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第一章 32歳~
22 闖入者 35歳
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大志が実家になんとなく帰省して夕食をとっている時だった。
「3家族で顔を合わせるというのはどうなんだ。」
父親の提案に、大志は目を丸くした。
「結婚は当事者同士、個人の自由?そうかもしれない。だが、今回ばかりはそうも言ってられないだろう。」
母親が用意してくれた、体に良さそうなおかず(普段大志が作らないであろうと配慮したものーーー)をゴクンと飲み下し、大志は笑った。
「配慮してくれてありがとう。」
「俺が気に入らないのは、お前が決めつけで俺や母さんを見ていることだ。蓮くんと紗栄子さんの子供達を受け入れなくても仕方ないとか。」
母さんよりもあなたが心配ですーーーという本音を今言うのは得策ではないなと大志は思う。
「決めつけるというか、それこそ配慮したつもりだけど。」
「受け入れるかどうかは我々より、青山さんと川原さんのご家族だろう。…あんなに幼くて可愛い子供達に、我々が祖父母のような顔をするかもしれない。川原さんはまだいい。紗栄子さんの親だからな。でも青山さんは?知らないところで自分達の孫が育っていくことへの懸念がおありでも不思議じゃない。」
“あんなに幼くて可愛い子供達”。
やっぱりこの間子供達を見せようと思ったのは正解だった、と大志は感じた。ダメ押しの瑛のアシストは最高だったし。
「じゃあ、うちにお招きしたらどうかしら。」
張り切った様子で、大志の母が言った。
「それはいい提案だけど、川原のお母さんと青山のお母さんとでおもてなし役の取り合いになるね。絶対に。…市内のホテルOの個室あたりが無難じゃないかな。」
「日程調整と予約は頼んだ。」
母親は不満げだが、男達の意見を覆すことは難しいと悟ったようだった。
※
大志が紗栄子達を連れてホテルOに着くと、すでに3家族の親達はホテルのロビーに着いていた。
「わあ~じいじとばあば~。」
「遅れてすみません。」
「A市から来たんだもの、仕方ないわよ。」
「年配者は気が早いから早く集まっちゃうのよ。」
大志としては、3家族が揃う前に着いていたかった。どんな風に挨拶するのか見ていたかったし、場合によっては会話内容の誘導もしたかった。
「大志くんのお父さん、お母さん、こんにちは。」
誰に言われるでもなく、瑛が工藤夫妻の方に進み出た。こういうところが本当に聡明で、大志は誇らしくなる。
「こんにちはぁ。」
何かにつけ兄の真似をしたがる奏もあとに続くので仕上げはバッチリだ。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
予約した個室に入って、どう座るか決めるのに少しゴタゴタしたが、どうにか落ち着いた。
「ママ、ジュース飲んでいい?」
「一杯だけよ。」
「ええ~。」
それぞれの飲み物とお弁当タイプの食事が運ばれてきた。
「あれ、ひとつ多い?」
よく見れば座席がそもそもひとつ多い。
「紗栄子ちゃん。」
戸惑う紗栄子に声をかけたのは蓮の母だ。
「うちだけ子供がいないのもバランスが悪いかと思ってピンチヒッターを呼ばせてもらったの。」
「ピンチヒッター?」
カチャリと音がして、個室の扉が開いた。
「え!?パパ!?」
「パパ!?」
侵入してきたのは、蓮の写真を使った、ペラペラのお面をつけた男だった。
「どうも、蓮のピンチヒッターです。」
声を聞くなり正体がわかった大志はハハッと笑ったが、紗栄子は血相変えて走り寄り…侵入者の肩をグーで叩いた…。
「いったぁ…。」
「ピンチヒッターです、じゃないわよ!こんなとこまで来て何やってんの!?」
一発では気が済まないのか、紗栄子はポカポカと肩や腕や胸を叩いた。
「ちょ、痛いって。」
お面を外して顔を出したのは、なんと友人の拓海だったのだ。
すると申し訳なさそうに蓮の母が切り出した。
「ああ~、拓海くんも紗栄子ちゃんもごめんなさい。私が悪いの。今度こういうことがあるのよって拓海くんに報告させてもらって…。」
