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1、二人の秘密
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去る西暦二三八四年、人類は公に初の宇宙人との接触を果たした。
しかしそれは一見友好的に見せかけた、侵略に他ならなかった。にこやかに、まるで自分が地球の代表者であるかのように握手をかわす大国の大統領。そして伸ばすその手の先には、見目美しいヒトガタの宇宙人。この宇宙人を地球ではブリュンヒルデ王女と呼んでいる。彼女は金星から訪れた、地球より発達した文明と科学技術を持った生命体だった。
当時金星では人口が爆発したため、新たな移住地を検討していた。その際目をつけたのが同じ太陽系で距離も近い地球だったという。彼らはその高い技術であっという間に地球の環境に適応し、移民が開始された。
というのが世界史の教科書に載っている史実である。
それから二百年余り。今や街頭で金星人を見ることも珍しくなくなった。
テスト前の自習にも疲れ、つまらなそうな表情を浮かべながらあくびをひとつ。高校生の逢瀬真都は教科書に付箋を貼って閉じた。
「二百年経っても、人間は進歩しないのですね……」
金星人がまるで元から居たもののように、堂々と外を歩いている現状に違和感を持たないことを、彼女は不思議に思っていた。
これは人類が降伏した結果なのだろう。そう考えていた。
名家のお嬢様育ちの真都は地元の名門女子高校に通っている。生徒の中でも成績優秀で、生徒会長という肩書きを持っている。しかし彼女には皆に秘密にしていることがあった。
「男性が大嫌い」
物心ついた頃には男性と接触すると過呼吸が止まらない体質だった。唯一の例外は父親だけ。他はどんなに見た目が女性に近くても、小さい子供でも手やら肌に触れられると途端に息が苦しくなる。
そんな体質の彼女は筋金入りの男嫌いに育ってしまった。とにかく解決方法を見つけるまで男性から引き剥がすしかない、そう考えて両親は祖母が運営していた全寮制の女子校へ進学させた。
予習を終えた真都が自室でくつろいでいると、ケータイへ着信があった。普段はアメリカで不動産会社の社長をしている母からだった。
「真都、今週末自宅へ帰ってきなさい」
「え?」
「私もちょうど休みが取れてね、日本に一時帰国出来ることになったの。一年ぶりに会えるわ」
「わかりました。では外泊許可を取っておきます」
「あとあなたに素敵なプレゼントがあるから楽しみにしてて」
真都の母はサプライズ好きな性格で、会うときは何かと計画を立ててくる。
「犬か猫でも連れてくるのでしょうか……いいえ、でも、寮では飼えませんね」
真都も久しぶりに母に会うのが楽しみだった。
週末の土曜日。
真都は港区にある自宅へ戻った。母はまだ到着してなかったので、しばし庭を散歩をすることにした。
庭の隅には一本の桜の大木がある。真都は幼い頃よくその枝に乗って遊んでいた。やんちゃで木登りは得意だった。
「懐かしいですね……まだ登れるでしょうか」
独り言を呟いたとき、後ろから声がした。
「止めておけ、また降りれなくなるぞ」
振り返ると、どこか見覚えがある青年が立っていた。
緑と赤のツートンカラーのセミロングの髪に、苺のような赤い瞳。思わず見とれるほど整った中性的な顔立ち。髪がツートンカラーになるのは金星人の特徴だ。
グレーのスーツを羽織ったその青年は、一歩ずつ真都に近づく。
「それ以上こっちに来ないでください!!」
「あ、そうか。そういえば呼吸が乱れるんだっけか」
「なんでそれを知っているのです!?」
「なんでって……」
「はーい!!そこまで!!」
真都の母、織部が颯爽と姿を現した。両手には大荷物。付き人嫌いの織部は自分で出来ることはこなしてしまう性格だ。
「どういうことですか!?」
「だから、サプライズよ!サプライズ」
「私は男性が苦手だとあれほど言ったではないですか!!」
「わかってるわ、そんなこと」
