31 / 32
第14話 一大決心
第14話 一大決心③
しおりを挟む
しばらく考えたあとに、
「お互いの足りないところを補い合えると言う点では、楽しいし、それなりにケンカもしてきてるよ」
咲希は真面目に答えてくれる。綾乃はそうなのか、と内心で呟いた。
「どうしてそんなことを?」
咲希の質問に、綾乃はコーヒーを一口飲んでから昨夜の出来事を話した。楓に告白された辺りを話すときは、顔から火が出そうなくらい恥ずかしいと思いながらも、咲希には隠し事をしたくなかった。
「なるほどね~。それで心、ここにあらず、だったわけね」
話を聞き終えた咲希は納得している。
「私、困惑してしまって。咄嗟に返事も出来なくて……」
綾乃の言葉に咲希も真剣に耳を傾けてくれている。
「嫌な思いは全くしなかったんですけど。その、私はやっぱり……」
綾乃の中に引っかかっていることは、自身が持つ障害のことだった。どこか人とは違う。そのことを楓は知らない。知らないまま、楓の言葉に甘えてお付き合いしても良いものなのか。
「綾乃。綾乃は、良くやっている方だと思うよ」
咲希が真っ直ぐに綾乃を見て言う。
「そりゃ、障害についてはいつかはカミングアウトするべき内容ではあるけれど、それよりも今の綾乃の気持ちがどうなのか、そこが問題なのよ」
咲希の言葉に、綾乃は考える。
今の自分の気持ち。
「綾乃は、天野さんとの縁をここで切ってしまってもいいと思っているの?」
咲希の言葉にゆっくりと綾乃は自問自答する。
自分は、一体どうしたいのか。
昨日までは楓のことを知りたいと思っていた。自分のことも知ってもらいたいとも思っていた。それは障害のことも含めて、知って欲しいことだった。
「少しでも、天野さんとの縁を切りたくないと思うのなら、天野さんの気持ちに応えてあげてもいいんじゃないかな?」
「そんなに軽くて、いいんでしょうか……?」
綾乃は一生懸命考えて言葉を出した。咲希はにっこり笑うと、
「軽い決断ではないよね。でも、まだ時間はあるんだし、しっかり自分と向き合って、答えを出すべきだよ」
咲希の言葉がゆっくりと綾乃の中に染みこんでいく。
まだ時間はある。自分の中の気持ちに答えを出すには十分な時間ではないだろうか。
「綾乃。人を好きになるってね、理屈じゃないんだよ。心が引かれ合うものだから」
咲希の言葉に綾乃は顔を上げた。咲希は笑っている。
咲希も連との付き合いに心が引かれ合っているのだろうか。自分は、楓に惹かれているいるのだろうか。
「明日からの仕事には影響させない程度に、しっかり考えなさい」
咲希はそう言うとコーヒーを一口飲むのだった。
咲希に話を聞いて貰った後、いつものように家まで送って貰った綾乃はすぐに家事に取りかかった。家事をしながらも思い起こされるのは咲希の言葉だった。
楓との縁をこのまま切ってしまってもいいのか。それは嫌だった。
楓に心が引かれているのか。きっとそうなのだろう。
じゃあ、楓は?
楓も、自分と同じように自分に惹かれてくれているのだろうか。
綾乃は気付けば家事の手も止まってしまい、考え込んでしまうのだった。
翌日の業務は昨日ほど浮ついた気持ちにはならず、慎重に行うことが出来た。仕事に集中することで、楓の言葉や咲希の言葉を考えないようにしているのは、綾乃自身気付いていた。
そうして日々を過ごしていたものの、それがずっと続くこともなく、とうとう約束の期日前日になってしまう。
悶々とした気持ちで仕事を終えた綾乃に、同じシフトだった咲希が声をかけてくれた。
「あーやの!」
「先輩」
「明日ね、とうとう」
咲希の明るい声に対して、綾乃は沈んだ顔をしてしまう。そんな綾乃に咲希は優しく微笑むと、
「綾乃は、考えすぎるところあるから、まだ悩んでいるんだろうなって思ったよ」
そう言ってくれる。
「綾乃。考えることも大事だけど、感じることも大事なのよ? 感じたままに動いてみて」
咲希は綾乃の肩をぽんと叩くと、お疲れ様と言ってバックヤードを出て行ってしまう。残された綾乃はぼんやりと咲希の残した言葉を考える。
(感じたままに、動く、か……)
そのまま帰り支度を調えると、綾乃も店を後にする。
季節はすっかり秋へと移り変わり、涼しい風が綾乃の頬を撫でていく。秋風に吹かれながらいつもよりもゆっくりと歩いて帰っている間に、少しずつ頭の中もすっきりしていく。
自分が楓に対して思っていること。
感じていること。
何より、これからも楓と一緒に居たいと思う。
そう気付いた綾乃は、
(よし、決めた!)