「じゃあ僕がその場に行って場を盛り上げますよとか言ったんでしょう!この人そういう人だから!お母さんが来てくれって頼んだんじゃないんでしょ…。」
叫んでいたのが、次第に声がかすれだし、紗栄子は床にへたり込んだ。
「パパの写真だ~。」
「おもしろ~い。」
子供達がはしゃいでいる横で、紗栄子は泣き出していた。
「ごめん、ごめん。泣くとは思わなくて。」
「蓮の顔写真使うなんて、趣味が、悪すぎる…。心臓が止まるかと思った…。」
「立てる?」
「腰が抜けた…。」
苦笑いのまま、近づいてきた大志が紗栄子を抱き上げた。
「うわあ!いいわよ。」
「腰が抜けたんだろ。大人しくしてろって。」
そう言って元いた席に座らせる。と、誰かがぶははははと笑い出した。大志の父だ。
「相変わらず面白いなあ、拓海くんは。」
つられるように、紗栄子の父も笑い出した。
「こんな場面でそんな悪ふざけ、なかなかできないよ。」
「いや~、それほどでもないです。」
頭をかいて照れて見せる拓海に、大志の父と紗栄子の父が言い放つ。
「「いや~、君が、」」
「紗栄子の相手じゃなくて」
「息子じゃなくて」
「「良かったなぁ~」」
※
「なんでわざわざ東京から来て殴られたりディスられたりしないといけないんだよ。」
「こ、ん、な、変なことするからでしょ。」
紗栄子は蓮のお面をパシパシとテーブルに叩きつけた。
「自費で日帰りだぞ。自分の実家にも行ってないんだぞ。」
「これから寄ればいいでしょ。」
「ガツガツ食うなよ、大志のお母さんめっちゃ見てるぞ。」
ハッとして紗栄子は口元をおさえた。大志の母は嬉しそうに笑っている。
「ごめんなさいね。紗栄子さんの慌てた顔見て安心しちゃった。」
「え?」
「紗栄子さん、うちに来るとすごく緊張してるし。テレビ画面ではいつも冷静だし。そっちはまあ、お仕事だけど。人間味溢れるところが見られて良かったわ。」
紗栄子はなんとも言えない顔をした。
「俺、めっちゃ役に立ってんじゃん。」
「自分で言わないで。」
「役に立ったよ。」
肘をついて、大志が拓海と紗栄子を振り返る。
「めっちゃ役に立った。ありがとう。」
大志が視線をうつすと、その先では3家族の親達がにこやかに喋っている。
ニヤリと笑って拓海は豪快に弁当を頬張った。
「3家族で顔を合わせるというのはどうなんだ。」
父親の提案に、大志は目を丸くした。
「結婚は当事者同士、個人の自由?そうかもしれない。だが、今回ばかりはそうも言ってられないだろう。」
母親が用意してくれた、体に良さそうなおかず(普段大志が作らないであろうと配慮したものーーー)をゴクンと飲み下し、大志は笑った。
「配慮してくれてありがとう。」
「俺が気に入らないのは、お前が決めつけで俺や母さんを見ていることだ。蓮くんと紗栄子さんの子供達を受け入れなくても仕方ないとか。」
母さんよりもあなたが心配ですーーーという本音を今言うのは得策ではないなと大志は思う。
「決めつけるというか、それこそ配慮したつもりだけど。」
「受け入れるかどうかは我々より、青山さんと川原さんのご家族だろう。…あんなに幼くて可愛い子供達に、我々が祖父母のような顔をするかもしれない。川原さんはまだいい。紗栄子さんの親だからな。でも青山さんは?知らないところで自分達の孫が育っていくことへの懸念がおありでも不思議じゃない。」
“あんなに幼くて可愛い子供達”。
やっぱりこの間子供達を見せようと思ったのは正解だった、と大志は感じた。ダメ押しの瑛のアシストは最高だったし。
「じゃあ、うちにお招きしたらどうかしら。」
張り切った様子で、大志の母が言った。
「それはいい提案だけど、川原のお母さんと青山のお母さんとでおもてなし役の取り合いになるね。絶対に。…市内のホテルOの個室あたりが無難じゃないかな。」
「日程調整と予約は頼んだ。」
母親は不満げだが、男達の意見を覆すことは難しいと悟ったようだった。
※
大志が紗栄子達を連れてホテルOに着くと、すでに3家族の親達はホテルのロビーに着いていた。
「わあ~じいじとばあば~。」
「遅れてすみません。」
「A市から来たんだもの、仕方ないわよ。」
「年配者は気が早いから早く集まっちゃうのよ。」
大志としては、3家族が揃う前に着いていたかった。どんな風に挨拶するのか見ていたかったし、場合によっては会話内容の誘導もしたかった。