「じゃあなんで男性を連れてきたんですか!?」
「すっかり忘れてる様だな、僕の顔を」
改めて聞くと、真都はどこかで聞き覚えがある声だと思った。たしか幼い頃、僅かな期間だが真都の屋敷に家の事情で預けられた可愛らしい金星人の女の子……。
「ニコ……」
「正解っ」
「なんでそんな格好してるのです!?まるで男じゃないですか!」
「まあそれは諸事情あって」
そこに織部が口を挟んだ。
「真都、ニコじゃなくてニコラ陛下よ」
「えぇ……陛下ってどういうことですか……」
「僕は金星の王なんだ」
予想外のことが起こりすぎて整理が追い付かない真都。目の前の人物が星一つの王と急に言われてもどう反応したらいいのか分からなかった。
慌てる真都をみてニコラは柔らかく微笑みながら口を開いた。
「僕は幼少期から王になるべく男として育てられてきた。今の金星は男でないと王位継承が許されていなくてね。君の家にステイさせてもらった時は監視の目も無かったから、女として振る舞わせてもらっていたんだよ。」
「母さん、ニコラ陛下のお母様と学生時代から懇意にさせてもらっていてね。一時でいいから女の子らしい生活を送らせたいと言われて、陛下をお預りしたのよ」
「でもなんでこのタイミングで地球にいらしたのですか?」
「それが……金星にいると僕が女だと知らない側近が早く結婚しろと言って煩くて敵わなくてね。事情を知っている織部に相談したら、真都のいる女子校ならセキュリティや環境も整っていると聞いてな」
「えと、まさかとは思いますが……」
「来週から留学生として同じ学校に通わせて貰うことになった。よろしくな、生徒会長殿。その間は一般人のニコと呼んでくれ」
いとも簡単にとんでもないことを言い放つ金星の王様。真都は深く考えることを諦めた。
「あと、もし僕の正体がバレれば第二のブリュンヒルデになってしまうかもしれないから協力してくれ」
ブリュンヒルデ王女の伝記は大統領との握手では終わらない。その一年後、金星内のクーデターにより暗殺されているのだ。
爽やかな笑顔で星一つ震撼させる秘密を突きつけたニコラ。かくして、真都は金星の王様の極秘女子高校生ライフ実現を託されたのだった。
しかしそれは一見友好的に見せかけた、侵略に他ならなかった。にこやかに、まるで自分が地球の代表者であるかのように握手をかわす大国の大統領。そして伸ばすその手の先には、見目美しいヒトガタの宇宙人。この宇宙人を地球ではブリュンヒルデ王女と呼んでいる。彼女は金星から訪れた、地球より発達した文明と科学技術を持った生命体だった。
当時金星では人口が爆発したため、新たな移住地を検討していた。その際目をつけたのが同じ太陽系で距離も近い地球だったという。彼らはその高い技術であっという間に地球の環境に適応し、移民が開始された。
というのが世界史の教科書に載っている史実である。
それから二百年余り。今や街頭で金星人を見ることも珍しくなくなった。
テスト前の自習にも疲れ、つまらなそうな表情を浮かべながらあくびをひとつ。高校生の逢瀬真都は教科書に付箋を貼って閉じた。
「二百年経っても、人間は進歩しないのですね……」
金星人がまるで元から居たもののように、堂々と外を歩いている現状に違和感を持たないことを、彼女は不思議に思っていた。
これは人類が降伏した結果なのだろう。そう考えていた。
名家のお嬢様育ちの真都は地元の名門女子高校に通っている。生徒の中でも成績優秀で、生徒会長という肩書きを持っている。しかし彼女には皆に秘密にしていることがあった。
「男性が大嫌い」
物心ついた頃には男性と接触すると過呼吸が止まらない体質だった。唯一の例外は父親だけ。他はどんなに見た目が女性に近くても、小さい子供でも手やら肌に触れられると途端に息が苦しくなる。
そんな体質の彼女は筋金入りの男嫌いに育ってしまった。とにかく解決方法を見つけるまで男性から引き剥がすしかない、そう考えて両親は祖母が運営していた全寮制の女子校へ進学させた。
