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暗雲(1)
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私の頬に寄せた唇を離したレフィーは、三秒後にはいつもの無表情に――いや、何だか若干不機嫌な顔になっていた。
「邪魔が入りました」
「邪魔?」
同じく不機嫌な口調で言ったレフィーの台詞を、疑問に思いながら鸚鵡返しする。
ここはおそらく八階で、地上約十四メートルのはず。カルガディウムの街が一望できたほどの高度なはず。そんな場所に一体どんな邪魔者が現れたというのか。
そう思いながら、私は私の背後を指すレフィーの指の先を追ってみた。
「……陛下?」
あれ? 本当だ、陛下が立っている。いつの間に地上に降りていたのか。
……いや待って、やっぱり降りていない。カルガディウムは相変わらず眼下に見える。
「エレベーターを八階まで動かした際に、魔力の揺らぎが異常値でも示しましたか。それで陛下が様子を見に来てしまった、といったところでしょう。陛下は人間の形状のまま気軽に飛べますからね。迂闊でした」
私の疑問を、レフィーが即解決してくれる。
そんな意外と仕事熱心だった陛下はというと、気まずそうに頭を掻いていた。
「その、ごめん。まさかこんな場所で遊んでいるとは思わなくて」
まったくもってその通りでございます。
「ミアを脱がす手順を完璧にシミュレートできていたのに、試す機会を邪魔されました」
「なっ」
耳を疑うような台詞に、私は慌ててレフィーに目を戻した。
何て恐ろしい企てをしていたの。私の着替えを真剣に見ていると思ったら、そんなことを考えていたの貴方。阻止してくれた陛下、グッジョブです!
ああ、でも確かに漫画であったわ……最上階に向かうエレベーターの中で脱がすシーン。あったわー。
例のエリート社長がね、OLのヒロインの服を脱がすのよ。外からは見えないように、事務服は着せたままで下着だけ取り去るのよ。で、その状態で最上階の自分の部屋に連れ込むのよ。
そんな漫画ならではの技を完璧にシミュレート? このイケメン万能過ぎて怖い!
「あーっと……で、これは何なんだ? シナレフィー」
「エレベーターです」
「まずそのエレベーターがわからない」
私が一人もだもだしていた間中、陛下は外からエレベーターのそこかしこをぺたぺたしていた。
「任意の高度で空中停止できる装置です。人の他に荷物も載せることが可能ですが、四百二十九キログラム以上になると重量オーバーのアラートが鳴って動きません」
そんな細かい箇所まで再現されていたの。レフィーのこだわりが半端ない。
そういえばミステリー要素のある話で、六人乗りエレベーターにおける定員オーバーの重量を書いた覚えがある。
「陛下が使う古代竜種の重力操作を応用しました。あれは大気中の元素を操りますが、こちらは浮遊石を砕いたものを染料に使用し、術式を走らせることでオリハルコン原石側の永久機関が――」
「ごめん、もういい。やっぱりさっぱり意味がわからない」
よかった。わからないの、私だけじゃなかった。
「何だかすごいことだけは、わかった」
よかった。そんな残念な感想を抱いたの、私だけじゃなかった。
「邪魔が入りました」
「邪魔?」
同じく不機嫌な口調で言ったレフィーの台詞を、疑問に思いながら鸚鵡返しする。
ここはおそらく八階で、地上約十四メートルのはず。カルガディウムの街が一望できたほどの高度なはず。そんな場所に一体どんな邪魔者が現れたというのか。
そう思いながら、私は私の背後を指すレフィーの指の先を追ってみた。
「……陛下?」
あれ? 本当だ、陛下が立っている。いつの間に地上に降りていたのか。
……いや待って、やっぱり降りていない。カルガディウムは相変わらず眼下に見える。
「エレベーターを八階まで動かした際に、魔力の揺らぎが異常値でも示しましたか。それで陛下が様子を見に来てしまった、といったところでしょう。陛下は人間の形状のまま気軽に飛べますからね。迂闊でした」
私の疑問を、レフィーが即解決してくれる。
そんな意外と仕事熱心だった陛下はというと、気まずそうに頭を掻いていた。
「その、ごめん。まさかこんな場所で遊んでいるとは思わなくて」
まったくもってその通りでございます。
「ミアを脱がす手順を完璧にシミュレートできていたのに、試す機会を邪魔されました」
「なっ」
耳を疑うような台詞に、私は慌ててレフィーに目を戻した。
何て恐ろしい企てをしていたの。私の着替えを真剣に見ていると思ったら、そんなことを考えていたの貴方。阻止してくれた陛下、グッジョブです!
ああ、でも確かに漫画であったわ……最上階に向かうエレベーターの中で脱がすシーン。あったわー。
例のエリート社長がね、OLのヒロインの服を脱がすのよ。外からは見えないように、事務服は着せたままで下着だけ取り去るのよ。で、その状態で最上階の自分の部屋に連れ込むのよ。
そんな漫画ならではの技を完璧にシミュレート? このイケメン万能過ぎて怖い!
「あーっと……で、これは何なんだ? シナレフィー」
「エレベーターです」
「まずそのエレベーターがわからない」
私が一人もだもだしていた間中、陛下は外からエレベーターのそこかしこをぺたぺたしていた。
「任意の高度で空中停止できる装置です。人の他に荷物も載せることが可能ですが、四百二十九キログラム以上になると重量オーバーのアラートが鳴って動きません」
そんな細かい箇所まで再現されていたの。レフィーのこだわりが半端ない。
そういえばミステリー要素のある話で、六人乗りエレベーターにおける定員オーバーの重量を書いた覚えがある。
「陛下が使う古代竜種の重力操作を応用しました。あれは大気中の元素を操りますが、こちらは浮遊石を砕いたものを染料に使用し、術式を走らせることでオリハルコン原石側の永久機関が――」
「ごめん、もういい。やっぱりさっぱり意味がわからない」
よかった。わからないの、私だけじゃなかった。
「何だかすごいことだけは、わかった」
よかった。そんな残念な感想を抱いたの、私だけじゃなかった。
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