから。
飲み下して、一応毒見の最短基準であるらしい15分を計る。
「・・・ただの、水のようですね」
「そうだ。私たちにとってはな」
時間が経ち、侍従長さんの身体になんの変化も見られないと確認されると、彼は淡々と吸い飲みに水を移した。
一口か二口でいいと言っておいたので、その量はほんの少しだ。
「エドワード。彼はハルカ。信用に足る人物だ。安心して彼の治癒を受けて欲しい」
「殿下、ハルカと申します」
殿下の言葉を受け、俺は名前だけを告げ王子に会釈で挨拶する。
本当はこんな時間さえ惜しいと思っている。
王子の呼吸は苦しそうなまま、時折出る咳も乾いて上手く出ていない。
見ていて可哀そうで仕方ないのだ。
「さっき、見ていましたよね?あれは身体に害のあるものではありません。俺の治癒を浸透させるのを助けてくれる水です。ほんの少しでいいんです。あの水を飲んで、治癒を受けてください。
必ず、お助けします」
ベッドの脇にしゃがんで、王子と同じ目線で話すと王子は僅かに頷いてくれた。
「エドワード、起こすぞ?」
殿下は優しく王子の頭を撫でてから、背の下に腕を入れゆっくりと身体を起こさせた。
「ゆっくりでいい。少しずつな」
侍従長さんから吸い飲みを受け取り、王子の口にくわえさせたのも殿下だ。王子も素直に口にしている。
こんなに可愛がっているなら、あんな危険な森に入っていたのも頷けた。
王子のこの状況を見て、俺は森での事を後悔し始めていた。
面倒を避ける為と、森で彼を放置した。あの時にきちんと話を聞いていればこの子が苦しむ時間が少なくなったと思うのに。
今更としか言いようがないが自分の事だけしか考えられない狭量さを恨めしく思った。
だから、決めた。
絶対に助ける。
数分の時間を掛けてやっと二口分の水を嚥下した王子は、俺に向かって微笑んだ。
これでいい?そんな風に。
「頑張りましたね、エドワード王子。殿下、もう寝かせて頂いて結構ですよ」
「ああ。頼む」
「はい。お任せ下さい」
白く細い王子の手を握り、目を閉じてイメージする。
この子の苦しみが消えますように。
「ヒール」
王子を包むように自分の魔力を広げていく。
この小さな男の子が苦しみから救われますように。
身体の中のイメージなんて浮かばないから、とにかくこの子の中の悪いものが消えていくように、ただ祈る。
『はーやく元気になーあれ!』
昔、母親が俺の手を握って、歌うように言ってた。そして・・・。
思い出して、握ったままの王子の手に額を当てる。
「はーやく元気になーあれ」
口に出した瞬間、閉じた瞼の裏が白くなって思わず目を開けると
「え・・・?」
王子の身体が白い光に包まれていた。
侍従さんが息を呑んだ気配がしたけど、実は俺だって驚いている。
だってさっきはこんな現象起きなかった。
何が違う?
『ハルカ』
半ばパニックになっていると、スリッとクロウが俺の肩に顔を乗せてきた。
デカいモフモフがポフンと乗ってるの可愛いな、なんて和んでる場合じゃない。
「クロウ・・・。何が起きた?」
侍従さんに聞こえないようにコソコソと会話をする。
『治癒魔法が途中から浄化魔法に変化したから周りが驚いているだけだ』
「・・・浄化って・・・」
『治癒魔法が効き始めてすぐ、子供の中から微かな闇の気配が沸き上がった。
それを感じたのではないのか?』
「いや・・・この子の中の悪いものが消えるように祈っただけだけど」
『では無意識か』
「・・・闇の気配って、本当?」
『ああ。器が小さい故抵抗力が無かったのだろう。魔獣化せずに済んでいたのはあれの守護が僅かに残っていたからであろう』
そう言われて、先日見たばかりの光景を思い出した。
狂暴化した猪の魔獣を倒したにも関わらず残る気持ち悪い気配。
アレはダメだ。
「ここの空気が悪いのもその所為なのか?」
『何か感じるのか?』
「俺には、少し息苦しく感じる。浄化しちゃっていいかな」
『濃い闇の気配は感じぬが、闇の気配に慣れないハルカがそう感じるのならハルカの為にもこの子供の為にもそうした方が良いだろう』
「分かった。じゃあやる」
心の中で「浄化」と唱え、部屋の中に魔力を広げる。
雨あがり、雲の裂け目から降り注ぐ太陽の光。天使の梯子と呼ばれるあの光が灰色の雲を消しながら広がるようなイメージで両手を掲げた。
「ハルカ・・・」
天井からキラキラと光の粒子が降り注ぐ。
見上げた自分の腕や手は白い光に包まれて、多分全身が白いんだろうな、なんて他人事のように思った。
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