太助と魔王

温水康弘

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第一幕 二人の出会い・そしてすべての始まり

その九 真の魔王を名乗る者

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 あれから暫くの間は城塞都市計画の為に資材確保に再開発。
 そして義勇兵の鍛錬による熟練度向上。
 更に国の空き地開拓と大忙しだ。

「はい太助、今日はオムライスだよ」
「これってヒカルちゃんが作ったの?美味しそうだな」

 そんな中で私は太助と開拓中の農地視察を兼ねてピクニック。
 当然お弁当は私の手作りだ。

「もうすっかり農地開発が進んでるね」
「秋には美味しい作物が出来る筈よ。多分今年は豊作ね」

 ちなみに今育てている作物は……お米。
 我が国の主食であ~る!
 昔、何処かの異国から伝わったのが始まりだそうだ。

「うんうん!このオムライスのお米もこの国で作ったんだね」
「うん!現在でも自給できてる我が魔王国の特産品よ」

 意外かも知れないけど我が魔王国は農業国で知られている。
 お米の他にも様々な野菜や果物を育てている。
 けど反面動物とかの絶対数が少ないので国交のあるドワーフ国からの輸入に頼っているのが現状だ。
 唯一鶏だけは養鶏場があるので鶏肉と卵は自給できるのだが。
 それと残念な事に魔王国には海がない。
 故に魚類も川魚ぐらいしか取れない始末だ。
 幸い塩は魔法で錬成できるので安価で入手できるが味は天然の塩にはやや劣る。
 代わりにコショウとかの香辛料は豊富に栽培しており他国にも評判で人間国を除く諸外国へ輸出している。
 私はこれらの事を一緒にオムライスを食べながら話した。

「へぇ、海が無いから魚は仕方ないけど牛や豚ならなんとかなるんじゃない?」
「えっ?」
「少し空き地の開拓計画を変更して他の国から牛や豚を生きた状態で買い取って牧場を作ろうよ」
「牛や豚を飼育するなんて可能なの?」
「鶏はできてるんでしょ?なら牛や豚もできない事はないよ」

 確かに牛と豚を家畜として育てたら安定して牛肉や豚肉を国中に供給できる。
 だけど我が国には鶏を育てる技術はあっても牛と豚を育てる技術はないわよ。

「ならいっそドワーフ国から技術者招いて教えてもらおうよ。見返りは香辛料の関税を引き下げる辺りでどうかな」

 そうか。
 じゃあ、それで行ってみましょうか。

「じゃあ戻ったら具体的な事を城の官僚に話してみようか」
「そうね」

 牧場か。
 太助ったらまた私達が思いつかない事を。
 本当に凄い!
 それから私達は魔王城に戻り牧場の事を官僚達に相談しようとした時であった。




 ―――魔王様、大変です。



 突如、私と太助の前に覆面に黒装束の女の子が。
 太助は驚くが……私はこの少女が何者かを知っていた。

「クロ、何があったの?」
「―――今、所属している諜報員から連絡がありました。例の行方不明の大人の男達の件です」

 私が魔王になった直後に集団で行方不明になった大人達が?
 まさか彼等が今どうしてるのか判ったの?

「―――現在、彼等は魔王国から南西にあるウエスト山脈に小さな町を作っていました」
「町だって?」
「―――もっともその町の建築物は原始的なもので人々の暮らしも貧しいものでした」
「他に気になった事は?」
「―――そういえば人々の首には何やら首輪が付いていました」

 ウエスト山脈で原始的な町を作り人々は全員首輪を付けて貧しく生活している。
 いかにも胡散臭そうね。

「では引き続きその町の調査をお願い。だけど無理はしないでね」
「―――御意!」

 すると黒装束の少女・クロは煙のように姿を消した。

「ヒカルちゃん、あの子って」
「私の優秀な密偵よ。名前はクロよ」

 それにしてもウエスト山脈に行方不明の男達がねぇ。
 クロ、くれぐれも無理はしないでね!

「ヒカルちゃん、国の周辺地図はある?」
「それだったら太助のリンクミラーで観れる筈よ。操作は……」

 すると太助のリンクミラーに魔王国周辺の地図が。

「えっと……ウエスト山脈はこれか」
「随分と辺鄙な山脈よ。どこの国の傘下にない場所よ」
「ならいっそこの山脈頂いちゃおうよ!」
「えっ?」
「ほら、山脈の向こう側には海があるよ!あの町を頂いて僕達が港町として再開発すれば塩も海の魚も手に入るよ!」

 確かにウエスト山脈の向こう側は海だ。
 幸か不幸か今、山脈は国を出て行った男達が原始的に開発してくれている。
 そこへ私なり義勇兵なり差し向けて頂けば国の大人達は奪回できるし海も手に入るからメリットが多い!
 だけど問題もある。
 正直あんな原始的な町に無理して住む理由は何処に?
 それにそこの住人が全員何かの首輪をつけているのが気になる。

「多分義勇兵の初陣はあそこを攻め込む事になりそうだけどヒカルちゃんの言う通り不安要素も多いね」
「原始的な町だったら普通逃げ出す人も出てきそうなのにね。これはどうゆう事かしら?」
「とにかく今は様子見だね。とにかくその間にできる事はやっておこうよ」

