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婚約期
料理が評判の宿屋
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2日目も順調に進んでいたのでドランジェ伯爵領に入った辺りで早めに宿をとることになった。
小さい宿屋に泊まることになったが、料理が評判との宿であった。
マリィアンナは通された宿部屋を見て、驚いた。
こんなにせまいの?平民のお部屋は!…知らなかったわ!
メルの部屋より小さいわ…
シングルのベッドが1つと小さな1人用のテーブルがあるだけの部屋。
部屋数は少し多く、宿の店主いわく少し裕福な平民や商人が近くの湖へ遊びにきたり、帰郷の折に泊まりに来る人が多いとのことだった。
食事は1階に宿泊客はそれぞれ集まって食べる事になっていることも衝撃的であった。
マリィアンナは初めて従者や騎士といった使用人達や、平民の客達と同じ空間で食事を共にした。
使用人たちは緊張し通しだったが、マリィアンナは新鮮で楽しく感じた。
カチャカチャとなるカテラトリーの音
賑やかで楽しそうな話し声
店主や従業員が料理を作る活気ある調理音
なんだか楽しいわ!
初めての音がいっぱいですわ!
出されたメニューは魚がメインであった。
クステルタ伯爵領は海がない為、魚を食べる機会があまりなかったマリィアンナはワクワクしながら席へ着いた。
2種類のムニエル
玉ねぎのソテー
ジャガイモのポタージュ
ホカホカと湯気を立ててテーブル並べられている。
トマトベースと…これはレモンバター?酸味と爽やかな香り!美味しいわ!
なんの魚かしら?わからないけど美味しい~~!
玉ねぎってこんな味なのね。歯ごたえもいいですわ!
ジャガイモがトロトロですわ…あぁスプーンが止まらないわ…
平民向けな宿らしく、野菜がふんだんに使われた料理だったがマリィアンナは大満足だった。
ふと横を見やると、父とデグラが同じ席で食事をしていた。
父はにこやかにワインを飲み、デグラも慣れた様子で父の横で食事をしていた。
貴族と従者が同じ席で食事をとる光景をマリィアンナは初めて見たのでとても驚いた。
だが慣れた様子の父とデグラは身分を超えて特別な存在のようにみえた。
わたくしにも身分を超えて仲良くできる存在ができるかしら…
婚家には生家から使用人を連れて行かないのが通例になっていた。
里心がつかないようにと、嫁に出たら生家から完全に切り離されるからだ。
マリィアンナは信頼できる使用人から離され、ドランジェ伯爵邸宅の使用人と一から信頼関係を築かなければならない。
新しい使用人と仲良くできればいいけれど…
それにはアルベルト様からの信頼も重要にになるわ…
そんな不安を振り払うように目を固く閉じて、マリィアンナは絶品のムニエルを口へと運んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3日目、マリィアンナは起きた時に違和感を感じた。
背中、痛い…お尻も少し痛い…ヒリヒリするわ…。
貴族御用達の高級なふかふかベッドに毎日寝ていたマリィアンナの体には、平民の寝る薄い敷き布団のベッドは固すぎて、体の節々が悲鳴をあげていた。
馬車に乗ってから驚きの連続ね!
わたくしったら何にも知らなかったのね…
腰を抑えながらメイドに着替えや支度を手伝ってもらい、ソロリソロリとゆっくり体を気遣いながら1階へと下りた。
しばらくすると父が同じように腰を擦りながら下りてきた。
お父様もわたくしと一緒なのね!
マリィアンナはクスリと笑った。
朝食はパンと昨日のスープと牛の乳だった。
パンは固くてなかなか飲み込めず大変だったが、スープにつけてふやかしてなんとか飲み込んだ。
牛の乳は、生ぬるく美味しいとは言えなかった。
食事もそこそこに馬車へと乗り込み目的地へと向かった。
途中に大きい湖があったので休憩することになった。
敷物を敷いてドライフルーツと紅茶をメイドが用意する。
騎士は周りを警戒して職務を全うしようとしている。
従者はここまで歩き続けた馬に水をやったり餌をやったり世話を甲斐甲斐しくしている。
紅茶を飲みながら、甘酸っぱいフルーツを口へと放り込む。
さすがうちの領地の名産ね。いろんなフルーツがあって美味しいわ…
婚家でも食べれたらうれしいのだけど…
ぼんやり眺めつつ何の気なしに父にマリィアンナは話しかけた。
「お父様、お母様とはどうやって出会いましたの?」
「…政略結婚だった。父に言われてな」
「婚約前に面識はありましたの?」
「なかったな。だが婚約期間は少し長かったな」
「どれくらい婚約してましたの?」
「…15年だ」
「えっ」
「5歳で婚約が決まった。それから成人するまで頻繁に家を行き来していたな。社交シーズンが休みに入ると領地へ預けられて交流を深めたのだ」
「そうでしたの…」
「お互いの家も没落することなく運よく婚約を破棄するような出来事も起らなかった。」
「政略結婚の婚約がそんなに長く続くなんて…」
「だからかメリアンの方の親戚とも縁が長く続いているな。マリィの結婚式にも参加してくれるしな」
「従兄妹達に会えるの楽しみですわ」
「領地でメリアンと色々と出かけたな…こんな湖にも…。懐かしいな…」
父はフワリと笑い、目じりにしわをよせた。
「お母様の事…愛してましたか?」
「最初は愛しているというより妹のように思ったよ。私も子供だったからな。」
「そうでしたか…」
「だが…過ごす時間を共有し、守りたいと思った。楽しい事を分け合い、つらい思いをさせたくないともな」
「分け合う…」
「アルベルト君の事、愛そうと無理に思うこともない。マリィはマリィらしく生きろ。そして『分け合う』人生を送れるようになればいい。」
「…」
「貴族女性は子を産み、血をつなぐ役目が重要だ。だが一人で何もかもは無理だろう。アルベルト君と今は無理でも結果として最後に『分け合う』人生が送れればいいんじゃないか?アルベルト君がダメなら楽しい事は子供と分け合ってもいいだろう?」
少し顔が怖めの父・クステルタ伯爵はフフンとニヒルに笑った。
「お父様…」
マリィアンナは父の言葉で気持ち軽くもなり、フフフと声をこぼしながら紅茶を飲んで微笑んだ。
小さい宿屋に泊まることになったが、料理が評判との宿であった。
マリィアンナは通された宿部屋を見て、驚いた。
こんなにせまいの?平民のお部屋は!…知らなかったわ!
メルの部屋より小さいわ…
シングルのベッドが1つと小さな1人用のテーブルがあるだけの部屋。
部屋数は少し多く、宿の店主いわく少し裕福な平民や商人が近くの湖へ遊びにきたり、帰郷の折に泊まりに来る人が多いとのことだった。
食事は1階に宿泊客はそれぞれ集まって食べる事になっていることも衝撃的であった。
マリィアンナは初めて従者や騎士といった使用人達や、平民の客達と同じ空間で食事を共にした。
使用人たちは緊張し通しだったが、マリィアンナは新鮮で楽しく感じた。
カチャカチャとなるカテラトリーの音
賑やかで楽しそうな話し声
店主や従業員が料理を作る活気ある調理音
なんだか楽しいわ!
初めての音がいっぱいですわ!
出されたメニューは魚がメインであった。
クステルタ伯爵領は海がない為、魚を食べる機会があまりなかったマリィアンナはワクワクしながら席へ着いた。
2種類のムニエル
玉ねぎのソテー
ジャガイモのポタージュ
ホカホカと湯気を立ててテーブル並べられている。
トマトベースと…これはレモンバター?酸味と爽やかな香り!美味しいわ!
なんの魚かしら?わからないけど美味しい~~!
玉ねぎってこんな味なのね。歯ごたえもいいですわ!
ジャガイモがトロトロですわ…あぁスプーンが止まらないわ…
平民向けな宿らしく、野菜がふんだんに使われた料理だったがマリィアンナは大満足だった。
ふと横を見やると、父とデグラが同じ席で食事をしていた。
父はにこやかにワインを飲み、デグラも慣れた様子で父の横で食事をしていた。
貴族と従者が同じ席で食事をとる光景をマリィアンナは初めて見たのでとても驚いた。
だが慣れた様子の父とデグラは身分を超えて特別な存在のようにみえた。
わたくしにも身分を超えて仲良くできる存在ができるかしら…
婚家には生家から使用人を連れて行かないのが通例になっていた。
里心がつかないようにと、嫁に出たら生家から完全に切り離されるからだ。
マリィアンナは信頼できる使用人から離され、ドランジェ伯爵邸宅の使用人と一から信頼関係を築かなければならない。
新しい使用人と仲良くできればいいけれど…
それにはアルベルト様からの信頼も重要にになるわ…
そんな不安を振り払うように目を固く閉じて、マリィアンナは絶品のムニエルを口へと運んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3日目、マリィアンナは起きた時に違和感を感じた。
背中、痛い…お尻も少し痛い…ヒリヒリするわ…。
貴族御用達の高級なふかふかベッドに毎日寝ていたマリィアンナの体には、平民の寝る薄い敷き布団のベッドは固すぎて、体の節々が悲鳴をあげていた。
馬車に乗ってから驚きの連続ね!
わたくしったら何にも知らなかったのね…
腰を抑えながらメイドに着替えや支度を手伝ってもらい、ソロリソロリとゆっくり体を気遣いながら1階へと下りた。
しばらくすると父が同じように腰を擦りながら下りてきた。
お父様もわたくしと一緒なのね!
マリィアンナはクスリと笑った。
朝食はパンと昨日のスープと牛の乳だった。
パンは固くてなかなか飲み込めず大変だったが、スープにつけてふやかしてなんとか飲み込んだ。
牛の乳は、生ぬるく美味しいとは言えなかった。
食事もそこそこに馬車へと乗り込み目的地へと向かった。
途中に大きい湖があったので休憩することになった。
敷物を敷いてドライフルーツと紅茶をメイドが用意する。
騎士は周りを警戒して職務を全うしようとしている。
従者はここまで歩き続けた馬に水をやったり餌をやったり世話を甲斐甲斐しくしている。
紅茶を飲みながら、甘酸っぱいフルーツを口へと放り込む。
さすがうちの領地の名産ね。いろんなフルーツがあって美味しいわ…
婚家でも食べれたらうれしいのだけど…
ぼんやり眺めつつ何の気なしに父にマリィアンナは話しかけた。
「お父様、お母様とはどうやって出会いましたの?」
「…政略結婚だった。父に言われてな」
「婚約前に面識はありましたの?」
「なかったな。だが婚約期間は少し長かったな」
「どれくらい婚約してましたの?」
「…15年だ」
「えっ」
「5歳で婚約が決まった。それから成人するまで頻繁に家を行き来していたな。社交シーズンが休みに入ると領地へ預けられて交流を深めたのだ」
「そうでしたの…」
「お互いの家も没落することなく運よく婚約を破棄するような出来事も起らなかった。」
「政略結婚の婚約がそんなに長く続くなんて…」
「だからかメリアンの方の親戚とも縁が長く続いているな。マリィの結婚式にも参加してくれるしな」
「従兄妹達に会えるの楽しみですわ」
「領地でメリアンと色々と出かけたな…こんな湖にも…。懐かしいな…」
父はフワリと笑い、目じりにしわをよせた。
「お母様の事…愛してましたか?」
「最初は愛しているというより妹のように思ったよ。私も子供だったからな。」
「そうでしたか…」
「だが…過ごす時間を共有し、守りたいと思った。楽しい事を分け合い、つらい思いをさせたくないともな」
「分け合う…」
「アルベルト君の事、愛そうと無理に思うこともない。マリィはマリィらしく生きろ。そして『分け合う』人生を送れるようになればいい。」
「…」
「貴族女性は子を産み、血をつなぐ役目が重要だ。だが一人で何もかもは無理だろう。アルベルト君と今は無理でも結果として最後に『分け合う』人生が送れればいいんじゃないか?アルベルト君がダメなら楽しい事は子供と分け合ってもいいだろう?」
少し顔が怖めの父・クステルタ伯爵はフフンとニヒルに笑った。
「お父様…」
マリィアンナは父の言葉で気持ち軽くもなり、フフフと声をこぼしながら紅茶を飲んで微笑んだ。
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