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ルーア・キャリル伯爵令嬢
世間から醜女と噂される私が恋に落ちたのは 第九話
しおりを挟む初めての告白と交渉。
私は己の思いの丈と願いをルーカスさんにぶつけた。
“好き”だと。たとえあなたの心が手に入らなくとも、良いと。そばにいさせて欲しいと。そして──他の方とは付き合わないでほしいと。
「──お願いします」
最後にそう言って頭を下げた、その時、唖然とするルーカスさんの表情がちらりと見えた。
ドクドクと心臓が嫌な音を立て、嫌な汗が流れる。
もし、ここで断られてしまったらどうしよう・・・。そんな思いが溢れ、ルーアは不安になった。
(やっぱり、醜女が妻なんて嫌、だよね。 気持ちが悪いと、思われているのかしら)
醜女に好意を寄せられたところで、素直に喜ぶ人なんてそうそういないはず。
じわっと目じりに涙が溜まり、ぐっと唇を噛み締め、頭を下げたまま、上げることが出来なかった。
(───やっぱり、愛人の一人くらい許すと言うべきだったかしら・・・)
と、ルーアがそう思った時。ルーカスさんが戸惑っているような表情で、ルーアを安心させるような優しい声を紡ぐ。
「えーと。とりあえず、キャリル伯爵令嬢の言った約束は必ず守ると誓う。 絶対に浮気はしない。 もちろん、君の夫でいるも言うことも。 だから、そんなに怯えなくていい 」
その言葉に、ルーアが思わず顔を上げると、優しい笑顔をルーアに向けるルーカスさんがいた。
「それに、俺はこの短時間で君のことを大変、好ましい女性だと思っている 」
そして続いたその言葉にルーアは自分の耳を疑った。
(・・・・・・え?
い、今! ルーカスさんが! わ、私の、ことをっ!!)
カァーっとルーアの頬が一気に熱を持った。
い、いいえ! ル、ルーア!! 落ち着くのよ!! あ、焦っちゃ、ダメよ! き、ききき、聞き間違いの可能性も!!
真っ赤になった顔を隠すように仮面の上から頬を手で抑える。そして、小さく深呼吸を繰り返し、ちらりとルーカスさんを見る。
「っ、!!!」
その時。目があった気がした。
ルーアは今、仮面を付けている。だから、きっとルーカスさんはルーアがどんな目の色をしてるかも見えていない、はず。だから、これはルーアの勘違いだ。
ルーアはもう一度、深呼吸をし直した。
そして、ルーカスさんが言ってくれた言葉を一言ずつ思い出して、泣きそうになった。
こ、ここ好ましい、なんてっ!!
ルーアは今までそんな事、1度だって言われたことが無かった。
──嬉しい。
ルーアは素直にそう思った。
たとえ、それが彼の本心で無くても、気を使って言った言葉だとしても。
「約束、守って下さいね・・・」
「はい、必ず守ります」
ルーアは結局、ルーカスさんの前で仮面をとる事が出来なかった。
──押し付けた約束に返事をさせたのにも関わらず。
ルーアは、醜女である自分にも優しく接することの出来るルーカスさんの優しさにつけこんだ。
ただ、嫌われたくない。
醜い自分を見られたくない。
その気持ちに従って。
どう足掻こうが、いずれ、仮面を取らねばならぬ時が来ると言うのに。
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