10 / 48
第一章
四 『見える』弊害③
しおりを挟む
気付くと体育館の中には奏とあずさ、そして見えてはいけない少女だけが残っていた。
「奏、お願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「あの子と話がしたいの。私、見えるようにはなったけれど、声は全く聞こえないから……」
あずさの提案を奏はすぐに了承した。靴を脱いでゆっくりと少女の元へと歩いていった。そしてあずさが声をかける。
「どうしたの?」
声をかけられた少女ははっとした様子でこちらに顔を向けた。長い髪は下の方で一本にまとめてある。顔はぼやけていてはっきりと認識できないものの、可愛らしい声で、
「見える、の……?」
その問いかけにあずさと奏は頷いた。
「そうなの……」
少女はなかなか重い口を開いてくれない。
「どうしてこんなところにいるの? 毎日私たちの練習を見てるでしょう?」
あずさの問いかけに、少女はどうしたものかと思考を巡らせているようだった。
「私に出来ることなら協力するよ!」
あずさは明るく提案していた。
どこか寂しそうに佇んでいる少女がずっと気になっていたのだ。
協力できることがあるのなら協力したい。いつしかあずさはそんなことを思うようになっていた。
あずさのその言葉に、少女は重たい口を開けた。
「私もね、この学校のバスケ部だったの」
少女は言う。
その日は寒い真冬の季節。少女はバスケ部の試合へと向かっていた。自転車を漕いでいると向かいから信号無視をしたトラックに轢かれたのだと言う。そして気付いたら母校の体育館にいたのだと。どうしても試合に出たかった。どうしても皆と試合をしたかった。そんな思いがあったから、自分はここにいるのだと。
「じゃあさ、皆と一緒、とはいかないけれど、一緒に1オン1やらない?」
「え? いいの……?」
「私もバスケ大好きだから! 一緒にやろう?」
あずさの言葉に、少女は微笑んだように見えた。
それからあずさと少女の1オン1が始まった。素人目で見ても、少女はかなりバスケが上手だった。これほどの実力があれば、やはり公式試合には出場したかったのだろう。しばらく試合を続けていたあずさと少女だったが、
「も~! 完敗!」
あずさが音をあげていた。それを見ていた少女はくすくすと笑っている。あずさはその笑顔で救われた気がした。額から流れ落ちる汗を拭って、
「どう? 少しはスッキリした?」
「うん、ありがとう」
少女は明るい声で答えた。すると少女の体から白い球体が生まれた。小さなその球体はどんどん数を増し、そして少女の体を飲み込むと少女と共に消えていった。
「消えた……?」
「成仏した、のかしら?」
残された奏とあずさは呆然と少女がいた場所を眺めていた。今まであった少女の気配も少女の思念も、何も感じられなくなっていた。
「きっと、あずさちゃんと遊べて満足したのね」
奏はそう言うと、あずさと一緒に学校を後にするため、あずさに着替えてくるよう促した。
その後二人は、泥田坊の話をしていた喫茶店へと入っていった。
「ふ~、生き返る!」
あずさは真夏の熱気を遮断している扉を開いて呟いた。午前中はずっと動いていたのだ、お昼時も過ぎ、お腹も空いてきている。
「なんでも注文して頂戴。アタシの奢りよ」
奏はあずさへにっこり笑いながら言った。
「え? この前も奢ってもらったのに、悪いよ……」
「これくらいいいのよ! 女子高生にお金を払わせるなんて、男として出来ないわ」
奏はウィンクをひとつ。
あずさは顔が赤くなるのを止めることが出来ず、俯いていた。こんな時、この端整な顔立ちの青年のことをズルイ、と感じてしまう。
「オネェのくせに……」
「なぁに?」
「何でもないです!」
思わず呟いてしまった声に奏が反応したので、咄嗟に否定の言葉を口にするあずさ。そしてそのままメニューをみる。ここはお言葉に甘えて色々と頼んでしまおう。
注文を一通り済ますと、あずさは改めて奏を見た。
「そう言えば、わざわざ学校まで来るなんて、何か急用だったの?」
あずさは当然の疑問を口にした。それに対して奏は涼しい顔で言う。
「そうね。『見える』ようになったのはあずさちゃんの方が先じゃない? だから、色々聞いておきたくって」
そう言ってブラックコーヒーを一口飲む奏。
あずさは運ばれてきた昼食となるトーストを齧りながら奏を見ていた。こうして見ると、本当に端整な顔立ちだ。ミディアムヘアの奏は奥二重のぱっちりした目をしており、髪の毛はサラサラで女の子の様だ。少し厚めの下唇にすっと通った鼻梁。しかし骨格は男性のそれだ。身長も平均よりは高く、町を歩くとあずさは必ず奏を見上げる形になる。それがあずさには少し悔しいと思えてならなかった。
「どうしたの? 人の顔をじっくり見て……」
