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第5章 チビと三人の魔法使い
第5章 チビと三人の魔法使い①
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ベルが指輪からの卒業を果たしたあと、三人はそれぞれ魔法の練習を行っていた。
ベルとシャルロットは教科書に載っている癒やしの魔法を。
ヴィンダーは引き続き指輪なしでの疾風の刃を。
それぞれが毎日ベルの家で練習を重ねていた。
「グリンゲ・デ・ウェントゥス」
ヴィンダーはなんとか、呪文をすらすらと言えるようになっていた。まだ魔力が少ないため、疾風の刃の威力は小さかったが、それでも木の葉を切るまでにはなっていた。
「リヴェルリヒト」
ベルはシャルロットと共に、指輪なしでの癒やし魔法の呪文を覚えた。ベルは指輪を卒業した後、魔力の使い方をメキメキと覚えていき、あっと言う間に二人に追いついた。それでも、癒やしの魔法の使い方はシャルロットの方が上手だった。
そんな日々を送っていたある日。
ヴァンじいさんが数冊の本を持って家に帰ってきた。
「みんな、練習は順調かの?」
「ヴァンじいさん!」
「おじいちゃん!」
三人はヴァンじいさんへと駆け寄る。
「おじいちゃん、何の本を持っているの?」
「これかい? これは、お前たちに新しい魔法を教えるためのワシの教科書じゃ」
ヴァンじいさんはそう言うと、中身をパラパラとめくってベルたちに見せた。中の文字は難しく、文章も長く、ベルたちにはとてもではないが読めない。
「ヴァンじいさん、俺たちに新しい魔法を教えてくれるのか?」
ヴィンダーの素朴な疑問に、ヴァンじいさんはにこやかに頷いた。
「ヴィンダー。お主はこのまま疾風の刃を極めるために練習を続けなさい。お主の魔力に疾風の刃は答えてくれよう」
ヴァンじいさんに言われたヴィンダーは頷くと、いつも練習を行っている木の下へと駆けていった。
「シャルロット。お主、もしや癒やしの魔法の最上級である『リヴェルリヒテスト』を使えるようになっておるんじゃないかい?」
「リヴェルリヒテスト?」
それはベルたちの教科書には載っていない、上級生たちが使う最上級の癒やし魔法だった。シャルロットはヴァンじいさんに言われ、試しに両手を広げて呪文を唱えてみる。
「リヴェルリヒテスト」
するとどうだろう。シャルロットの両手から大量の緑の粒子が生まれている。それはリヴェルリヒトよりも広範囲の治癒が可能であることの証明だった。
「さすがは、シャルロットじゃな」
その様子を見たヴァンじいさんは満足そうに頷いた。そして、
「シャルロット。お主にはこの本にあった土の魔法の使い方を教えよう。後でワシのところに来なさい」
そう言うと家の方に向かって歩き出した。ベルはその後ろをついていきながら、
「おじいちゃん、私は?」
そう尋ねる。
ヴァンじいさんは顎に手を当てながら、ふむ、と少し思案顔だ。
「ベルの魔力の発達には目を見張るものがあるからの。何を教えようかのう」
ヴァンじいさんは少し悩んでいる様子だ。
最初にベルに教えた疾風の刃を、ベルは指輪なしでいつでも使えるようになっていた。威力はヴァンじいさん程ではなかったが、それでも、チビを助けた時より威力は大きい。今なら中型の動物なら簡単に仕留められるだろう。
ヴァンじいさんは家の前の丸太に座ると、持っていた本をペラペラとめくる。
「どれが良いかのう?」
そんなヴァンじいさんの様子をベルは黙って見守っていた。そしてあるページで、ヴァンじいさんの手が止まる。
「ベルや。水の魔法を使ってはみんか?」
「水の魔法?」
「そうじゃ。この魔法はの、大気中にある水を見えるようにさせ、それを霧状にして、敵の目をくらます魔法じゃ。きっといつか役に立つ日が来る」
ヴァンじいさんの言葉を聞いたベルは目を輝かせた。新しい魔法を覚えられるワクワク感と、誰かの役に立つかもしれないことに気分が高揚する。
「私、それの練習する!」
ベルは目を輝かせて答えた。ヴァンじいさんは嬉しそうに微笑むと、ベルに呪文を教えてくれる。
「いいかい、ベル。呪文はこうじゃ。『ネーベルネブラ』」
「ネーベルネブラ?」
「そうじゃ。魔力の精霊たちが、一生懸命大気中にある水を集めている様子をイメージしながら、練習するとよいじゃろう」
ヴァンじいさんの言葉を聞いたベルは、呪文を忘れないように繰り返し口に出しながら歩き出した。そして両手を前に突き出すと、
「ネーベルネブラ!」
ヴァンじいさんの言うように魔力の精霊たちが水を集めるイメージをしながら呪文を唱える。すると、一瞬ではあったがベルの手のひらの前だけ、霞がかかったように見えた。
「さすがはワシの孫じゃ。筋が良い」
その様子を見ていたヴァンじいさんが満足そうにベルに言う。しかしベルはまだ満足していなかった。この霞の範囲を広げることに、意味があると考えたのだ。
「おじいちゃん、ありがとう! 私、もっと練習してみるね!」
ベルはそう言うと、シャルロットの元へと駆けていった。
「シャルロット! おじいちゃんに新しい魔法を教わったの! シャルロットもおじいちゃんのところへ行ってみて!」
「分かったわ、ベル! ありがとう!」
声をかけられたシャルロットは、家の前の丸太に座っているヴァンじいさんの元へと駆けていく。ベルは今までシャルロットがいた場所へと行くと、教えて貰ったばかりの魔法の練習を始めるのだった。
一方シャルロットは、
「ヴァンじいさん!」
そう言って笑顔でヴァンじいさんの元へと駆けていた。
「おぉ、シャルロット。おいで」
ヴァンじいさんは笑顔でシャルロットを迎える。そして持っていた本を広げると、近づいてきたシャルロットへと見せた。
「シャルロットにはな、これを覚えて貰いたいんじゃ」
そう言って見せたページには、地面の土が大きくめくれ上がり壁のように魔法使いを守っている図が描かれていた。
「凄い!」
シャルロットはその魔法に目が釘付けのようだ。
「この魔法はな、魔法使いたちを守るための魔法じゃ。きっと、シャルロットなら使いこなすことが出来よう」
ヴァンじいさんの言葉にシャルロットも笑顔で頷く。
「私、やってみる!」
シャルロットの返事を聞いたヴァンじいさんが嬉しそうに目を細めると、
「いいかい、シャルロット。やり方は、こうじゃ」
ベルとシャルロットは教科書に載っている癒やしの魔法を。
ヴィンダーは引き続き指輪なしでの疾風の刃を。
それぞれが毎日ベルの家で練習を重ねていた。
「グリンゲ・デ・ウェントゥス」
ヴィンダーはなんとか、呪文をすらすらと言えるようになっていた。まだ魔力が少ないため、疾風の刃の威力は小さかったが、それでも木の葉を切るまでにはなっていた。
「リヴェルリヒト」
ベルはシャルロットと共に、指輪なしでの癒やし魔法の呪文を覚えた。ベルは指輪を卒業した後、魔力の使い方をメキメキと覚えていき、あっと言う間に二人に追いついた。それでも、癒やしの魔法の使い方はシャルロットの方が上手だった。
そんな日々を送っていたある日。
ヴァンじいさんが数冊の本を持って家に帰ってきた。
「みんな、練習は順調かの?」
「ヴァンじいさん!」
「おじいちゃん!」
三人はヴァンじいさんへと駆け寄る。
「おじいちゃん、何の本を持っているの?」
「これかい? これは、お前たちに新しい魔法を教えるためのワシの教科書じゃ」
ヴァンじいさんはそう言うと、中身をパラパラとめくってベルたちに見せた。中の文字は難しく、文章も長く、ベルたちにはとてもではないが読めない。
「ヴァンじいさん、俺たちに新しい魔法を教えてくれるのか?」
ヴィンダーの素朴な疑問に、ヴァンじいさんはにこやかに頷いた。
「ヴィンダー。お主はこのまま疾風の刃を極めるために練習を続けなさい。お主の魔力に疾風の刃は答えてくれよう」
ヴァンじいさんに言われたヴィンダーは頷くと、いつも練習を行っている木の下へと駆けていった。
「シャルロット。お主、もしや癒やしの魔法の最上級である『リヴェルリヒテスト』を使えるようになっておるんじゃないかい?」
「リヴェルリヒテスト?」
それはベルたちの教科書には載っていない、上級生たちが使う最上級の癒やし魔法だった。シャルロットはヴァンじいさんに言われ、試しに両手を広げて呪文を唱えてみる。
「リヴェルリヒテスト」
するとどうだろう。シャルロットの両手から大量の緑の粒子が生まれている。それはリヴェルリヒトよりも広範囲の治癒が可能であることの証明だった。
「さすがは、シャルロットじゃな」
その様子を見たヴァンじいさんは満足そうに頷いた。そして、
「シャルロット。お主にはこの本にあった土の魔法の使い方を教えよう。後でワシのところに来なさい」
そう言うと家の方に向かって歩き出した。ベルはその後ろをついていきながら、
「おじいちゃん、私は?」
そう尋ねる。
ヴァンじいさんは顎に手を当てながら、ふむ、と少し思案顔だ。
「ベルの魔力の発達には目を見張るものがあるからの。何を教えようかのう」
ヴァンじいさんは少し悩んでいる様子だ。
最初にベルに教えた疾風の刃を、ベルは指輪なしでいつでも使えるようになっていた。威力はヴァンじいさん程ではなかったが、それでも、チビを助けた時より威力は大きい。今なら中型の動物なら簡単に仕留められるだろう。
ヴァンじいさんは家の前の丸太に座ると、持っていた本をペラペラとめくる。
「どれが良いかのう?」
そんなヴァンじいさんの様子をベルは黙って見守っていた。そしてあるページで、ヴァンじいさんの手が止まる。
「ベルや。水の魔法を使ってはみんか?」
「水の魔法?」
「そうじゃ。この魔法はの、大気中にある水を見えるようにさせ、それを霧状にして、敵の目をくらます魔法じゃ。きっといつか役に立つ日が来る」
ヴァンじいさんの言葉を聞いたベルは目を輝かせた。新しい魔法を覚えられるワクワク感と、誰かの役に立つかもしれないことに気分が高揚する。
「私、それの練習する!」
ベルは目を輝かせて答えた。ヴァンじいさんは嬉しそうに微笑むと、ベルに呪文を教えてくれる。
「いいかい、ベル。呪文はこうじゃ。『ネーベルネブラ』」
「ネーベルネブラ?」
「そうじゃ。魔力の精霊たちが、一生懸命大気中にある水を集めている様子をイメージしながら、練習するとよいじゃろう」
ヴァンじいさんの言葉を聞いたベルは、呪文を忘れないように繰り返し口に出しながら歩き出した。そして両手を前に突き出すと、
「ネーベルネブラ!」
ヴァンじいさんの言うように魔力の精霊たちが水を集めるイメージをしながら呪文を唱える。すると、一瞬ではあったがベルの手のひらの前だけ、霞がかかったように見えた。
「さすがはワシの孫じゃ。筋が良い」
その様子を見ていたヴァンじいさんが満足そうにベルに言う。しかしベルはまだ満足していなかった。この霞の範囲を広げることに、意味があると考えたのだ。
「おじいちゃん、ありがとう! 私、もっと練習してみるね!」
ベルはそう言うと、シャルロットの元へと駆けていった。
「シャルロット! おじいちゃんに新しい魔法を教わったの! シャルロットもおじいちゃんのところへ行ってみて!」
「分かったわ、ベル! ありがとう!」
声をかけられたシャルロットは、家の前の丸太に座っているヴァンじいさんの元へと駆けていく。ベルは今までシャルロットがいた場所へと行くと、教えて貰ったばかりの魔法の練習を始めるのだった。
一方シャルロットは、
「ヴァンじいさん!」
そう言って笑顔でヴァンじいさんの元へと駆けていた。
「おぉ、シャルロット。おいで」
ヴァンじいさんは笑顔でシャルロットを迎える。そして持っていた本を広げると、近づいてきたシャルロットへと見せた。
「シャルロットにはな、これを覚えて貰いたいんじゃ」
そう言って見せたページには、地面の土が大きくめくれ上がり壁のように魔法使いを守っている図が描かれていた。
「凄い!」
シャルロットはその魔法に目が釘付けのようだ。
「この魔法はな、魔法使いたちを守るための魔法じゃ。きっと、シャルロットなら使いこなすことが出来よう」
ヴァンじいさんの言葉にシャルロットも笑顔で頷く。
「私、やってみる!」
シャルロットの返事を聞いたヴァンじいさんが嬉しそうに目を細めると、
「いいかい、シャルロット。やり方は、こうじゃ」
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