この婚約破棄は運命です

朝比奈

文字の大きさ
上 下
17 / 26
二度目の人生

何度でも君に恋をする(5)

しおりを挟む

   『クリスティーナへ·····』そう書かれた、フィンセントから毎週の様に届く手紙を、クリスティーナは無表情で受け取り、部屋に持っていく。

「暫く一人にして·····」

   侍女にそう声をかけると、クリスティーナは部屋にひきこもり、一人でフィンセントからの手紙を読む。

   そして、読み終えると、返事の手紙を書いて、フィンセントから貰った手紙を、自分の机の鍵の着いた引き出しに入れた。

「一体、いつまで続くのかしら·····」

   クリスティーナは、そう言いながらも、丁寧に手紙を封に入れた。



────────────────


『クリスティーナへ、僕は最近、乗馬を習い始めました。馬の名前は、アズです。今度、クリスティーナにも、紹介します』

『クリスティーナは、モンブランを食べたことはありますか?   僕は、最近初めて食べたのですが、とても美味しかったです。クリスティーナにも食べて欲しいです。今度、持っていきます·····


「それくらい覚えているわよ、、フィン·····」

   クリスティーナは、これまで届いた幾枚の手紙の内容を思い出し、独りごちた。

   と言うのも、フィンセントから届く自分の好みや、近状を綴った手紙の内容は、前世の記憶があるクリスティーナにとっては既に知っていることだったのだ。

   フィンセントの愛馬の名前も、スイーツはモンブランと、マカロンが好きなことも。

   全部、クリスティーナにとっては、知っていて当然の事だった。でも、フィンセントはそれを知らない·····、その事実が、クリスティーナを一層苦しませるのだった。

「私が·····、他の人を好きになればいいのに·····、どうして、貴方じゃなきゃダメだと思うのかしら·····、後どれくらい時間があれば、貴方を忘れらるれるのかしらね·····フィン·····」

   全てを綺麗に忘れるには、クリスティーナにとっては、フィンセントの存在は大きく、消し難いものだった。

「手紙なんか、送ってこないでよ·····」

   クリスティーナは、フィンセントからの増えていく手紙を、処分する方法が分からなかった。

   こんなもの持っていても、フィンセントとの思い出が·····、存在が·····、より濃く、自分の中に残るだけだと、知っているのに·····

「バカだわ·····私·····」

   クリスティーナは、また一つ、ため息を飲み込んだ。


─────────────────


『フィンセントへ、貴方の幸せを願っています』

   ある日、そう書かれた手紙がフィンセントの元へ届いた。これまでものとは少し違った、手紙にフィンセントは目を丸くする。

   どうしたんだろう·····、と思いながらも、フィンセントは嬉しさでいっぱいだった。

   早速、返事を書こうと部屋へ飛び込み、女の子が喜びそうなレターセットの中から、飛び切り可愛いものを選ぶ。

   それから、数時間を掛け手紙を書き、フィンセントの一番の味方であり、理解者である父上の元へ持っていく。

「父上!  これを、クリスティーナに!」

「!  フィンセント·····」

   しかし、嬉しそうなフィンセントとは、逆に伯爵の様子はおかしかった。

「父上·····?」

   不思議に思い、フィンセントは首を傾げ、どうしたのかと聞く。伯爵は言いずらそうに、フィンセントに教えた。

「実は·····、クリスティーナちゃんが、次の誕生日が終わった後に、婚約するそうなんだ·····」

   その言葉を理解した瞬間·····、フィンセントは先程までの嬉しそうな表情が嘘かとおもうほど、迷い子ような泣きそうな、辛そうな表情へと変わる。


   心臓が痛い·····。苦しい·····。どうして·····クリスティーナが、他の男の子のお嫁さんになるのが、こんなに嫌なんだろう·····。


   友達が、婚約するんだ。それは、嬉しいこと·····のはずなのに·····。

(知らなかった·····)

   フィンセントの心にドロドロとした黒いものが溜まる。自分でもよくわからない感情に、フィンセントの目に薄く涙の膜がはる。


   毎週、毎週、手紙のやり取りをしていたのに·····。婚約なんて、いつの間に決めたんだろう·····。教えてくれても、良かったじゃないか·····。いや、そもそも、僕は、クリスティーナに嫌われてるから、無理だよね·····。

   ·····いいな、その子は。クリスティーナに好かれて·····、いっぱい、一緒に居れて·····。

   そこは、その場所は·····、僕がずっと·····、欲しかった場所なのに·····


「·····父上、それは、いつ決まったんですか·····」

(まだ、間に合うかもしれない·····)

   ぐっと悔しさに両拳を握りしめ、フィンセントは、喉から声を絞り出して聞いた。しかし、帰って来た伯爵の答えに、フィンセントは崩れ落ちた。




「1週間前に·····。クリスティーナちゃんからのお願いだったそうだ·····」




──────────────────
ここまで読んでくれてありがとうございます!
そして、あけましておめでとうございます!
2日連続で投稿出来なかったので、今日、代わりに2話投稿させて頂きました。今後、徐々に不定期になるとは思いますが、落ちは見えてますのでご安心を·····?   ではでは、皆様·····、良いお年を!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...