時司るリトルメイジ

温水康弘

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エピソード001 相続問題は時間を巻き戻して

第六章 中津家を追い出された男

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「初めまして。私は三条スイーパーカンパニーの代表取締役の三条司といいます」
「ほぅ、これは可愛らしいお嬢さんだね」

 俺とウチの社長は東京某所にある小さな会社を訪ねていた。
 その会社は小さいながらもそれなりに繁盛している印象であった。
 従業員は少数精鋭みたいだが雰囲気は悪くない。
 俗にいうベンチャー企業って奴だな。
 そしてその会社の社長を務めているのが中津洋二という男。
 俺達の知る限り中津家を勘当された男である。
 今、俺と社長はその中津洋二と社長室で対面を果たしていた。
 とりあえず俺の第一印象としては中津洋二は結構温厚そうな人物に見える。

「処で三条財閥傘下の小さな社長さんがこの私にどうゆうご用件でしょうか」
「実は……先日、中津勇さんがお亡くなりになりました」
「えっ?」

 おや?いくら勘当されたといってもやはり実の父親の死には驚きを隠せないらしいな。
 そしてウチの社長はは現在その父親が残した遺産を巡って面倒な事になっている事を語った。
 すると……「洋二さんの態度が豹変した。

「ハハハ!ざまぁないな。あの一族に相応しい醜い争いだな」
「「…………」」
「しかもあの親父の全財産が慈善団体に寄付とは……あの糞兄貴もざまぁねぇな」

 うわぁ。
 突如性格が豹変したぞ。
 こりゃあの中津家に相当な恨みがありそうだな。

「失礼ながら……現在あの中津家がこんな事になっているのに、まるで他人事みたいですね」

 流石にウチの社長も突っ込まずにはいられなかったか。
 だが洋二さん返答はこうだった。

「当然だろ!私はあの家から濡れ衣着せられて追い出されたんだ。だからあの家がどうなろうが知った事じゃないな」
「濡れ衣?」
「そうだ!元々私と親父はそりが合わなかった。その上、私は兄貴に会社の横領の濡れ衣を着せられて追放されたんだ」

 えっ?兄貴・健一に横領の濡れ衣だって。
 これには俺も社長も気になって洋二さんに詳しく事情を聴いてみる事にした。

「今でも思い出す旅に頭にくる。元々親父とは会社経営に関して色々と対立していた。だが私も会社経営を考えての事だったんだ」
「そしてそれからどうなったのかしら」
「兄貴は無類のギャンブル好きで多額の借金を返す為に会社の金に手を出していた」

 なぬ?横領だって!
 もしそれが事実なら普通横領した健一が勘当される筈だぞ。
 じゃあ何故にそうなったんだ。

「だが兄貴は親父の信用が高かった。だから兄貴はその信頼を利用して自分がやった横領を私がやったように仕向けたんだ」
「それはひどいわねぇ」
「そして結果は私が勘当されて会社から追放さ。親父も兄貴も私の事が元々邪魔だったからな」

 うわぁ、元々家族から嫌われていた上に濡れ衣で追放か。
 それから小さいながらに会社を立ち上げてそれなりに繁盛させてるのは大したものだな。

「失礼ながら貴方の父親が残した五十億の遺産には興味はないのかしら」
「興味がないね。私はもう中津家の人間ではないからね。あの連中がどうなろうと知った事じゃないな」
「つまり貴方には家族というものがない訳ね」
「お嬢さん、それはちょっと違いますよ」

 家族から追い出された洋二さん。
 なら今の洋二さんには家族なんかいない筈。
 なのにウチの社長の言葉を明らかに否定しているような雰囲気だ。

「今の私にとって……この会社こそが家族!そして会社の社員こそが私の子供達!!」

 あらら、これは驚いた。
 今の洋二さんにとってこの会社自体が家族そのものだと言ってきた。
 
「成程ね。全てを失った貴方がゼロから築いた会社こそが家族という訳ね」
「そうですよお嬢さん。この会社は私が一から築いたいわば生きがい!そしてこの会社こそが家族なのです」

 確かに大したものだと思うよこの人。
 家族に裏切られ全てを亡くした男が一から築いたベンチャー企業。
 その会社を家族というのも何処か理解できそうだな。
 ただ……どうもウチの社長は寂しそうな表情をしている。
 まるで洋二さんの言葉に疑問を抱いているようだ。

