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二度目の人生
何度でも君に恋をする(6)
しおりを挟む(クリスティーナが·····、お願いした·····)
父上から聞いたその言葉に、フィンセントは足元が抜け落ちたような感じがした。そして、そんなフィンセントを見て、伯爵は心を痛めた。
と言うのも、伯爵はフィンセントの気持ちにずっと前から気がついていて、ずっと、マースリー男爵に、婚約を持ちかけていたのだ。しかし、マースリー男爵は、娘には娘がすきになった男と婚約させたいと、今まで何度も断られていた。
そんな中、昨日、婚約することが1週間前に決まったと言う旨の手紙が届いたのだ。伯爵は慌ててマースリー男爵家に行き、事情を聞いた。もしかしたら、相手側の家柄が高く断れないのでは?などと思ったからだ。しかし、理由は、クリスティーナが望んだからだった。それを聞いてしまえば、伯爵はもう何も言えなかった。
やれる事はしてあげたし、これからは、フィンセント次第だと、伯爵は改めて、顔色を悪くしながらも、目の前で何やら考え込む息子を見る。
「父上·····、僕は·····」
やがてフィンセントはゆっくりと顔を上げた。先程とは、少し違った顔つきになったフィンセントに伯爵はビックリするも、続きを待つ。
「クリスティーナが好きです」
そう口にした瞬間、フィンセントは、ずっと分からなかった感情の正体が“恋心”だったのだと確信した。そして、今の自分は、クリスティーナの婚約者に“嫉妬”していたのだと。
「父上·····、クリスティーナの婚約は決まったのであって、まだ、成されていないのですよね·····?」
「ああ、そうだ」
なら·····、せめて、この気持ちを·····、クリスティーナに伝えたい·····
「分かりました、父上。····手紙を。書き直して来ます·····」
フィンセントはそう言うと、先程書いた手紙を手に、部屋へと戻って行った。
先程の手紙には書いていなかった、次の約束の事を書くために。
─────────────────
『クリスティーナへ、婚約が決まったと父から聞きました。先ずは、おめでとうございます。··········(省略)··········次の約束のことなのですが、今年もクリスティーナの誕生日に会いたいです。そしてこれで、クリスティーナの誕生日に会うのは最後にしようと思います。婚約者の方に失礼ですからね。手紙も頻度を落とします。 婚約者が出来ても、よき友人で居てくれると嬉しいです··········フィンセントより』
フィンセントはそう手紙を書き終えると、ベットにだらしなく転がった。
次のクリスティーナ誕生日、その日に、この想いを伝えよう。と、フィンセントは決心する。
振られることが元から分かっていても·····、せめて、この想いにケジメをつけたかった。
何時から、クリスティーナが好きだったのか、フィンセントには、分からない。でも、初めまして会った時、いきなりフィンセントの顔を掴み、フィン·····と、初対面なのにフィンセントの事を愛称で呼び、ポロポロと涙を流して泣いていたクリスティーナを見た時から、恋が始まって居たのかもしれない·····と、フィンセントは思う。
今でも、あの時のクリスティーナの、信じられないものを見るような、嬉しそうな、幸せそうな、·····それでいてフィンセントに向けて愛おしいものを見るような、そんな彼女の朝焼けを閉じ込めたような綺麗な目が忘れられない。
「婚約者には慣れなくても、親友には慣れるかな」
たとえ、どんな形でもクリスティーナのそばに居たいと、フィンセントは思う。
もし、クリスティーナの婚約者がフィンセントよりも上の階級なら、クリスティーナが結婚した後、クリスティーナの護衛として雇ってもらおうかな·····なんて事を冗談交じりで考えた。
でも、そんな考えも暫くして冷静になると、無理だと悟った。きっと、耐えられないと。
フィンセントはもとより、諦めが悪い。諦めるのはやれる限りの事をやってからだと決めている。
──────
──────────────
しかし、クリスティーナから返ってきた返事は、その日は先約があるからまた別の日に···だった。きっと、婚約者となる男と会うのだろう·····と、フィンセントは勝手に想像する。
1ヶ月後·····クリスティーナは12才に成ろうとしていた。フィンセントの胸に鈍い痛みが積み重なって行った。
『なら、せめて、クリスティーナが婚約する前に会いたい·····。何時でも良いから、空いている日を教えて欲しい』と、フィンセントは手紙を返した。
しかし、次に手紙が帰ってきた時には、全てが手遅れだった。
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