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戦後編・選択の時代

戦後編・選択の時代・参・第90章・小さな希望

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戦後世界中で一番支援が少ないのは北中国

北中国沿岸に多くの難民が居た

穴だらけのビニールテントに

傘を差して雨をしのいでいた

連合軍が運んで来る

配給だけでは

とても足りず

たとえ汚染されていようと

岸壁で釣竿にミミズや青虫を付け

魚を釣り

母親や妹弟に食べさせ

不足する食料の足しにしていた

港に輸送船が接岸すると

多くの難民は荷物を降ろす

人夫として働いた

少年の名はヨウ

父親は戦争で左手が不自由だが

日雇い労働者をしていたが

左手を使えない為

日当も安く

父親の収入だけでは

病弱の母親と妹や弟

一家6人は食べて行けない

配給は隣町で行なわれていた

ヨウが半日かけて歩いて受け取っていた

巡回医師が来た時は

母親を背中に担いで

何キロも歩き

医者に見せた

その日は妹と弟がお腹すいたと言うが

母親を巡回医師に見せる為に

帰ったら魚を釣りに行く約束をして

母親を数キロ先まで担いで歩いた

診察の後ヨウは一人呼ばれ

巡回医者センに言われた

「汚染されている

魚を食べ続けた結果

母親は重症で余命僅かだ」と宣告される

「家族で他に魚を食べている

者は居るのか」と聞かれ

『妹と弟に食べさせている』と答える

医師は「今直ぐ魚を食べる事を辞めないと

君の家族は死んでしまう」と忠告される

『でも父の稼ぎだけでは

家族が食べられません』

医師は一枚の紙をヨウに渡す

「今連合軍は輸送車両の運転手を募集している

給料かなりの高額だ

年齢も免許もいらない

一月の研修期間を過ぎて

認められたら

家族を呼び寄せる事も可能だ

その気が在ったら私の所に来ると良い

推薦状を書いてあげる」

ヨウは『自分には紹介状を書いて貰っても

お礼が出来ない』と言うと

医師は大笑いをして

ヨウの肩に手を置き

「金儲けをしたいなら

食料を供給されるだけで

給料が出ないボランティアなどしないよ」

帰り道母にその事を伝えると

(いつも苦労を掛けてごめんね

一月位なら何とでもなるわ

がんばって)と言ってくれた

父親は【すまん俺の左手が動いたら

お前に苦労させず学校にも行かせる事が

出来たのに】

『父さん俺がいない間

母さん達を頼む

研修期間が終ったら必ず

迎えに来る』

わが子の成長した姿に

両親は涙した

ヨウは推薦状を手に

迎えに来た連合軍のトラックの

荷台に載り旅立つ

昼間はトラックの助手として働き

夜は自動車研修所で実技と学科を学び

殆どの者が落第すると言われる

一ヶ月の研修コースを見事に合格

正式に連合軍の『軍属』として採用された

ヨウは休暇をもらい

軍用車を借りて

家族が待つ難民キャンプに戻って来た

だがテントには家族は居なかった

そこで待っていたのは

巡回医師セン

「ヨウ聞いたぞ1ヶ月で難関の

研修コースを無事合格したと」

『ありがとうございます

先生が推薦状を書いてくれたお陰です

母や妹達の姿が見えないのですが』

「今は此処には居ないんだ

案内する付いて来てくれ」

巡回医師センに付いて行くヨウ

センが立ち止まった場所には

AD2025

トウ・リー

ミャン・リー

永眠すると書かれた

墓標が・・・

セン医師は淡々と話す

「親父さんは

不発弾処理の仕事中に

爆発事故で亡くなった

そのショックで君の母親の

病状が悪化した

危篤状態の中

ヨウには知らせないでくれと

苦しい息の中で懇願された」

〈今私の病状を知れば

何もかも捨てて帰って来る

今あの子は人生で一番大事な時期

あの子には希望に満ちた未来をあげたい〉

「分かった約束する」

〈ありがとう先生・・・〉

「まもなく君の母親は

安らかな笑顔を浮かべ亡くなった」

ヨウは両親が眠る墓標の前で

泣き続けた

ヨウはハッと我に返り

『先生妹と弟は今何処に?』

「安心せい

二人は生きている

お前さんが軍属に成ったと聞いて

知り合いが居る軍病院に入院させた」

『入院?』

「お前さんの母親と同じ

汚染された魚を食べていたので

病状が進んでいたが

幸い今治療すれば治るそうだ

お前さんが軍属になれたから

軍病院にさせる事が出来た

お前さんの母親の判断は正しかった

母親の最後を見とれなかったが

この一月の努力は決して

無駄じゃ無い」

家族の僅かな荷物を積み込み

キャンプを離れようとする

ヨウの前に一人の少年が現れた

〔僕もヨウさんの様に

軍属に成り家族を助けたい

これで紹介状を書いて下さい〕

少年の手には苦労しながら

少しずつ集めたと思われる

ドルと円の小額紙幣が握られていた

ヨウも以前は少年と同じ様に

家族の為に金を集めていた

「推薦状は3ヶ月に一度しか書けない

ワシはお前さんを推薦したから

この子を今推薦出来るのは

お前さんだけじゃ」

セン医師はそう言い

ヨウの肩に手を置いた

ヨウは少年を見て話し始める

『必ず軍属に成れる訳ではない

一月で合格するのは百人に一人

殆どの者は半年は掛かる

それでも合格出来なければ

放り出される

どんなに遠くの基地に居ようとも

このキャンプまで歩いて帰る事に成る

それでも良いのか?』

少年はヨウに頷く

『分かった推薦状を書こう』

少年と家族は抱き合い喜ぶ

『その金は要らない』

〔どうして?〕

『俺も推薦状をダダで書いて貰った

受け取る事は出来ん

これから行く連合軍は

袖の下が通用しない日本軍だ

礼儀と実力だけが認められる』

呆気に取られる少年に

『半年間衣食住は保障される

その金は家族に残してやれ』

〔はい!〕

目を輝かせ少年は答える

戦争で何もかも無くしたと思われた

難民キャンプに小さな希望が生まれた
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