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婚約期
髪飾り
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それからアルベルトとマリィアンナはたびたびお茶会とデートをするようになった。
会話はマリィアンナ中心で話し、デート先はアルベルトが決めていた。
アルベルトのデートプランは湖へのピクニックや、雑貨屋への買い物、音楽鑑賞と様々だったが、どのデートコースも慣れた様子がうかがえた。
もし恋愛関係だったのならいい気はしないが、マリィアンナは政略結婚の相手だからか他の女性と回ったであろうデートコースに不快感を感じはしなかった。
そしてデートの最後は決まって初デートで行ったカフェで、菓子と紅茶を飲んでから帰るのがお決まりなパターンになっていった。
「今日はこの髪飾りの専門店に入ろう」
「まぁ!素敵な店構えですわね!」
店に入ると店員がにニコニコしながらよってきた。
「ようこそ、麗しきお嬢様。当店は特別な髪飾りを作る専門店でございます。ご購入後に装飾や掘り込みを行う為、作業音がいたしますがご容赦願います」
「特別な髪飾り…素敵ね!」
「どうぞ是非お手にとってご覧くださいませ。一つ一つ土台の色が違いますのでお好みのお色が見つかるかと」
アルベルトはいつものようにマリィアンナが飾りを眺めるのを少し離れたところから眺めている。
マリィアンナは様々な髪飾りの土台を次々と手に取り見比べていた。そして赤いキラキラとした髪飾りの土台を手に微笑んだ。
「それにするのか、では…」
「いえ、これはわたくしが支払いますわ」
「?」
「これはわたくしの乳母にプレゼントしたいのですわ。メルは赤いバラが好きなんですの。この土台にバラの掘り込みを三つ横並びにできるかしら?」
「承知しました。ではこちらでお預かりを」
「お支払いはこれで足りるかしら?」
「十分でございますお嬢様。掘り込みまでお時間20分ほどかかりますが」
「アルベルト様よろしいかしら?」
「…ではカフェで時間をつぶそう」
「そうですわね!では後で受け取りに来ますわ」
「承知しました。お待ちしております」
ふと外を見ると、見知らぬ貴族女性が無表情でこちらを見ていた。
視線が合ったと思ったら女性はフィッと顔を背けて歩いて行った。マリィアンナは女性が気になり歩いて行った先をぼんやり眺めていた。
「どうした?」
アルベルトに声を掛けられ、マリィアンナは淑女らしく微笑みながら
「いえ、なんでもありませんわ。髪飾り、完成が楽しみですわ!」
と、髪飾りに思いをはせながらアルベルトの腕に手を絡ませ店を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カフェに入店し、しばらくしてイチゴタルトと紅茶が運ばれてきた。
マリィアンナは上機嫌で、スライスされたイチゴがきれいに飾られたタルトを優雅に切りつつ口へと運んだ。
イチゴの甘酸っぱさを堪能していたら、アルベルトがおもむろに口を開いた。
「なぜ銀貨を持ち歩いたのだ?」
「え?」
「邸宅へ支払いをまわせばよかったではないか。それに髪飾りを配送すれば店に寄る手間もはぶけるではないか」
「…」
「女性が金銭を持ち歩くのは危険ではないか」
「それは…そうですが…」
マリィアンナは目を伏せていたが、思い切ってアルベルトへ意思を伝えることにした。
「髪飾りはわたくしの乳母への49歳の誕生日プレゼントなのです。邸宅に支払いや、配送を手配したら乳母に買ったものがバレてしまうかもしれませんわ」
「?」
「メルはわたくしがお母様のお腹にいた時からわたくしの為に尽くしてくれていたそうです。わたくしがメルの為にできる最後のプレゼントになるかもしれませんので、自分で選んで支払いをして…直接渡して驚かしたかったのですわ」
「…そうか…成程」
「アルベルト様がお店へ連れてきて下さったおかげでとっても素敵な髪飾りをプレゼントできますわ!」
「あぁ」
アルベルトは目線を外し、若干顔を背けながら紅茶を口に運んだ。
この方、合理的な考えをする一面もあるのね。なるほど。
でも、わたくしの考え方や気持ちを理解してくれたのは正直意外だったわ。
それに…政略結婚で婚約者となったわたくしの身の心配をするなんて…もしかしたらこの方と案外うまくやっていけるかも…?
