のろし

けろけろ

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籠の中の僕

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ざっぱーん
ぶくぶく びちびち どどど

(くだける水面、飛び散るしぶきの形)

はだかで海に飛び込んだ

僕を操ろうと
肌を這っていた死んだミミズみたいな白い配線を
引きちぎって

(神経に送られていたノイズが
ほら、砂糖のように溶けていく)

口や鼻からもれる空気が
水面へと上っていく

(ぷか ぷか ぷか ぷか)

青くて 青くて
それは形を失いそうなほど
自由で
(水は 静かに動き出す)

僕だけを遺して

(海は流れていく)

加速していく海流
引き潮のように青い景色を
彼方へと連れていく

それは 低く飛ぶ青い鳥の後ろ姿のよう


……気が付くとアスファルトの道に立っていた

いつもの道
見馴れた景色

(広がる雪原が 音をみな吸い込んでしまう)

景色の一番とおくに
大きく輝くライトがある

(青い鳥が去った方角)



僕は歩き出す
ドロシーが黄色いレンガの道を
エメラルドの都をめざし
歩いたように

この凍える風のなかで
でも きっと温かな旅になることを知っているのだ

ありとあらゆる方法で僕の中へ入ろうとする毒は
ここにはない
ヒトが動物でないことを
錯覚させるものは ここにはないのだ

この道には旅情がある




吾妻連峰を越えたその先で月へ昇る階段を探そう
そして僕は月の裏側に聳える
クリスタルの塔へ行かなくてはならない

もしその道が見当たらなかったら
もっと歩くのだ
もっと もっと ずっと とおくだ
道が途絶えた場所が
世界の果てだと信じてはいけない
(もっと もっと ずっと とおくに)
その壁は 錯覚だ (妄想だ)
毒がそれを見せている (感じさせている)

行きたいと願っている (祈っている)
毒に冒された僕には
世界の壁は まだ見えない
自由という錯覚…… (妄想……)
その籠に 僕はまだ飼われている



(しかし)
海と僕はひとつになったあの感触は
本物だった
あの海が 抒情の粒子が作ったものだとしても



(だから)
「はだかで海に飛び込めない」現実の僕は置いていかれた

青い鳥は飛び去った
毒を知らない僕を連れて
月の裏側の巣へ還っていった

追いつけるだろうか
籠の中を歩いている僕に
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