時司るリトルメイジ

温水康弘

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エピソード002 転売ヤーには地獄への片道切符

第九章 魔法くノ一推参!

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 時刻はもう午後九時半を回っている。
 ここアニー社本社で一人の少女……いや一人のリトルメイジがビルの中を巡回している。
 そのリトルメイジの名は泉都……現在星一つのリトルメイジである。

「あ~あ、もう今月限りでここでのバイトもクビかぁ。結構時給も良かったのになぁ」

 可哀そうに、都さん例のアニー社本社海外移転の煽りで今月限りで解雇だそうだ。
 それでも都さんは今の仕事をこなすべく気を取り直してビルの中を巡回していた。

「お疲れ様です!」
「お疲れです!」

 途中同じバイトをしている警備員に出合い挨拶。
 それから更に都さんはビル内の巡回を続ける。
 いやぁ実に健気だなぁ。

「さて、あと一時間で交代か」

 それから残る住改先へと歩いていく都さん。
 だが……会議室のある部屋を通ろうとした時、何やら話し声が聞こえてきた。

「あれ?まだ誰か残ってるのかな」

 少し不信感を抱いた都さんはスマートフォン型魔具を手にして会議室の扉をゆっくりと開く。
 すると……会議室の隅で二人の男が何やら話をしていた。
 都さんは会議室の机に隠れて二人の会話を聞いてみる事に。

「まさか金子さんが三条財閥傘下の小娘を連れてくるとは思ってませんでした」
「ボスもその報告を受けて計画を早めた。全ては我々組織の利益の為である」
「確かに三条財閥の小娘が介入するのは厄介ですからね。下手したら小娘率いる影のポリスが動く恐れがありますから」

 都さんはこの二人の会話を聞きながら会話をしている二人が何者かを確認する。

「一人は全く見た事がない人ね。それともう一人は……って確かあの人は岩崎さんじゃ?」

 間違いない!
 一人は知らない人間だがもう一人は金子さんの部下である岩崎さんだ。
 まさか……岩崎さんがスパイでは?
 都さんはもう少しこの二人の会話を聞く事に。

「何はともあれ、もうすぐ日本とはお別れだ。岩崎、物の最終出荷の日時は?」
「はい、明日の午後二時に出発予定です。それと輸送ルートはこちらに」
「うむ!これで組織の運営資金が潤う……!?そこにいるのは誰だっ」

 男はスーツの懐から魔具を取り出してファイヤーボールを発射!
 机に隠れていた都さんは咄嗟に回避!

「ふん、何かと思えば小娘一人か」
「岩崎さん!話は聞かせてもらいました。貴方がスパイだという事は私がしかと見届けました」

 そして臨戦態勢を整える都さん。
 この辺は最下級とはいえリトルメイジといえるな。

「二人共!アニー社におけるスパイ容疑の現行犯で身柄を拘束します」
「ふん、たかが小娘一人で何ができる……くたばれ!」

 男は複数の光の矢を出現させて……それらを都さんに向けて発射!
 しかも、その速度は著しく早く今度は回避不可能だっ。

「なんの!」

 都さんは手にした魔具を操作して掲げた。
 すると都さんの周囲に光の壁が展開!
 そして襲い来る無数の光の矢を完全に防ぎきる。

「チェストーっ」

 そして間髪入れずに光の壁を解除、今度は都さんが光の輪を形成……それを男に向けて投げつける!

「ふっ……」

 男はその光の輪を回避する……が光の輪は再び男を狙う!
 
「しつこい!」
 
 男は何度も回避するが光の輪は休む事無く男に襲い掛かる!
 しかも光の輪の速度は徐々に上がっていき男を追い詰めていく。

「いい加減に二人共お縄につきなさい!さもないと大怪我をするわよ!」

 光の輪の速度は更に加速!
 遂に男の回避能力を超える。
 このままでは直撃確実だっ。
 だが……男は何故か焦りを見せない。

「ムサシ……出番だ」

 すると男の頭上に魔法陣が!
 そして出現した魔法陣から巨大な男が出現した。
 出現した巨大な男は飛んできた光の輪を素手で叩き落す!

「え……ええええええっ!」
「ムサシ、あれを消せ」

 ムサシと呼ばれる巨人は凄まじい雄叫びを上げて都さんに襲い掛かってきた。
 都さんは襲ってくるムサシに向けて光の矢を打ち込むが……あのムサシという巨人には全く通用しない。

「こ、来ないで!」
「ふががあああああああああああああああっ」

 そして……ムサシのその巨大な鉄拳が怯える都さんの体を思いっきりぶん殴った!
 都さんはそのまま壁に激突!
 しかも、その衝撃で体中の骨は粉々になり内臓も破裂!
 もはや都さんは虫の息。
 恐らく絶命は確実だろう。

「ムサシ……とどめだ」
「ふががあああああああああああああああっ」

 男はムサシにもう絶命寸前の都さんにとどめを刺せと命じる。
 そしてムサシは次の一撃で都さんの息の根を止めるつもりだ。
 泉都さん絶体絶命!
 このまま始末されて真実は闇から闇へ隠されるのか?



 だが、その時!
 何処かから小柄が飛来!
 小柄はムサシの右目に突き刺さり……直後に大爆発!
 