「寂しい人ね」
「ん?」
「貴方はただ一人で小さな山を作って……まるでお山の大将を気取っているようにしか見えないわね。可哀そうな人ね」
「今の言葉は聞き捨てなりませんな」
「本当に貴方は誰からも愛された事が無い人みたいね」

 確かにウチの社長の言葉も一理なるなぁ。
 洋二さんのように会社は家族という考えもあるがウチの社長にしてみれば独りぼっちでお山の大将やってるようにしか見えないのかも知れない。

「企業の長である社長が社員を大切にする事は必要よ。けどね……所詮社員というのは雇われ者。いわば赤の他人よ」
「何が言いたいのか、お嬢さん」
「私も……そして貴方も……血の繋がった家族ってものはかけがえのないものなのよ。例え勘当されていてもね」
「う……む……」

 ウチの社長の言葉に洋二さんは困惑しているみたいだ。
 そしてウチの社長も何処か寂しそうだ。
 ウチの社長の言葉は続く。
 俺はその言葉をただ黙って聞いているだけだ。

「私の両親は三条財閥の総裁として今も世界中を飛び回っている。故に私はもう三年は直接出会った事がないわ」
「えっ?」

 そういえばウチの社長の両親は三条財閥の総裁としての激務で忙しくてもう随分と会ってないそうだ。
 今、その言葉が出た辺り日頃お金の事ばかり言っている守銭奴社長もやはり年相応の女の子らしく親が恋しいかも知れない。
 
「でも、それでも私は両親の事を考えなかった事はないわ。やっぱり直接会いたい気持ちになる事もあるわよ」
「…………」
「それが血縁というものだと私は思うわ。それなのに貴方はそれを否定しているみたいね」
「それがどうした」
「だから寂しい人だと言ってるのよ。本当は貴方は泣いているんじゃないの」

 これには洋二さんもただ沈黙するのみ。
 子供が大の大人を言い負かすとはどっちの精神年齢が高いのか俺にもわからないな。

「宗吾」
「はい社長」
「どうやらこの人からはこれ以上有力な情報は聞き出せそうにないわね」
「そうですね」

 どうも数年以上も中津家に関わっていない洋二さんにこれ以上何か聞くのは無理だろう。
 ただあの中津健一がとんでもない屑野郎だという事が判明したのが収穫だったな。
 こんな父親を持つ翔太君は本当に頭が痛いだろうなぁ。

「本日は本当にお邪魔させて頂きましたわ。またご縁がありましたらお会いしましょう」
「こちらこそ大した事を話せずに申し訳ありませんでした」

 俺達はうちの社長に論破されて愕然としている洋二さんのいる社長室を後にした。
 洋二さんの考えも一理あるがウチの社長の考えも一理あるな。
 ただ洋二さんの家族に対する考えにウチの社長はおかしいと反論した辺りに家族への価値観の違いがあったのだろう。

「俺も社長とは所詮他人か」
「確かに現状だとそうね」
「えっ?現状って」
「将来、私達って他人じゃなくなる可能性があるって事よ」

 社長……今貴方は何を言ってらっしゃるのですか。
 さて、そろそろ会社に戻りますか。
 俺は外に出てから亜空間から愛車を取り出そうとした時であった。

「!?これは」

 俺と社長のスマートフォン型の魔道具から大きな警報音が鳴り響く。
 これは本社からの緊急警報だ!

「宗吾!」
「はい。どうやら本社で何かあったみたいですね」

 どうやら本社で何かあったらしい。
 これは急いで本社に戻らないと!

「宗吾!私に捕まって」
「はい社長」

 俺は社長の手を掴む。
 同時に社長はスマートフォン型の魔道具に大型のバッテリーを装填。
 それから社長は急いで詠唱を唱えて魔法を起動!



 クロックアップ



「全速力でいくわ!」
「お願いします」

 ウチの社長は俺と一緒に時間概念を超えて凄まじい速度で疾走する。
 目指すは俺達の本拠である三条スイーパーカンパニー本社ビル。
 一体本社ビルで何が起こっているのか。
 現在本社ビルにはさもなちゃんと例の遺言状を分析している調さんがいる。


 果たして、この緊急事態に俺と社長は間に合うのだろうか!
 社長!ここは頑張ってください。


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