予習を終えた真都が自室でくつろいでいると、ケータイへ着信があった。普段はアメリカで不動産会社の社長をしている母からだった。
「真都、今週末自宅へ帰ってきなさい」
「え?」
「私もちょうど休みが取れてね、日本に一時帰国出来ることになったの。一年ぶりに会えるわ」
「わかりました。では外泊許可を取っておきます」
「あとあなたに素敵なプレゼントがあるから楽しみにしてて」
真都の母はサプライズ好きな性格で、会うときは何かと計画を立ててくる。
「犬か猫でも連れてくるのでしょうか……いいえ、でも、寮では飼えませんね」
真都も久しぶりに母に会うのが楽しみだった。
週末の土曜日。
真都は港区にある自宅へ戻った。母はまだ到着してなかったので、しばし庭を散歩をすることにした。
庭の隅には一本の桜の大木がある。真都は幼い頃よくその枝に乗って遊んでいた。やんちゃで木登りは得意だった。
「懐かしいですね……まだ登れるでしょうか」
独り言を呟いたとき、後ろから声がした。
「止めておけ、また降りれなくなるぞ」
振り返ると、どこか見覚えがある青年が立っていた。
緑と赤のツートンカラーのセミロングの髪に、苺のような赤い瞳。思わず見とれるほど整った中性的な顔立ち。髪がツートンカラーになるのは金星人の特徴だ。
グレーのスーツを羽織ったその青年は、一歩ずつ真都に近づく。
「それ以上こっちに来ないでください!!」
「あ、そうか。そういえば呼吸が乱れるんだっけか」
「なんでそれを知っているのです!?」
「なんでって……」
「はーい!!そこまで!!」
真都の母、織部が颯爽と姿を現した。両手には大荷物。付き人嫌いの織部は自分で出来ることはこなしてしまう性格だ。
「どういうことですか!?」
「だから、サプライズよ!サプライズ」
「私は男性が苦手だとあれほど言ったではないですか!!」
「わかってるわ、そんなこと」
「じゃあなんで男性を連れてきたんですか!?」
「すっかり忘れてる様だな、僕の顔を」
改めて聞くと、真都はどこかで聞き覚えがある声だと思った。たしか幼い頃、僅かな期間だが真都の屋敷に家の事情で預けられた可愛らしい金星人の女の子……。
「ニコ……」
「正解っ」
「なんでそんな格好してるのです!?まるで男じゃないですか!」
「まあそれは諸事情あって」
そこに織部が口を挟んだ。
「真都、ニコじゃなくてニコラ陛下よ」
「えぇ……陛下ってどういうことですか……」
「僕は金星の王なんだ」
予想外のことが起こりすぎて整理が追い付かない真都。目の前の人物が星一つの王と急に言われてもどう反応したらいいのか分からなかった。
慌てる真都をみてニコラは柔らかく微笑みながら口を開いた。
「僕は幼少期から王になるべく男として育てられてきた。今の金星は男でないと王位継承が許されていなくてね。君の家にステイさせてもらった時は監視の目も無かったから、女として振る舞わせてもらっていたんだよ。」
「母さん、ニコラ陛下のお母様と学生時代から懇意にさせてもらっていてね。一時でいいから女の子らしい生活を送らせたいと言われて、陛下をお預りしたのよ」
「でもなんでこのタイミングで地球にいらしたのですか?」
「それが……金星にいると僕が女だと知らない側近が早く結婚しろと言って煩くて敵わなくてね。事情を知っている織部に相談したら、真都のいる女子校ならセキュリティや環境も整っていると聞いてな」
「えと、まさかとは思いますが……」
「来週から留学生として同じ学校に通わせて貰うことになった。よろしくな、生徒会長殿。その間は一般人のニコと呼んでくれ」
いとも簡単にとんでもないことを言い放つ金星の王様。真都は深く考えることを諦めた。
「あと、もし僕の正体がバレれば第二のブリュンヒルデになってしまうかもしれないから協力してくれ」
ブリュンヒルデ王女の伝記は大統領との握手では終わらない。その一年後、金星内のクーデターにより暗殺されているのだ。
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