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36 当然顔パス
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それから数時間、馬達の水分補給の為に一度休憩した以外はずっと馬に乗っていた。
後ろからがっちり腕を回され落ちる心配は全くと言っていいほど無かったし、長く続く揺れに酔う事も無かった。
しかし、慣れない乗馬に普段使わない筋肉を酷使し、あの猪の魔物(訊いたら元はロックボアという岩場に住む獣らしく、何らかの理由で闇に呑まれて魔獣化したらしい)の討伐後も害獣や小型の魔獣に遭ったりでずっと緊張しっぱなしで疲れ切っていた俺は、王都に入る検問所の手前で降ろされた途端、地面にへたり込んでしまった。
「う、わ」
「ハルカ!」
両脇に手を入れられ、それこそ子供のように抱っこされていたため尻もちをつくのは回避されたが、その代わり王子様の胸に自ら縋りつくなどという醜態を晒してしまった。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫です。すみませ・・・っ」
慌てて両足に力を入れるが、辛うじてまっすぐ立った足はプルプル震えて、まるで生まれたての小鹿のようだ。
うー、くそ・・・!
がんばれ俺の足!
社会人になって弓を持つ機会がぐんと減ってからも、軽いランニングや家で出来る腹筋や腕立て伏せなどで自称細マッチョな身体を維持していたというのに、その身体が今はまるで自分のものではないように足が言う事を聞いてくれない。
「まったく大丈夫そうには見えないが」
「う、すみません。少し待っていただけますか。すぐに・・・うわっ!ちょ・・っ」
「門を抜けるまでだ。辛抱してくれ」
「いや、あの・・!」
なんでこの王子様は自らこう言う事をしちゃうんだよ!
隣に立った騎士さんが「団長、私が」とか申し出てくれてるのをバッサリ断って、なんでか上機嫌に俺を片腕に抱き上げた。
「俺、自分で歩きますから・・っ」
「立つのも難しいのに?」
「う」
だからちょっと待ってって言ったじゃん!
「すぐに済むから大人しくしていてくれ。
暴れたら落としてしまう」
絶対にそんな事は無いだろう笑顔で言われても。
しかしこの王子様が結構強引なのは馬に乗る時既に分かってしまっているので、これ以上は言っても無駄だと俺は早々に諦めた。
「申し訳ありません。お世話になります・・・」
・
通常の門の脇にある、おそらくは貴族や王族専用なのだろう門を通る時も俺は王子に抱っこされたままだった。
しかも、片腕にお尻を乗っけた縦抱っこ。歩き始めのちっちゃい子を抱っこする時のアレだよ。
危ないから掴まれと言われて、抱きつくように首に手を回させられた。
妙に機嫌のいい王子に警備の兵士が訝しげに尋ねている。
「殿下、こちらは・・・」
「私の連れだ。危険は無い」
「・・・承知しました」
どう見ても平民な服装の子供を、冒険者風に変装しているとはいえこの国の王子が抱っこしている。
身分証も出していないけど、王子様に危険が無いと言い切られては一介の兵士に何を言えようか。
ちょっとだけこの人を不憫に思った。
後ろからがっちり腕を回され落ちる心配は全くと言っていいほど無かったし、長く続く揺れに酔う事も無かった。
しかし、慣れない乗馬に普段使わない筋肉を酷使し、あの猪の魔物(訊いたら元はロックボアという岩場に住む獣らしく、何らかの理由で闇に呑まれて魔獣化したらしい)の討伐後も害獣や小型の魔獣に遭ったりでずっと緊張しっぱなしで疲れ切っていた俺は、王都に入る検問所の手前で降ろされた途端、地面にへたり込んでしまった。
「う、わ」
「ハルカ!」
両脇に手を入れられ、それこそ子供のように抱っこされていたため尻もちをつくのは回避されたが、その代わり王子様の胸に自ら縋りつくなどという醜態を晒してしまった。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫です。すみませ・・・っ」
慌てて両足に力を入れるが、辛うじてまっすぐ立った足はプルプル震えて、まるで生まれたての小鹿のようだ。
うー、くそ・・・!
がんばれ俺の足!
社会人になって弓を持つ機会がぐんと減ってからも、軽いランニングや家で出来る腹筋や腕立て伏せなどで自称細マッチョな身体を維持していたというのに、その身体が今はまるで自分のものではないように足が言う事を聞いてくれない。
「まったく大丈夫そうには見えないが」
「う、すみません。少し待っていただけますか。すぐに・・・うわっ!ちょ・・っ」
「門を抜けるまでだ。辛抱してくれ」
「いや、あの・・!」
なんでこの王子様は自らこう言う事をしちゃうんだよ!
隣に立った騎士さんが「団長、私が」とか申し出てくれてるのをバッサリ断って、なんでか上機嫌に俺を片腕に抱き上げた。
「俺、自分で歩きますから・・っ」
「立つのも難しいのに?」
「う」
だからちょっと待ってって言ったじゃん!
「すぐに済むから大人しくしていてくれ。
暴れたら落としてしまう」
絶対にそんな事は無いだろう笑顔で言われても。
しかしこの王子様が結構強引なのは馬に乗る時既に分かってしまっているので、これ以上は言っても無駄だと俺は早々に諦めた。
「申し訳ありません。お世話になります・・・」
・
通常の門の脇にある、おそらくは貴族や王族専用なのだろう門を通る時も俺は王子に抱っこされたままだった。
しかも、片腕にお尻を乗っけた縦抱っこ。歩き始めのちっちゃい子を抱っこする時のアレだよ。
危ないから掴まれと言われて、抱きつくように首に手を回させられた。
妙に機嫌のいい王子に警備の兵士が訝しげに尋ねている。
「殿下、こちらは・・・」
「私の連れだ。危険は無い」
「・・・承知しました」
どう見ても平民な服装の子供を、冒険者風に変装しているとはいえこの国の王子が抱っこしている。
身分証も出していないけど、王子様に危険が無いと言い切られては一介の兵士に何を言えようか。
ちょっとだけこの人を不憫に思った。
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