「大志くんのお父さん、お母さん、こんにちは。」
誰に言われるでもなく、瑛が工藤夫妻の方に進み出た。こういうところが本当に聡明で、大志は誇らしくなる。
「こんにちはぁ。」
何かにつけ兄の真似をしたがる奏もあとに続くので仕上げはバッチリだ。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
予約した個室に入って、どう座るか決めるのに少しゴタゴタしたが、どうにか落ち着いた。
「ママ、ジュース飲んでいい?」
「一杯だけよ。」
「ええ~。」
それぞれの飲み物とお弁当タイプの食事が運ばれてきた。
「あれ、ひとつ多い?」
よく見れば座席がそもそもひとつ多い。
「紗栄子ちゃん。」
戸惑う紗栄子に声をかけたのは蓮の母だ。
「うちだけ子供がいないのもバランスが悪いかと思ってピンチヒッターを呼ばせてもらったの。」
「ピンチヒッター?」
カチャリと音がして、個室の扉が開いた。
「え!?パパ!?」
「パパ!?」
侵入してきたのは、蓮の写真を使った、ペラペラのお面をつけた男だった。
「どうも、蓮のピンチヒッターです。」
声を聞くなり正体がわかった大志はハハッと笑ったが、紗栄子は血相変えて走り寄り…侵入者の肩をグーで叩いた…。
「いったぁ…。」
「ピンチヒッターです、じゃないわよ!こんなとこまで来て何やってんの!?」
一発では気が済まないのか、紗栄子はポカポカと肩や腕や胸を叩いた。
「ちょ、痛いって。」
お面を外して顔を出したのは、なんと友人の拓海だったのだ。
すると申し訳なさそうに蓮の母が切り出した。
「ああ~、拓海くんも紗栄子ちゃんもごめんなさい。私が悪いの。今度こういうことがあるのよって拓海くんに報告させてもらって…。」
「じゃあ僕がその場に行って場を盛り上げますよとか言ったんでしょう!この人そういう人だから!お母さんが来てくれって頼んだんじゃないんでしょ…。」
叫んでいたのが、次第に声がかすれだし、紗栄子は床にへたり込んだ。
「パパの写真だ~。」
「おもしろ~い。」
子供達がはしゃいでいる横で、紗栄子は泣き出していた。
「ごめん、ごめん。泣くとは思わなくて。」
「蓮の顔写真使うなんて、趣味が、悪すぎる…。心臓が止まるかと思った…。」
「立てる?」
「腰が抜けた…。」
苦笑いのまま、近づいてきた大志が紗栄子を抱き上げた。
「うわあ!いいわよ。」
「腰が抜けたんだろ。大人しくしてろって。」
そう言って元いた席に座らせる。と、誰かがぶははははと笑い出した。大志の父だ。
「相変わらず面白いなあ、拓海くんは。」
つられるように、紗栄子の父も笑い出した。
「こんな場面でそんな悪ふざけ、なかなかできないよ。」
「いや~、それほどでもないです。」
頭をかいて照れて見せる拓海に、大志の父と紗栄子の父が言い放つ。
「「いや~、君が、」」
「紗栄子の相手じゃなくて」
「息子じゃなくて」
「「良かったなぁ~」」
※
「なんでわざわざ東京から来て殴られたりディスられたりしないといけないんだよ。」
「こ、ん、な、変なことするからでしょ。」
紗栄子は蓮のお面をパシパシとテーブルに叩きつけた。
「自費で日帰りだぞ。自分の実家にも行ってないんだぞ。」
「これから寄ればいいでしょ。」
「ガツガツ食うなよ、大志のお母さんめっちゃ見てるぞ。」
ハッとして紗栄子は口元をおさえた。大志の母は嬉しそうに笑っている。
「ごめんなさいね。紗栄子さんの慌てた顔見て安心しちゃった。」
「え?」
「紗栄子さん、うちに来るとすごく緊張してるし。テレビ画面ではいつも冷静だし。そっちはまあ、お仕事だけど。人間味溢れるところが見られて良かったわ。」
紗栄子はなんとも言えない顔をした。
「俺、めっちゃ役に立ってんじゃん。」
「自分で言わないで。」
「役に立ったよ。」
肘をついて、大志が拓海と紗栄子を振り返る。
「めっちゃ役に立った。ありがとう。」
大志が視線をうつすと、その先では3家族の親達がにこやかに喋っている。
ニヤリと笑って拓海は豪快に弁当を頬張った。
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