そう一大決心をするのだった。
「お互いの足りないところを補い合えると言う点では、楽しいし、それなりにケンカもしてきてるよ」
咲希は真面目に答えてくれる。綾乃はそうなのか、と内心で呟いた。
「どうしてそんなことを?」
咲希の質問に、綾乃はコーヒーを一口飲んでから昨夜の出来事を話した。楓に告白された辺りを話すときは、顔から火が出そうなくらい恥ずかしいと思いながらも、咲希には隠し事をしたくなかった。
「なるほどね~。それで心、ここにあらず、だったわけね」
話を聞き終えた咲希は納得している。
「私、困惑してしまって。咄嗟に返事も出来なくて……」
綾乃の言葉に咲希も真剣に耳を傾けてくれている。
「嫌な思いは全くしなかったんですけど。その、私はやっぱり……」
綾乃の中に引っかかっていることは、自身が持つ障害のことだった。どこか人とは違う。そのことを楓は知らない。知らないまま、楓の言葉に甘えてお付き合いしても良いものなのか。
「綾乃。綾乃は、良くやっている方だと思うよ」
咲希が真っ直ぐに綾乃を見て言う。
「そりゃ、障害についてはいつかはカミングアウトするべき内容ではあるけれど、それよりも今の綾乃の気持ちがどうなのか、そこが問題なのよ」
咲希の言葉に、綾乃は考える。
今の自分の気持ち。
「綾乃は、天野さんとの縁をここで切ってしまってもいいと思っているの?」
咲希の言葉にゆっくりと綾乃は自問自答する。
自分は、一体どうしたいのか。
昨日までは楓のことを知りたいと思っていた。自分のことも知ってもらいたいとも思っていた。それは障害のことも含めて、知って欲しいことだった。
「少しでも、天野さんとの縁を切りたくないと思うのなら、天野さんの気持ちに応えてあげてもいいんじゃないかな?」
「そんなに軽くて、いいんでしょうか……?」
綾乃は一生懸命考えて言葉を出した。咲希はにっこり笑うと、
「軽い決断ではないよね。でも、まだ時間はあるんだし、しっかり自分と向き合って、答えを出すべきだよ」
咲希の言葉がゆっくりと綾乃の中に染みこんでいく。
まだ時間はある。自分の中の気持ちに答えを出すには十分な時間ではないだろうか。
「綾乃。人を好きになるってね、理屈じゃないんだよ。心が引かれ合うものだから」
咲希の言葉に綾乃は顔を上げた。咲希は笑っている。
咲希も連との付き合いに心が引かれ合っているのだろうか。自分は、楓に惹かれているいるのだろうか。
「明日からの仕事には影響させない程度に、しっかり考えなさい」
咲希はそう言うとコーヒーを一口飲むのだった。
咲希に話を聞いて貰った後、いつものように家まで送って貰った綾乃はすぐに家事に取りかかった。家事をしながらも思い起こされるのは咲希の言葉だった。
楓との縁をこのまま切ってしまってもいいのか。それは嫌だった。
楓に心が引かれているのか。きっとそうなのだろう。
じゃあ、楓は?
楓も、自分と同じように自分に惹かれてくれているのだろうか。
綾乃は気付けば家事の手も止まってしまい、考え込んでしまうのだった。
翌日の業務は昨日ほど浮ついた気持ちにはならず、慎重に行うことが出来た。仕事に集中することで、楓の言葉や咲希の言葉を考えないようにしているのは、綾乃自身気付いていた。
そうして日々を過ごしていたものの、それがずっと続くこともなく、とうとう約束の期日前日になってしまう。
悶々とした気持ちで仕事を終えた綾乃に、同じシフトだった咲希が声をかけてくれた。
「あーやの!」
「先輩」
「明日ね、とうとう」
咲希の明るい声に対して、綾乃は沈んだ顔をしてしまう。そんな綾乃に咲希は優しく微笑むと、
「綾乃は、考えすぎるところあるから、まだ悩んでいるんだろうなって思ったよ」
そう言ってくれる。
「綾乃。考えることも大事だけど、感じることも大事なのよ? 感じたままに動いてみて」
咲希は綾乃の肩をぽんと叩くと、お疲れ様と言ってバックヤードを出て行ってしまう。残された綾乃はぼんやりと咲希の残した言葉を考える。
(感じたままに、動く、か……)
そのまま帰り支度を調えると、綾乃も店を後にする。
季節はすっかり秋へと移り変わり、涼しい風が綾乃の頬を撫でていく。秋風に吹かれながらいつもよりもゆっくりと歩いて帰っている間に、少しずつ頭の中もすっきりしていく。
自分が楓に対して思っていること。
感じていること。
何より、これからも楓と一緒に居たいと思う。
そう気付いた綾乃は、
(よし、決めた!)
そう一大決心をするのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる