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第一章 32歳~

20 あいさつ④ 35歳

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 大志の両親には後部座席に乗ってもらった。車内には両親が好きな音楽が流れている。子供たちを乗せていた時は戦隊モノDVDを流していたのに。大志は用意周到だ。
 公園には程なく着き、子供たちが見えるけれど車はあまり目立たない位置に駐車をした。
「いた。」
 紗栄子とのやり取りなどおくびにもださず、蓮の両親は子供たちと遊んでいる。
「見える?」
「そう…ね…。ちょっと遠いけど。」
 すると、こちら側にいる瑛が偶然振り返った。大志の車を視界にとらえて、蓮によく似た笑顔でにっこりと笑った。
 ———わかってるよ、と言いたげに。
「あーっ!大志くんの車だ!」
 瑛はわざとらしく大きな声を上げて大志の車を指さした。気づいて、大志はほくそ笑んでいる。普段はそんなことをする子じゃない。
 ———さすが、蓮の子だよ。
 兄の声を聞いて、素直に奏が振り返る。
「ほんとだ!大志くんのかっこいい車だ!」
 ふーっと大志の父のため息が聞こえてきた。
「やってくれたなあ、お前。」
「俺は何も。気づかれちゃいましたね。蓮のご両親には昔からお世話になってるんで、今回のことはともかく、挨拶してくれませんか。」
 駆け寄ってくる子供たちを追いかけてくる蓮の両親の顔には焦りの表情が滲んでいる。こうなるとは予想していなかったのだろう。
 子供たちはあっという間に大志の車のところまで来てしまう。
「大志くん、迎えに来てくれたのぉ?」
「奏、違うよ。…こんにちは。」
 瑛はお利口な顔で大志の両親に挨拶をした。
「ほら、奏もこんにちはして。」
「こんにち…はっ!」
 挨拶しながら、奏は大好きな戦隊ヒーローのポーズをとった。
「ちょっと、ちゃんと立ってこんにちはって言いなさい。」
 紗栄子が目線を合わせるようにしゃがみこんで奏をいさめていると、大志の母のため息が降ってきた。
「蓮くんにそっくり…。」
 大志の母にとって、蓮や拓海といった大志の友人達は懐かしい存在だ。
 おずおずと、青山の両親が近づいてくる。
「工藤さん、その節は蓮の葬儀にご参列いただいてありがとうございました。」
「いえそんな、本当に大変でしたね。」
「いえいえ、子供二人抱えながら立派な仕事をしている紗栄子ちゃんに比べたら、私たち夫婦の労力なんて小さいものです。大志くん、ご立派になられましたね。」
「いえいえ、恐れ入ります。」
「子供達も大志くんのことが大好きなんですよ。大志くん、蓮の生前からよく遊びに来てくれて…。今日は大志くんの話ばっかりでした。」
「そう…ですか…。」
「うん!僕、大志くん大好き!お父さんになってくれるの嬉しい!」
「奏―…。」
 爆弾発言に冷や冷やしている紗栄子が奏を抱っこしようとすると、大志の方に逃げていった。
「大志くんが一番背が大きいもんね。大志くんの抱っこがいい!」
「はいよ。」
 慣れた調子で大志がひょいっと抱っこした。そのまま工藤の両親を振り返る。
「父さんや母さんから見たら違和感ばかりかもしれないけど。今はこういう風にしてるのが幸せなんだ。」
 みんなの間を、風がザーッと吹き抜ける。
「大志くん、あれ、がっこう?しょうがっこう?」
 奏が短い腕を、小さな指を、精一杯伸ばしている。
「あれは高校。瑛が行ってるのが小学校だろ?その次が中学校で、次が高校。奏のパパとー、ママとー、大志くんが仲良くなった場所だよ。」
「じゃあ、宝物のばしょだね!」
 紗栄子がぽろぽろと泣き出して、奏を抱っこする大志に駆け寄った。蓮の母も、大志の母も涙ぐんでいる。
 しばらくして、いったん別れることになった。そのまま大志と一緒にいたい奏は大層不服そうだ。
 車内に戻って、大志の母が感慨深げに呟いた。
「…大変だけど、可愛いころねえ。大志が小さい頃のこと、思い出しちゃったわ。」
「大志さん、あんなに利かん坊でした?」
「すごかったわよ。」
「大志。」
 女性陣のあたたかな会話を遮って大志の父が口を開いた。
「自分の子供を育てるのだって大変なんだ。ましてや他人様の子供だなんて、責任重大なんだぞ。そもそもお前はひどく忙しい仕事をしている。よく肝に銘じておきなさい。」
「……はい。」
 自分こそ仕事にかまけて子供の世話なんてろくにしなかったくせに、と大志は思ったが、言わないことにしてしおらしく返事をした。



 A市への帰宅途中に奏はチャイルドシートの上で早々に眠ってしまった。よっぽど楽しく、そして疲れてしまったのだろう。
「まあ、あれが父なりの承諾ってとこかな。」
「そうなのかな…そうだといいな。」
 大志がバックミラーで後部座席を見ると、瑛と目が合った。瑛は蓮によく似た顔でにやりと笑っている。
「ていうか、大志と瑛で打ち合わせでもしてるのかと思った。びっくりしちゃったわ。」
「してない、してない。瑛が、天才。」
「ウチアワセってなーに?」
「んー、作戦ってとこかな。瑛と奏を大志くんの両親に気に入ってもらおう作戦。」
「作戦かあ。作戦なんてないよ。ああした方がいいのかなって思っただけ。」
「天才だな。瑛も寝ていいんだぞ。着いたら起こすから。」
「うん…。大志くん、ありがとう。」
「どういたしまして。瑛こそありがとう。」
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