 とにかく今はまだ情報が少ない。
 となると今迂闊に行動するのは危険だ。
 現状は様子見が一番……クロからの連絡待ちね。




 それから一週間後。
 事態が動いた。




「クロ!大丈夫?しっかりしなさい」
「―――不覚」

 クロが全身傷だらけで魔王城へ戻ってきた。
 あれ程無理はしないでと言ったのに!
 私は瀕死のクロを城の医務室へ。
 そこには数名の医者が待機していた。

「―――魔王様、ご報告……が」
「今は何も言わないで!」

 それから医務室内での治療が始まった。
 私と太助は暫く医務室の外でクロの無事を祈っていた。

「クロ……」
「大丈夫だよヒカルちゃん」

 それから数時間後、医務室の扉が開いた。

「クロは!」
「心配ございません魔王様、患者は無事でございます」

 良かった!
 私と太助は医務室の中へ。
 そこには数人の医者に囲まれてクロがベットで横たわっていた。

「―――魔王様」
「良かった!本当に……」
「―――魔王様に報告があります」

 私と太助はクロからの報告を聞く事にする。
 それは衝撃の事実であった!

「クローム将軍……それが今度の一件の首謀者だったのね」
「―――はい、あの男はわが国にクーデターを起こすべく我が国の男という男を……」

 クローム将軍、確か先代魔王に仕えていた将軍でその先代が退く時に反乱を起こしたのだ。
 無論その反乱は阻止されてクローム将軍はそのまま行方を眩ませた。
 ちなみにその反乱を鎮めた最大の功労者は当時魔王国の戦士だった私。
 
「―――それと現在町にいる男たちは奴隷の首輪が付けられており自由を奪われております」
「奴隷の首輪!それは本当なの」
「ヒカルちゃん、奴隷の首輪って?」
「付けられたら最後、自分の意思を奪われ主の命令のみで動く操り人形にされる首輪よ」
「なんだって!」
「奴隷は現在魔王国は勿論、人間国含む諸外国で禁止されているの。けどまさかクローム将軍が禁忌の魔道具を使ってるなんて!」

 これは大変だ。
 事実上クローム将軍に我が国の男達が人質にされてるようなものよ!
 義勇兵の中には現在あの町にいる男達と結婚している人もいるわ。
 そんなのと女子供ばあkりの我が国の義勇兵は戦いを躊躇するに決まってる。

「ヒカルちゃん、その首輪を外す方法はないの?」
「あるわよ。ひとつは首輪の主であるクローム将軍を倒す事。もうひとつは……これは現実劇では」
「もうひとつの方法は!答えて」
「それは……最上級魔法である呪詛解除魔法を用いる事。だけどこれは大量の魔力を消耗するから義勇兵に教えても」
「数と魔力が足りない訳か」

 そう。
 呪詛解除魔法は魔導士の魔力を著しく消耗する魔法。
 しかも一回の詠唱で解除できるのは一人だけ。
 そして現在あの町で奴隷にされている男は約五万人ぐらい。
 明らかに単純計算でも義勇兵の魔導士の数が足りない。
 しかも……クロから衝撃の事実が!

「―――クローム将軍は三日後にその五万人の男を引き連れて魔王国へ攻め込むようです」
「三日後!」
「―――はい、ですから私はクローム将軍を倒して奴隷解放を試みたのですが……」
「クローム将軍と戦ったの!バカ、あれ程無茶は駄目だと言ったじゃないの」

 そうか、クロが瀕死になったのはクローム将軍と戦ったからか。
 クローム将軍は先代魔王の片腕だった男。
 その強さは下手すれば私と同等……確かにクロでも勝てないのは当然か。

「大変です魔王様!」
「パンジー、どうしたの」
「とにかく外をご覧ください」

 私と太助は城の外へ出てみる。
 すると……国の大空に巨大な男の顔が投影されていた!

「ヒカルちゃん」
「あれがクローム将軍よ」

 すると投影されたクローム将軍からメッセージが!
 そのメッセージはというと?



 我こそが真なる魔王であるクロームである。
 偽りの魔王に告ぐ!すぐに魔王の座を我に明け渡せ。
 さもないと我が率いる精鋭達がこの国を亡ぼす事になるであろう。
 今から三日猶予を与える。
 それまでに良き返事を期待しておるぞ、偽りの魔王よ。




 クローム将軍の投影はそのメッセージを残して消えていった。

「どうしよう、襲ってくるのは奴隷にされた我が国の男達。これでは迂闊に攻撃できないわ」
「……」
「しかも猶予が三日だなんて……どうすればいいのよ」

 もう万事休すだ。
 敵は奴隷にされた人質である我が国の国民。
 一方、迎え撃つ義勇兵はその人質の妻や子供で構成された義勇兵。
 果たしてそんな義勇兵達が愛する亭主や恋人に父親相手に刃を向けられるのか?
 これでは事実上義勇兵は封じられたようなものだ。
 ハッキリ言って義勇兵は勿論、国民相手では私も戦えない。



 もう……降伏しかないの?



 その時、突如太助が私の頭に拳骨!

「ヒカルちゃん、幸福なんて選択はないよ」
「太助」
「正直あんな卑劣な奴にこの国は任せられないよ!」
「ならどうしろというの?」
「まだ三日あるよ。任せてよ、僕がこの状況をひっくり返してあげるから」

 太助……笑ってるようだけど目が笑ってない。
 何か怖いよ、太助。
 そして、太助が城の中へ戻る時……あの言葉を呟いたのは恐怖を感じた。




「キレた」 






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