アルベルトを観察しながら、マリィアンナは残りのイチゴタルトをゆっくり味わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カフェでゆっくりと時間をつぶした後、髪飾りを受け取りに向かった。
店には数人のお客がいたが店員がすぐに駆けつけてきた。
「麗しいお嬢様、髪飾りを今お持ちいたしますね」
「えぇ、お願いね」
マリィアンナが店員のやりとりをしている中、隣にいたアルベルトは外を眺め、眉をぴくりと動かした。
どうしたのかしら。何かあったのかしら…
マリィアンナはアルベルトと交流を交わすうちに観察を重ねた結果、表情がわかりにくいアルベルトの機微が少しだけわかるようになっていた。この顔は不満顔だとピンときたのだ。
アルベルトの顔に注視していた為、店員の声にマリィアンナの反応が遅れた。
「あの…お嬢様?こちらでよろしいでしょうか」
「え?…えぇ!素敵ね!ありがとう」
「また機会がありましたら是非お越しくださいませ」
「えぇ、また来るわ」
商品を受け取って従者に持たせ、アルベルトにエスコートされてマリィアンナは店を出た。
「馬車はこちらにご用意しています」と、アルベルトの従者が促したので2人は従者の後に付いて歩きだした。
マリィアンナは微笑みながらアルベルトへ話かけた。
「良いお店でしたので今度はわたくしの髪飾りを是非選びたいですわ」
「あぁ、いいな。次はカフェでなくランチをー」
アルベルトが答えようとしたその時
「まぁ、アルベルト様!」
女性の声がマリィアンナの耳に響いた。
会話はマリィアンナ中心で話し、デート先はアルベルトが決めていた。
アルベルトのデートプランは湖へのピクニックや、雑貨屋への買い物、音楽鑑賞と様々だったが、どのデートコースも慣れた様子がうかがえた。
もし恋愛関係だったのならいい気はしないが、マリィアンナは政略結婚の相手だからか他の女性と回ったであろうデートコースに不快感を感じはしなかった。
そしてデートの最後は決まって初デートで行ったカフェで、菓子と紅茶を飲んでから帰るのがお決まりなパターンになっていった。
「今日はこの髪飾りの専門店に入ろう」
「まぁ!素敵な店構えですわね!」
店に入ると店員がにニコニコしながらよってきた。
「ようこそ、麗しきお嬢様。当店は特別な髪飾りを作る専門店でございます。ご購入後に装飾や掘り込みを行う為、作業音がいたしますがご容赦願います」
「特別な髪飾り…素敵ね!」
「どうぞ是非お手にとってご覧くださいませ。一つ一つ土台の色が違いますのでお好みのお色が見つかるかと」
アルベルトはいつものようにマリィアンナが飾りを眺めるのを少し離れたところから眺めている。
マリィアンナは様々な髪飾りの土台を次々と手に取り見比べていた。そして赤いキラキラとした髪飾りの土台を手に微笑んだ。
「それにするのか、では…」
「いえ、これはわたくしが支払いますわ」
「?」
「これはわたくしの乳母にプレゼントしたいのですわ。メルは赤いバラが好きなんですの。この土台にバラの掘り込みを三つ横並びにできるかしら?」
「承知しました。ではこちらでお預かりを」
「お支払いはこれで足りるかしら?」
「十分でございますお嬢様。掘り込みまでお時間20分ほどかかりますが」
「アルベルト様よろしいかしら?」
「…ではカフェで時間をつぶそう」
「そうですわね!では後で受け取りに来ますわ」
「承知しました。お待ちしております」
ふと外を見ると、見知らぬ貴族女性が無表情でこちらを見ていた。
視線が合ったと思ったら女性はフィッと顔を背けて歩いて行った。マリィアンナは女性が気になり歩いて行った先をぼんやり眺めていた。
