2 / 48
第一章
一 倉田奏②
しおりを挟む
「私、湊あずさ。お兄さん、憑かれちゃってるね」
「えっ?」
湊あずさと名乗った少女は鈴を転がすような声音で言った。傍らにヤタガラスを控えさせたその神秘的な姿に、奏は声が出ない。
「お兄さん、大事にしているものがあるんでしょ?」
あずさは奏に向かって言った。奏はその神秘的な雰囲気に気圧されながらも答えた。
「え、えぇ。母から貰った鏡があるわ」
「その鏡、付喪神ね。大事にしてあげて」
あずさはにっこりと微笑んだ。
「ところで、お兄さんのお名前は?」
あずさの問いかけに呆然としていた奏の意識がゆっくりと戻ってくる。
「倉田奏、よ」
「やっだ! お兄さん、オネェなの?」
今までの神秘的な雰囲気をぶち壊す様な驚きの声に奏はついていけない。少女は、オネェ初めて見た~! と奏の周りを回りながら興奮した様子である。その様は年相応の少女のものだった。
「あ、あずさちゃん、だったかしら?」
「うん?」
「どうしてヤタガラスと一緒にいるのかしら」
奏は少女に出会ってからずっと疑問に思っていたことを口に出した。少女はその質問に、
「話すと長くなるの。でもお兄さんと一緒で私も、ヤタガラスに選ばれ たってこと」
「ヤタガラスに選ばれる?」
「そうだよ」
少女はにこにこと笑いながら続ける。
「私ね、『見える』ようになっちゃったの。色々ね。何を基準に選ばれてるのか全くわからないけれど、これからしなくちゃいけないことがあるの。お兄さんは私の助手として選ばれたって感じかな?」
少女――あずさの説明に奏の頭はついていかない。
今まで不思議な出来事はたくさんあった。しかし、ここまでのことは起きてこなかった。今目の前で起きていることは本当に現実なのだろうか?
「あ、今現実か? って疑ったでしょ~?」
そんな奏の様子を見破るように少女はくすくす笑いながら言う。
「超、現実だから! 急で信じられないかもしれないけれど、アナタがヤタガラスを認識し、ヤタガラスがここにアナタをつれて来た。それだけでもう現実離れしてることなんだよ。大丈夫。お兄さんを悪いようにはしないから!」
くるくると表情を変える目の前の少女の言葉に翻弄されながらも奏は少しずつ現実を飲み込んでいく。
「アタシ、何をしたらいいのかしら? あずさちゃんの助手なんて、見えないアタシに出来ることかしら」
「大丈夫大丈夫! それじゃあ無事に合流できたことを報告しないといけないから、私はここらで失礼するね。奏お兄さん……いやお姉さん? めんどくさいから奏でいっか。奏は本来の仕事に戻っていいからね!」
あずさはそれだけ言うとひらひらと手を振って去っていった。
残された奏は茫然自失だ。あずさは奏自身のことを助手だと言っていた。これから一体どんなことが待ち受けているのか。
一つ確かなことは、ヤタガラスに導かれただけでは済まない何か不思議な日常がこれから始まる、と言うことだけだった。
「えっ?」
湊あずさと名乗った少女は鈴を転がすような声音で言った。傍らにヤタガラスを控えさせたその神秘的な姿に、奏は声が出ない。
「お兄さん、大事にしているものがあるんでしょ?」
あずさは奏に向かって言った。奏はその神秘的な雰囲気に気圧されながらも答えた。
「え、えぇ。母から貰った鏡があるわ」
「その鏡、付喪神ね。大事にしてあげて」
あずさはにっこりと微笑んだ。
「ところで、お兄さんのお名前は?」
あずさの問いかけに呆然としていた奏の意識がゆっくりと戻ってくる。
「倉田奏、よ」
「やっだ! お兄さん、オネェなの?」
今までの神秘的な雰囲気をぶち壊す様な驚きの声に奏はついていけない。少女は、オネェ初めて見た~! と奏の周りを回りながら興奮した様子である。その様は年相応の少女のものだった。
「あ、あずさちゃん、だったかしら?」
「うん?」
「どうしてヤタガラスと一緒にいるのかしら」
奏は少女に出会ってからずっと疑問に思っていたことを口に出した。少女はその質問に、
「話すと長くなるの。でもお兄さんと一緒で私も、ヤタガラスに選ばれ たってこと」
「ヤタガラスに選ばれる?」
「そうだよ」
少女はにこにこと笑いながら続ける。
「私ね、『見える』ようになっちゃったの。色々ね。何を基準に選ばれてるのか全くわからないけれど、これからしなくちゃいけないことがあるの。お兄さんは私の助手として選ばれたって感じかな?」
少女――あずさの説明に奏の頭はついていかない。
今まで不思議な出来事はたくさんあった。しかし、ここまでのことは起きてこなかった。今目の前で起きていることは本当に現実なのだろうか?
「あ、今現実か? って疑ったでしょ~?」
そんな奏の様子を見破るように少女はくすくす笑いながら言う。
「超、現実だから! 急で信じられないかもしれないけれど、アナタがヤタガラスを認識し、ヤタガラスがここにアナタをつれて来た。それだけでもう現実離れしてることなんだよ。大丈夫。お兄さんを悪いようにはしないから!」
くるくると表情を変える目の前の少女の言葉に翻弄されながらも奏は少しずつ現実を飲み込んでいく。
「アタシ、何をしたらいいのかしら? あずさちゃんの助手なんて、見えないアタシに出来ることかしら」
「大丈夫大丈夫! それじゃあ無事に合流できたことを報告しないといけないから、私はここらで失礼するね。奏お兄さん……いやお姉さん? めんどくさいから奏でいっか。奏は本来の仕事に戻っていいからね!」
あずさはそれだけ言うとひらひらと手を振って去っていった。
残された奏は茫然自失だ。あずさは奏自身のことを助手だと言っていた。これから一体どんなことが待ち受けているのか。
一つ確かなことは、ヤタガラスに導かれただけでは済まない何か不思議な日常がこれから始まる、と言うことだけだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話
三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。
探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。
そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。
ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。
世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。
それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。
彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。
※全然フィクション
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる