上 下
9 / 10

第八話 案内人は

しおりを挟む

「部屋に、飾る·····?  お花を、ですか·····?」

   「そんなまさか」とでも言いそうな表情でトオルは呟いた。

   何か変なことを言ったかしら·····。トオルの反応の意味がわからなかった私は、わからないなら聞けばいいとトオルに話しかける。

「·····どうしてそんなに驚いているのか知らないけれど、何か思う事があるなら言いなさい。今なら特別に大目に見てあげるわ」

   ほら、早く、とそんな意味を込めた眼差しを向ける。しかしトオルは何も言わない。私はひとつため息を着いて、トオルに言った。

「··········まあ、いいわ。とりあえず早く案内してくれないかしら?」
「··········はい、で、では、こ、こちらへ」


──────────────────

   そう言ってトオルに連れてこられたのは、温室だった。なぜ温室なの?と私が思っていると、トオルの呼び声によって、中年くらいの男性が奥の方からやって来た。

「これは、これは、王女殿下!  本日はどの様な用事でいらっしゃったのでしょうか」

   ゴマすりとはこういう事ね。と、両手を胸の前で擦り合わせながらニコニコと近づいてくる男に、少しだけ感心しながら返事を返した。

「部屋に飾る花を貰いに来たのよ」

   そう言いながら私は、もしかしたらこの人が庭園の管理者なのかもしれないと思い至った。そして、トオルはこの人に許可を貰いにここに来たのだろうと当たりをつけた。

   以前の私なら王城内の事においてわざわざ許可を貰うなんて考えなかったけれど。

「·····(花を)貰っていってもいいかしら?」
「··········、えっ!」

   やや遅れて目の前の男が驚いた声を出す。

「··········なぜ驚くのかしら?」

   私はその声を少しだけ不快に思いながら聞いた。すると、その私の不機嫌さを感じ取ったのか、男は勢いよく首を振った。

「あ、いえいえ!! 失礼。ゴホン!!  なんでもございません。····· お、王女殿下の部屋に飾って下さるとは、花たちも喜びましょう!  ど、どのような花をお望みで?」

「·····それは、見てから決めようと思っているところよ」
「さ、さようで。ではこちらに──」

   そう言って私のことを案内しようとする男の言葉を遮りゆるく首を振る。

「必要ないわ。案内ならトオルに頼んでいるの」
「──は?」

「さ、早く案内してちょうだい。どの花ならとってもいいの?」

   私は何故かポカンとする男を無視してトオルを見た。

「─えっ」
「ん?何?」

   何故トオルも驚いた顔をしてるの?

「お、俺ですか?」
「ええそうよ、最初からそう言っているじゃない?··········それとも、何かできない理由でもあるの?」
「·····いいえ、ありません·····」
「そう。なら、よろしくね」

   そう言って私はトオルに手を差し出した。

「え?」
「早く」
「は?」
「エスコート」
「ん?」
「··········いつまでわたくしを待たせる気なのかしら?」
「え、あ、ん??え、と、あ、は、はい」

   ちょこんとトオルの手が私の手と微かに重なる。私はトオルの手を優しく握って微笑む。

「で、どこにあるの?(貰ってもいいお花は)」
「あっ──」

「──おま、お待ちください!王女殿下!!」

   トオルの声を遮るように先程の禿げた男性が声を上げた。

「·····なにかしら?」

   突然の呼び掛けに私は驚いて男を見た。すると、男は慌てた様子で私に話しかけてきた。

「そ、そこの者は、王女殿下の案内役を務めるのにふさわしく無いかと思われます!」
「·····何故?」
「え、そ、それは」
「それは?」
「ま、まず、申し上げますと、そやつの生まれはっ·····」
「生まれ?  生まれが問題だと言うの?」

   ビクッとトオルの体がはねたのが分かった。繋いだままだった手が離れる。

「え、ええ!ええ!そうです!」

   何故か嬉しそうに頷く男に私は一度首を傾げたがすぐに納得した。確かに以前の私は卑しい出自の者を差別する傾向があった。でも今は──

   一度、トオルに目を向けたあと、男のほうを見る。そしてひとつ頷く。

「そう。それなら問題ないわね」
「はい?」

   私は考えたのだ。この男に案内を任せるかトオルに任せるか。結果、私の前世に影響された美意識がトオルを選んだ。

   トオルは磨けば光る容姿を持った逸材だ。
   私の目と勘がそう言っていた。

   だから、案内されるならトオルがいい。

「貴方、先程からうるさいわね。誰に口を聞いていると思っているのかしら?」
「お、王女殿下」

   驚きをかくせていない男に私はにこりと微笑んだ。

「私の決定に口答えするつもり?」
「い、いいいいえ!!め、滅相もございませんっ!!!」
「そう、良かったわ」

   私は一度離れてしまったトオルの手をとり、強く握った。

「トオル、案内して」

   トオルは俯かせていた顔上げると、何度かパクパクと口を動かし、最後にはしっかりと頷いた。

「──はぃ」

   その声は相変わらず小さい声だったけれど、今度は一度で届いた。

「よろしくね?」

   そう言いながら私は満足げに頷いた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者は醜女だと噂で聞いたことのある令嬢でしたが、俺にとっては絶世の美女でした

朝比奈
恋愛
美醜逆転ものの短編です。 男主人公にチャレンジしてみたくで以前書いたものですが、楽しんでいただければ幸いです。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……? 多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

拝啓、前世の私。今世では美醜逆転世界で男装しながら王子様の護衛騎士をすることになりました

奈風 花
恋愛
双子の兄アイザックの変わりに、王子の学友·····護衛騎士をするように命じられた主人公アイーシャと、美醜逆転世界で絶世の醜男と比喩される、主人公からしたらめっちゃイケかわ王子とのドキドキワクワクな学園生活! に、する予定です。 要約しますと、 男前男装騎士×天使なイケかわ王子のすれ違いラブコメディーです。 注意:男性のみ美醜が逆転しております。 何でも許せる方。お暇なあなた! 宜しければ読んでくれると·····、ついでにお気に入りや感想などをくれると·····、めっちゃ飛び跳ねて喜びますので、どうぞよろしくお願いいたします┏○))ペコリ 作りながら投稿しているので、 投稿は不定期更新となります。 物語の変更があり次第、あらすじが変わる可能性も·····。 こんな初心者作者ですが、頑張って綴って行こうと思うので、皆様、お手柔らかによろしくお願いいたします┏○))ペコリ

何を言われようとこの方々と結婚致します!

おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。 ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。 そんな私にはある秘密があります。 それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。 まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。 前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆! もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。 そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。 16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」 え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。 そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね? ……うん!お断りします! でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし! 自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

処理中です...