この婚約破棄は運命です

朝比奈

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二度目の人生

何度でも君に恋をする(5)

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   『クリスティーナへ·····』そう書かれた、フィンセントから毎週の様に届く手紙を、クリスティーナは無表情で受け取り、部屋に持っていく。

「暫く一人にして·····」

   侍女にそう声をかけると、クリスティーナは部屋にひきこもり、一人でフィンセントからの手紙を読む。

   そして、読み終えると、返事の手紙を書いて、フィンセントから貰った手紙を、自分の机の鍵の着いた引き出しに入れた。

「一体、いつまで続くのかしら·····」

   クリスティーナは、そう言いながらも、丁寧に手紙を封に入れた。



────────────────


『クリスティーナへ、僕は最近、乗馬を習い始めました。馬の名前は、アズです。今度、クリスティーナにも、紹介します』

『クリスティーナは、モンブランを食べたことはありますか?   僕は、最近初めて食べたのですが、とても美味しかったです。クリスティーナにも食べて欲しいです。今度、持っていきます·····


「それくらい覚えているわよ、、フィン·····」

   クリスティーナは、これまで届いた幾枚の手紙の内容を思い出し、独りごちた。

   と言うのも、フィンセントから届く自分の好みや、近状を綴った手紙の内容は、前世の記憶があるクリスティーナにとっては既に知っていることだったのだ。

   フィンセントの愛馬の名前も、スイーツはモンブランと、マカロンが好きなことも。

   全部、クリスティーナにとっては、知っていて当然の事だった。でも、フィンセントはそれを知らない·····、その事実が、クリスティーナを一層苦しませるのだった。

「私が·····、他の人を好きになればいいのに·····、どうして、貴方じゃなきゃダメだと思うのかしら·····、後どれくらい時間があれば、貴方を忘れらるれるのかしらね·····フィン·····」

   全てを綺麗に忘れるには、クリスティーナにとっては、フィンセントの存在は大きく、消し難いものだった。

「手紙なんか、送ってこないでよ·····」

   クリスティーナは、フィンセントからの増えていく手紙を、処分する方法が分からなかった。

   こんなもの持っていても、フィンセントとの思い出が·····、存在が·····、より濃く、自分の中に残るだけだと、知っているのに·····

「バカだわ·····私·····」

   クリスティーナは、また一つ、ため息を飲み込んだ。


─────────────────


『フィンセントへ、貴方の幸せを願っています』

   ある日、そう書かれた手紙がフィンセントの元へ届いた。これまでものとは少し違った、手紙にフィンセントは目を丸くする。

   どうしたんだろう·····、と思いながらも、フィンセントは嬉しさでいっぱいだった。

   早速、返事を書こうと部屋へ飛び込み、女の子が喜びそうなレターセットの中から、飛び切り可愛いものを選ぶ。

   それから、数時間を掛け手紙を書き、フィンセントの一番の味方であり、理解者である父上の元へ持っていく。

「父上!  これを、クリスティーナに!」

「!  フィンセント·····」

   しかし、嬉しそうなフィンセントとは、逆に伯爵の様子はおかしかった。

「父上·····?」

   不思議に思い、フィンセントは首を傾げ、どうしたのかと聞く。伯爵は言いずらそうに、フィンセントに教えた。

「実は·····、クリスティーナちゃんが、次の誕生日が終わった後に、婚約するそうなんだ·····」

   その言葉を理解した瞬間·····、フィンセントは先程までの嬉しそうな表情が嘘かとおもうほど、迷い子ような泣きそうな、辛そうな表情へと変わる。


   心臓が痛い·····。苦しい·····。どうして·····クリスティーナが、他の男の子のお嫁さんになるのが、こんなに嫌なんだろう·····。


   友達が、婚約するんだ。それは、嬉しいこと·····のはずなのに·····。

(知らなかった·····)

   フィンセントの心にドロドロとした黒いものが溜まる。自分でもよくわからない感情に、フィンセントの目に薄く涙の膜がはる。


   毎週、毎週、手紙のやり取りをしていたのに·····。婚約なんて、いつの間に決めたんだろう·····。教えてくれても、良かったじゃないか·····。いや、そもそも、僕は、クリスティーナに嫌われてるから、無理だよね·····。

   ·····いいな、その子は。クリスティーナに好かれて·····、いっぱい、一緒に居れて·····。

   そこは、その場所は·····、僕がずっと·····、欲しかった場所なのに·····


「·····父上、それは、いつ決まったんですか·····」

(まだ、間に合うかもしれない·····)

   ぐっと悔しさに両拳を握りしめ、フィンセントは、喉から声を絞り出して聞いた。しかし、帰って来た伯爵の答えに、フィンセントは崩れ落ちた。




「1週間前に·····。クリスティーナちゃんからのお願いだったそうだ·····」




──────────────────
ここまで読んでくれてありがとうございます!
そして、あけましておめでとうございます!
2日連続で投稿出来なかったので、今日、代わりに2話投稿させて頂きました。今後、徐々に不定期になるとは思いますが、落ちは見えてますのでご安心を·····?   ではでは、皆様·····、良いお年を!
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