トーストを齧りながら、切れ長の瞳を丸くしてじっと自分を見つめてくるあずさに、奏は少したじろいでいた。すっぴんでも十分に綺麗な肌と分かるあずさは、切りっぱなしのボブヘア。そして髪の色素は少し薄くなっている。こうして黙っているとお人形のような顔立ちのあずさにじっと見つめられると、奏に初めてヤタガラスと共に出会ったあずさの神秘的な雰囲気を彷彿とさせるのだった。
「綺麗な顔してるなぁって思って……」
「あらっ! ありがとう」
あずさはぼーっとしながら奏に答えていた。その答えに奏はにっこりと微笑みを返す。
「あずさちゃんだって、可愛い顔をしているわよ? お人形さんみたい」
「えっ?」
奏の言葉にあずさは再び顔が紅潮していた。綺麗な顔のお兄さんに(オネェだとしても)言われたのだ。無理もない。あずさは俯いて黙々とトーストを齧っていた。
「そうそう、学校へ行った理由よね?」
あずさの心情を知ってか知らずか、奏は口を開いた。
「実はね……」
奏はあずさに昨夜から午前中にかけてあった出来事を話した。守護霊と名乗る老婆のこと、傘屋敷のこと、そしてその傘屋敷であったこと、老婆と話をしたこと。
「ふえ~……。そんなことが……。私も傘屋敷には近付かないでおこう」
奏の話を聞いたあずさはひとりごちる。幸いにもあずさの家は傘屋敷とは反対の方角にあるため、滅多なことでは傘屋敷へと行くことはないのだが、それでも用心に越したことはないだろう。
「あずさちゃんは、『見える』ようになってから金縛りとかにあったことはないの?」
奏の率直な疑問にミルクティーを口にしながらあずさは考えている。
「ん~……、ない、かな」
「あら、いいわね~。守護霊様に会ったことも?」
「ない、かな。私、この力で不自由を感じたことってないの。唯一あるとしたら、奏みたいに声が聞こえないから、今日みたいに寂しそうにしている人の話を聞いてあげられないことぐらい、かな」
「まぁ、あずさちゃんは本当に優しいのね」
奏は目を見開いていた。
この少女は見ず知らずの人にも親切に出来るのだろう。その純粋さがヤタガラスに選ばれた要因の一つに違いない。
「まぁでも、傘屋敷のこともあるから、一概に奏みたいに感じられるのもツライことかもしれないね」
あずさは言った。そうかもしれない。これは神が新たに与えた奏への試練なのかもしれない。
そう思った奏はコーヒーに口をつける。
その後、二人は不思議な力を得てしまった同士、とりとめのない会話をしていくのだった。
「奏、お願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「あの子と話がしたいの。私、見えるようにはなったけれど、声は全く聞こえないから……」
あずさの提案を奏はすぐに了承した。靴を脱いでゆっくりと少女の元へと歩いていった。そしてあずさが声をかける。
「どうしたの?」
声をかけられた少女ははっとした様子でこちらに顔を向けた。長い髪は下の方で一本にまとめてある。顔はぼやけていてはっきりと認識できないものの、可愛らしい声で、
「見える、の……?」
その問いかけにあずさと奏は頷いた。
「そうなの……」
少女はなかなか重い口を開いてくれない。
「どうしてこんなところにいるの? 毎日私たちの練習を見てるでしょう?」
あずさの問いかけに、少女はどうしたものかと思考を巡らせているようだった。
「私に出来ることなら協力するよ!」
あずさは明るく提案していた。
どこか寂しそうに佇んでいる少女がずっと気になっていたのだ。
協力できることがあるのなら協力したい。いつしかあずさはそんなことを思うようになっていた。
あずさのその言葉に、少女は重たい口を開けた。
「私もね、この学校のバスケ部だったの」
少女は言う。
その日は寒い真冬の季節。少女はバスケ部の試合へと向かっていた。自転車を漕いでいると向かいから信号無視をしたトラックに轢かれたのだと言う。そして気付いたら母校の体育館にいたのだと。どうしても試合に出たかった。どうしても皆と試合をしたかった。そんな思いがあったから、自分はここにいるのだと。
「じゃあさ、皆と一緒、とはいかないけれど、一緒に1オン1やらない?」
「え? いいの……?」
「私もバスケ大好きだから! 一緒にやろう?」
あずさの言葉に、少女は微笑んだように見えた。
それからあずさと少女の1オン1が始まった。素人目で見ても、少女はかなりバスケが上手だった。これほどの実力があれば、やはり公式試合には出場したかったのだろう。しばらく試合を続けていたあずさと少女だったが、
「も~! 完敗!」
あずさが音をあげていた。それを見ていた少女はくすくすと笑っている。あずさはその笑顔で救われた気がした。額から流れ落ちる汗を拭って、
「どう? 少しはスッキリした?」
「うん、ありがとう」
少女は明るい声で答えた。すると少女の体から白い球体が生まれた。小さなその球体はどんどん数を増し、そして少女の体を飲み込むと少女と共に消えていった。
「消えた……?」
「成仏した、のかしら?」
