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退っ引きならない事情にて!

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◇◇◇

お休みが終わって月曜日!
しっかり休んで元気になった俺は、いつもどおりひなたちゃんとオマケの響介と一緒に楽しく登校したんだけど──

「あ…」
「どうした…って、お前、指っ!」
「み、みつくん、血がっ!」

上履きを出そうとしたら指を切っちゃった。
気づいたふたりがあわてて俺のほうへよってくる。

「ザックリいってんねぇ~」
「なにのんきに言ってんだお前は!」

わぉ、響介にスッゴいいきおいで怒られちゃった。
のんきっていうか、ビックリしすぎて反応できてないだけなんだけどなぁ~。

「きょ、響介くん、怒るより保健室にっ」
「っ、そうだな。行くぞ、みつ!」
「はぁ~い」

とりあえず傷口をハンカチで押さえて保健室に向かう。
だけど保健の先生がいなくて、響介がブツブツいいながらも手当てしてくれた。

…どうせならひなたちゃんにしてほしかったなぁ~。
朝から怒られたくないからいわないけどね♪

「みつくん、どうしてこんなことに…」
「この傷口は刃物だろ。どうしたんだ?」
「えっと、上履きをね──」

ふたりに聞かれてなにがあったか話しはじめたんだけど、途中で保健室の扉がものスゴいいきおいで開いた。
ビックリして一斉に扉のほうを見ると、ソコには──

「みっ、みつ君、怪我したって…っ!」

肩で息をしながら瞳を潤ませて心配そうにする弥尋先輩がいた。

「弥尋先輩…」

スゴいいきおいだったから呆然としちゃって答えられずにいると、つづいて人が入ってくる。

「弥尋…走る、の…早いよぉ…」
「あ、舞人先輩」

うわ、舞人先輩フラフラしちゃってるよ;
大丈夫かな?

「舞人が遅いんだよ!」
「なっ!」
「や、弥尋先輩ι」

あいかわらずなふたりだね;
まさかこのままケンカ勃発ってコトにはならないよ、ね?

「そんなことより、怪我ってどうしたの?!」
「そうだった。大丈夫?」

よかった、ならなかったよぉ。
ちょっとヒヤヒヤしちゃった。

「あ、大丈夫です! 指切っちゃっただけなんで」
「指を切った!?」
「なんでそんなことに!?」

うわぉ、ふたりともすごいいきおい。

それだけ心配してくれてるってコトなんだろうけど…
詰めよられすぎて後ろに倒れそうです;

「ま、まぁ、落ちついてください先輩方」
「あ…ご、ごめんみつ君;」
「ボクもごめん。指切るなんておどろいちゃって…」

ふたりは俺の言葉に冷静になったのか、すぐに離れてくれた。

ふぅ、危なかったよぉ。

「いえ、落ちついてくれればそれでいいです。気にしないでください♪」
「ありがとう…それで、指を切ったってどうしてそうなったの?」

弥尋先輩が真面目な顔をして聞いてくる。

そういえば、響介たちに話してた途中だったな。
なら一緒に聞いてもらえばいっか。

「その…上履きを取ろうとしたら、そのままスパッといっちゃいました」
「上履きを取ろうとしたらって…まさか、なにか仕込まれてたってこと!?」

話を聞いた弥尋先輩はおどろいたように声を荒らげる。

悲しいけど、そうなんだよね…
いくらなんでも、上履きで指切るわけないんだから。

「そう、ですね…たぶん、カッターとかカミソリの刃だと──「カミソリだ、揚羽」
「え? あ、不良くん!」

突然話に入ってきた声にビックリして振りむくと、開けっぱなしの入り口に不良くんがいた。

「上履きの内側に、何枚か仕掛けてあった」
「何枚もって…そんな、酷い…」
「だれがそんな悪質なことを…」

弥尋先輩とひなたちゃんがまるで自分のコトみたいにツラそうにしてる。

俺のコトを思ってくれるのは嬉しいけど、ふたりにそんな顔させちゃうのはイヤだなぁ。

「弥尋先輩、そんな顔しないでください。ひなたちゃんも、ね? 俺は大丈夫ですから!」
「みつくん…」
「でも…」

ツラそうな顔をこれ以上させたくなくて声をかけるけど、あまり効果はなかったみたい。

うーん、どうしよう;

「ひなた、笑え。先輩も笑ってください」
「え?」
「響介、くん?」

どうしたらふたりとも元気になってくれるか考えてたら、響介がいきなりあいだに入ってきた。

「ふたりがそんな顔してたらコイツも辛くなる…だから、笑っててください」
「響介…」

静かにしてると思ったら、こんなトコで出てくるなんて…
まったく、カッコつけすぎだよ。

「響介の言うとおり! ふたりがそんな顔してたら悲しいですから…可愛い笑顔、見せてください」
「みつくん…うん!」
「わかったよ、みつ君」

ふたりはそう言って、やっと笑顔を見せてくれた。

うん、やっぱり笑ってるのが1番だね!