「なにっ!」
「ぐははははあああああああああああああっ」

 流石の巨人ムサシもこれには一瞬怯む。
 男は「誰だ」と周囲を見渡す。
 すると、男の目の前に瀕死の都さんを抱えている青い忍び装束姿の女性の姿があった。

「貴様、何者だっ」
「…………」

 忍び装束の女性はただ沈黙するのみ。
 そして忍び装束の女性は小刀型魔具を取り出して何やら呟く。
 すると、会議室中に水蒸気が充満していく。
 水蒸気はやがて霧となり男やムサシの司会を奪う。

「くそっ、何も見えん!」

 男と岩崎は視界の利かない霧の中でただ困惑するのみ。
 それから数分後、霧は徐々に晴れていく。
 霧が完全に消えた時には……都さんは勿論、あの忍び装束の女性は完全に姿を消していた。

「ま、まずいぞ」
「チャン様」
「もし……あの女が三条財閥の回し者だったら厄介だぞ。恐らく我々の事も筒抜けになっただろう」
「そんな」
「岩崎、もうお前はこの会社に来ないほうがいいな。今ので俺もお前も面が割れた筈だからな」



 それから約一時間は経過した頃。
 場所は三条財閥直轄の病院へ。



「都ちゃん!」

 俺と社長は都さんが搬送された病院へ急いで駆けつけた。
 少し前の時間に社長の元へ枚方兄妹の妹の方から緊急連絡が入ったのだ。
 そして俺と社長はその都さんのいる病室へ入ったのだが……だけど。

「司様ですか……残念ですがあの方は今ご臨終になりました」

 それは医者からの残酷な通告であった。
 そう、都さんは……死んでしまったのだ。

「組成魔法は試したの?」
「とりあえず試みましたが……全身がもう修復不可能な程に損傷してましたので」

 魔法で治癒できない程の損傷で蘇生魔法も役に立たない程の損傷。
 都さん穂程惨い目に合わされたんだな。
 だけど……正直彼女はまだ神様から見放されてはいないぞ。
 何故なら!

「悪いけど……この人いつぐらいに運ばれて来たのかしら?」
「確か一時間程前でしたか。可笑しな恰好をした女の子がその瀕死の娘さんを運んできたんです」
 
 こりゃ枚方妹が都さんを助けてここへ連れて来たんだな。

「となると……なら巻き戻す時間は三時間で十分ね。宗吾、大型バッテリーをお願い!」
「はい社長!」

 俺は亜空間の穴から大型バッテリーを取り出した。
 勿論フル充電してる状態だぞ。

「宗吾、魔法陣はもう設置済みよ。すぐに遺体を魔法陣の中央へ!」

 俺は都さんの遺体を社長が用意した魔法陣シートの上へ置く。
 そして社長はスマートフォン型魔具と大型バッテリーを接続。
 そしてすぐに社長は魔法の詠唱を開始!
 社長……ここはお願いします。



 時よ戻れ、理に逆らえ、我は万能なり。
 全ての時の流れは我だけのもの。
 さぁ、時の理よ……今こそ我に従い我が成し遂げたい願いを叶えよ!



 すると都さんの粉々された筈の体がみるみると修復されていく。
 いや、巻き戻っているのが正確か。
 そして再び心臓の鼓動が聞こえて来た!
 



 リバース・タイム!



 「…………あれ?私は」

 良かったぁっ!
 無事に蘇生したみたいだぞ。
 社長も魔法の成功を確認して安心したのか膝をついている。
 俺はそんな社長に「お疲れ様です」とオレンジジュースを手渡す。

「ありがとう」

 社長がオレンジジュースを飲んでいる中で生き返った都さんは何が起こってるのか理解できない様子。
 そりゃそうだ。
 今の都さんにしてみれば先程までアニー社で警備の仕事をしていた筈なのにどうして?ってとこだろう。

「ですが困りましたね社長」
「そうね、彼女の時間を巻き戻して組成させt引き換えに死亡直前に何が起こったかが記憶から抜け落ちてるからね」

 そこが社長の蘇生術における泣き所だ。
 何しろ生きていた時まで時間を巻き戻すからどうしても記憶がその影響で抜け落ちてしまうのだ。
 よって、都さんからどうやって殺害されたのかを聞き出すのは不可能だ。
 さて、どうしたものか?
 すると医者が俺達の元へ。

「あの……すみません」
「あれ?どうかしましたか」
「絶はそちらの患者さんを搬送してくれた方から」
「青いカードUSBメモリですか」
「もし司様か光前寺殿がこちらに来たらこれを渡して欲しいと伝言を受けております」

 青いカードにUSBメモリ。
 多分これは枚方妹からだろうなぁ。
 とりあえず社長が青いカードを受け取ると……カードには何やら枚方妹からメッセージが記されていた。



 内通者はアニー社課長・岩崎琉人。
 そしてこの一件の裏には国際的密輸組織の疑いがある故に注意されたし。
 なお岩崎と接触していた組織の人間と思われる映像を記録しておきましたのでご覧ください。



 岩崎……ってあの時に会った奴か!
 くそっ、先日金子さんと色々と話してた時も姿を見せていたが俺達の事を探ってたな!
 畜生っ!今度会ったらギッタギタにしてやるからな。

「じゃあ宗吾、都さんの蘇生も終わったしさっさと戻って牧野さんにこれを渡して調べてもらいましょう」
「そうですね。すぐに戻りましょう……では都さん、今夜は安静にしてください」
「あ、あれ?私はどうなったのか教えてください!光前寺さ~ん!」

 一体どうなっているのか今一つ理解できずにいる都さんを後目に俺と社長はひとまず本社へ戻る事に。
 さて、枚方妹から託されたUSBメモリには何が入っている事やら?

「社長、ここからは俺や牧野さんに任せてお休みの時間ですが」
「何を言ってるの宗吾!ここまで来たら徹夜で事の真相を私も確かめるわ」
「明日の学校に影響が出ても俺は知りませんよ」
「なら私にも濃縮カフェイン入りコーヒーを飲もうかしら」
「それは子供には毒ですから却下です!」
「けち」
「けちは社長の専売特許でしょう!」



 さて、このメモリー……鬼が出るか蛇が出るか!
 いよいよ俺達は事の真相へ!






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