残された奏とあずさは呆然と少女がいた場所を眺めていた。今まであった少女の気配も少女の思念も、何も感じられなくなっていた。
「きっと、あずさちゃんと遊べて満足したのね」
奏はそう言うと、あずさと一緒に学校を後にするため、あずさに着替えてくるよう促した。
その後二人は、泥田坊の話をしていた喫茶店へと入っていった。
「ふ~、生き返る!」
あずさは真夏の熱気を遮断している扉を開いて呟いた。午前中はずっと動いていたのだ、お昼時も過ぎ、お腹も空いてきている。
「なんでも注文して頂戴。アタシの奢りよ」
奏はあずさへにっこり笑いながら言った。
「え? この前も奢ってもらったのに、悪いよ……」
「これくらいいいのよ! 女子高生にお金を払わせるなんて、男として出来ないわ」
奏はウィンクをひとつ。
あずさは顔が赤くなるのを止めることが出来ず、俯いていた。こんな時、この端整な顔立ちの青年のことをズルイ、と感じてしまう。
「オネェのくせに……」
「なぁに?」
「何でもないです!」
思わず呟いてしまった声に奏が反応したので、咄嗟に否定の言葉を口にするあずさ。そしてそのままメニューをみる。ここはお言葉に甘えて色々と頼んでしまおう。
注文を一通り済ますと、あずさは改めて奏を見た。
「そう言えば、わざわざ学校まで来るなんて、何か急用だったの?」
あずさは当然の疑問を口にした。それに対して奏は涼しい顔で言う。
「そうね。『見える』ようになったのはあずさちゃんの方が先じゃない? だから、色々聞いておきたくって」
そう言ってブラックコーヒーを一口飲む奏。
あずさは運ばれてきた昼食となるトーストを齧りながら奏を見ていた。こうして見ると、本当に端整な顔立ちだ。ミディアムヘアの奏は奥二重のぱっちりした目をしており、髪の毛はサラサラで女の子の様だ。少し厚めの下唇にすっと通った鼻梁。しかし骨格は男性のそれだ。身長も平均よりは高く、町を歩くとあずさは必ず奏を見上げる形になる。それがあずさには少し悔しいと思えてならなかった。
「どうしたの? 人の顔をじっくり見て……」
トーストを齧りながら、切れ長の瞳を丸くしてじっと自分を見つめてくるあずさに、奏は少したじろいでいた。すっぴんでも十分に綺麗な肌と分かるあずさは、切りっぱなしのボブヘア。そして髪の色素は少し薄くなっている。こうして黙っているとお人形のような顔立ちのあずさにじっと見つめられると、奏に初めてヤタガラスと共に出会ったあずさの神秘的な雰囲気を彷彿とさせるのだった。
「綺麗な顔してるなぁって思って……」
「あらっ! ありがとう」
あずさはぼーっとしながら奏に答えていた。その答えに奏はにっこりと微笑みを返す。
「あずさちゃんだって、可愛い顔をしているわよ? お人形さんみたい」
「えっ?」
奏の言葉にあずさは再び顔が紅潮していた。綺麗な顔のお兄さんに(オネェだとしても)言われたのだ。無理もない。あずさは俯いて黙々とトーストを齧っていた。
「そうそう、学校へ行った理由よね?」
あずさの心情を知ってか知らずか、奏は口を開いた。
「実はね……」
奏はあずさに昨夜から午前中にかけてあった出来事を話した。守護霊と名乗る老婆のこと、傘屋敷のこと、そしてその傘屋敷であったこと、老婆と話をしたこと。
「ふえ~……。そんなことが……。私も傘屋敷には近付かないでおこう」
奏の話を聞いたあずさはひとりごちる。幸いにもあずさの家は傘屋敷とは反対の方角にあるため、滅多なことでは傘屋敷へと行くことはないのだが、それでも用心に越したことはないだろう。
「あずさちゃんは、『見える』ようになってから金縛りとかにあったことはないの?」
奏の率直な疑問にミルクティーを口にしながらあずさは考えている。
「ん~……、ない、かな」
「あら、いいわね~。守護霊様に会ったことも?」
「ない、かな。私、この力で不自由を感じたことってないの。唯一あるとしたら、奏みたいに声が聞こえないから、今日みたいに寂しそうにしている人の話を聞いてあげられないことぐらい、かな」
「まぁ、あずさちゃんは本当に優しいのね」
奏は目を見開いていた。
この少女は見ず知らずの人にも親切に出来るのだろう。その純粋さがヤタガラスに選ばれた要因の一つに違いない。
「まぁでも、傘屋敷のこともあるから、一概に奏みたいに感じられるのもツライことかもしれないね」
あずさは言った。そうかもしれない。これは神が新たに与えた奏への試練なのかもしれない。
そう思った奏はコーヒーに口をつける。
その後、二人は不思議な力を得てしまった同士、とりとめのない会話をしていくのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~
ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。
ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!!