俺は笑顔になったふたりを見て、ホッと胸を撫でおろす。
響介のおかげで助かったけど──

「…響介のバーカ」

ありがとうなんていってやらない。

「俺がバカならお前は大バカだな」
「ソレはないね。俺、響介よりも頭いいし」
「なっ、お前な…!」

かわりにいつもみたいに他愛のない言いあいをする。

「だってホントのコトだも~ん♪」
「まぁまぁ、みつくんも響介くんも落ちついて」
「お前ら、くだらねぇことで言いあうなよ…」
「いいじゃん、風紀委員君。仲がいい証拠だよ」

そのおかげか、暗くなってた雰囲気が明るくなった。

うん、いい感じ。
すっかりいつもどおりだね!

でもひとりだけ、顔色がすぐれない人が──

「……」
「舞人先輩、顔色悪いですよ? 大丈夫ですか?」

心配になって声をかける。

途中から話にも入ってこなくなったし、どうしたんだろう?

「あ…いや…他の親衛隊やファンクラブに話をつけたのがボクだったから、動揺しただけだよ。大丈夫」
「そう、ですか。あの、舞人先輩。先輩が悪いわけじゃないんですから気にしないでくださいね」
「う、ん…ありがと、みつクン」

悪いのはこんなコトした人なんだから!

「でも、一番考えられるのは他からの制裁とかだよね」
「…そうだね」

先輩たちは真面目な顔をして話しはじめた。
そこに不良くんがぎこちなく進んでく。

どうしたんだろ?

「そこらへんの話も、聞きたいんで…先輩、方は…来てもらえます、か?」
「あ、うん」
「わかったよ」

わ~、不良君さっきまで普通に喋れてたのにスッゴいドモってるよ。
前もこんなコトあったよね?

「なんだ揚羽」

なぁんか気になって不良くんをジッと見てたら、警戒するみたいにコッチを見てきた。

「ん~、なにかなぁ~」

俺に話すときと先輩たちに話すときの態度が違いすぎると思うんだよねぇ。

あ、もしかして…
先輩たちのどっちかが好きとか!?

それならあの態度も納得できるよ!
コレはぜひとも確認しなくちゃっ!

「ねぇねぇ、不良くん──」
「だからなんだ」

睨んでくる不良くんに近づいてコッソリ聞いてみる。

「強気な弥尋先輩とあざと可愛い舞人先輩…どっちが好きなの?」
「は…?」

お、そのポカンとした顔、無防備でイイねぇ。
イタズラ心が刺激されるよぉ~。

…よし、イタズラしちゃえ!

耳元で囁きながら──

「でも不良くんはぁ、ネコのほうが似合うと思うな♪」

胸をギュッとね!

「…っ」

あ、不良君の身体がビクッて跳ねた。
でも残念、声は出なかったかぁ~。

名残惜しくて胸を撫でてると真っ赤になった不良くんと目が合った。

「お、前は…すこしは大人しくしてろーっ!!」
「いったぁ~いっ!!」

おもいっきり頭叩かれたー!

これは絶対手加減ナシだよぅ。
うぅ、めちゃくちゃ痛い;

「俺はもう行くぞっ!!」

あ~、不良くんが行っちゃう~。
もうちょっとからかって遊びたかったのにぃ~。

「み、みつくん…;」
「えっ、な、なに!?」
「見えなかったんだけど、どうしたの!?」
「あー…気にしないで先輩方も行ってください。あれはあいつの病気みたいなもんですから」
「ちょっと響介ぇ…」

病気ってなんだよ、病気ってぇ~。

「あ、えと、大丈夫、なの?」
「すごい剣幕だったよ…?」
「大丈夫です、気にしないでくださ~い。病気とかでもないんでぇ~」
「…っ!」
「そ、う? じゃあみつ君、僕たちは風紀と話してくるから。犯人がわかるまで気をつけてね?」
「なにかわかったら、知らせにいくから…」
「はい、わかりましたぁ」

先輩たちは不良くんのあとを追って、パタパタと保健室から出てった。
俺は笑顔で手を降ってふたりを見送る。

「みつ、見送ってるとこ悪いが──」

そんな俺に、響介がかたい声で話しかけてきた。
どんな話か見当はつくけど、素知らぬ声で返事をする。

「なぁに?響介」
「俺の足、おもいっきり踏んでる」

やっぱりね。
まったく、響介ったらなに言ってんの?

「わざと踏んでるんだよ」
「わざと踏むな!…たくっ」

あ、逃げられた。

「話もおわったし、教室行くぞ」
「そうだ、俺も生徒会室行かなきゃ!」

遅れたら副会長になにされるかわかんないよ;
早く行かなきゃっ!

「じゃあふたりとも、またお昼ご飯に!」
「あっ、うん。生徒会、頑張ってね?」
「ん、頑張るよぉ。じゃあねぇ~」

よし、じゃあ生徒会室に──

「待て、みつ」

って、響介に止められちゃった。

なんだろって思って振りかえったら、ドコか探るような目をした響介と目が合った。

まったく、そういうコトか…
俺の幼なじみは心配性だねぇ。

「なぁに?」
「…いや、なんでもない」

視線を合わせて数秒。
なんでもないように聞きかえすと素っ気ない答えがかえってきた。

「あそ、ならいいや。それじゃあバイバ~イ」

大丈夫だよ、響介。
あのときより、俺は強くなったから。




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