「どうした?」
アルベルトに声を掛けられ、マリィアンナは淑女らしく微笑みながら
「いえ、なんでもありませんわ。髪飾り、完成が楽しみですわ!」
と、髪飾りに思いをはせながらアルベルトの腕に手を絡ませ店を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カフェに入店し、しばらくしてイチゴタルトと紅茶が運ばれてきた。
マリィアンナは上機嫌で、スライスされたイチゴがきれいに飾られたタルトを優雅に切りつつ口へと運んだ。
イチゴの甘酸っぱさを堪能していたら、アルベルトがおもむろに口を開いた。
「なぜ銀貨を持ち歩いたのだ?」
「え?」
「邸宅へ支払いをまわせばよかったではないか。それに髪飾りを配送すれば店に寄る手間もはぶけるではないか」
「…」
「女性が金銭を持ち歩くのは危険ではないか」
「それは…そうですが…」
マリィアンナは目を伏せていたが、思い切ってアルベルトへ意思を伝えることにした。
「髪飾りはわたくしの乳母への49歳の誕生日プレゼントなのです。邸宅に支払いや、配送を手配したら乳母に買ったものがバレてしまうかもしれませんわ」
「?」
「メルはわたくしがお母様のお腹にいた時からわたくしの為に尽くしてくれていたそうです。わたくしがメルの為にできる最後のプレゼントになるかもしれませんので、自分で選んで支払いをして…直接渡して驚かしたかったのですわ」
「…そうか…成程」
「アルベルト様がお店へ連れてきて下さったおかげでとっても素敵な髪飾りをプレゼントできますわ!」
「あぁ」
アルベルトは目線を外し、若干顔を背けながら紅茶を口に運んだ。
この方、合理的な考えをする一面もあるのね。なるほど。
でも、わたくしの考え方や気持ちを理解してくれたのは正直意外だったわ。
それに…政略結婚で婚約者となったわたくしの身の心配をするなんて…もしかしたらこの方と案外うまくやっていけるかも…?
アルベルトを観察しながら、マリィアンナは残りのイチゴタルトをゆっくり味わった。
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カフェでゆっくりと時間をつぶした後、髪飾りを受け取りに向かった。
店には数人のお客がいたが店員がすぐに駆けつけてきた。
「麗しいお嬢様、髪飾りを今お持ちいたしますね」
「えぇ、お願いね」
マリィアンナが店員のやりとりをしている中、隣にいたアルベルトは外を眺め、眉をぴくりと動かした。
どうしたのかしら。何かあったのかしら…
マリィアンナはアルベルトと交流を交わすうちに観察を重ねた結果、表情がわかりにくいアルベルトの機微が少しだけわかるようになっていた。この顔は不満顔だとピンときたのだ。
アルベルトの顔に注視していた為、店員の声にマリィアンナの反応が遅れた。
「あの…お嬢様?こちらでよろしいでしょうか」
「え?…えぇ!素敵ね!ありがとう」
「また機会がありましたら是非お越しくださいませ」
「えぇ、また来るわ」
商品を受け取って従者に持たせ、アルベルトにエスコートされてマリィアンナは店を出た。
「馬車はこちらにご用意しています」と、アルベルトの従者が促したので2人は従者の後に付いて歩きだした。
マリィアンナは微笑みながらアルベルトへ話かけた。
「良いお店でしたので今度はわたくしの髪飾りを是非選びたいですわ」
「あぁ、いいな。次はカフェでなくランチをー」
アルベルトが答えようとしたその時
「まぁ、アルベルト様!」
女性の声がマリィアンナの耳に響いた。
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