※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。
恋猫月夜「魂成鬼伝~とうじょうきでん~の章」
黒木咲希
ファンタジー
これは『感情を欲した神に人生を狂わされる2匹の猫(猫又)の物語──』
猫又の薙翔と寧々は、百年という長い時間悪い人間の手によって離れ離れとなっていた。
長い月日の中二人は彷徨い歩き
ついにあやかし達が営む商店街にて再会が叶い涙ながらに喜ぶ二人だったが
そんな中、過去の恐ろしい体験による心の傷から寧々に対して
、寧々を生涯大切に愛し続けたい気持ちと寧々のすべてを欲するあまりいっその事喰らってしまいたいという欲
この相反する2つの感情に苦しむようになってしまう薙翔。
いずれ寧々を喰らってしまうのではないかと怯える薙翔にこの世界の最高位の神である竜神様は言う。
『陰の気が凝縮された黒曜石を体内へと埋め、自身の中にある欲を完全に抑えられるように訓練すればよい』と。
促されるまま体内へと黒曜石を埋めていく薙翔だったが日に日に身体の様子はおかしくなっていき…。
薙翔と寧々の命がけの戦いの物語が今幕を開けるー
【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる
夜桜カスミ
ファンタジー
主人公の雷電美琴は、数十年前に突如現れたダンジョンにて、その攻略風景を配信する配信者として活動している。
「はあ……。私って、こういうのに才能ないのかなあ……」
着物姿と薙刀一つでダンジョンを攻略する配信者はいないだろうと踏んでこのスタイルで始めたが、武器と服装が他よりやや奇抜なだけでやっていることはその他大勢と大差なく。どれだけSNSで配信の告知をしても、サムネイルを凝っても観にきてくれる視聴者の数は常に一桁にとどまっていた。
そんなある日、いつも通りダンジョンに潜ってモンスターを薙刀一つでバッサバッサ薙ぎ倒していく配信をして、いつも通り同時接続者は一人からゼロのまま過ごし、心が折れかけたので早めに切り上げて家に戻ろうと配信を終わらせる準備をした。
その時、ダンジョンに潜って探索する探索者の三人組パーティが、大型モンスターの軍勢に襲われているのを目撃した。
「逃げろ! スタンピードだ!」
「どいて。今、私、とってもむしゃくしゃしているの」
どれだけ頑張っても増えない同時接続者数にチャンネル登録。ネットで徹底的に調べて人目を引くようなサムネイルにしても効果はなかった。
必死に頑張っても伸びず、一ヶ月ぶりに送られたコメントに批判されて、ストレスはマッハで溜まっていた。
ゆえに、美琴はモンスターに八つ当たりしてしまう。それはもう一方的に、蹂躙という言葉がぴったりなほど徹底的に薙ぎ倒していった。
「はあ、こんな八つ当たりしたって、再生数も登録者も伸びやしないのに。何やってんだか……」
モンスターだったもの達の残骸のそばでため息を吐き、黙って立ち去る美琴。
「大型モンスターのスタンピードを、たった一人で全部倒した!?」
「なんだよあの雷撃!? 消し炭どころか消滅しちゃってんじゃん!?」
「あの女の子、一体何者!?」
一方で、助けられた三人組は登録者数が70万人いる大人気チャンネルを運営する攻略系配信者であり、安定して強いモンスターを相手に戦える実力者達だった。
そんな三人組でも逃げるしかできなかったモンスターの軍勢、スタンピードを蹂躙という表現以外つけられないほど一方的に倒した美琴の姿は、ばっちりとその配信と、美琴が切り忘れた自分の配信に映っていた。
「消えたと思ったらモンスターが細切れに!?」
「なんだ今の動き!? というかこの雷は何!?」
「この子は一体なんなんだ! 特定班はまだか!」
モンスターの軍勢を一方的に蹂躙するその配信の切り抜きは瞬く間に拡散されていき、美琴がぐっすりとベッドの上で眠っている間にバズりにバズりまくっていき、朝起きたら『雷神少女』という名前と共に伝説となっていたのだった。
※小説家になろうとカクヨムにも掲載しています
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる