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社会貢献のススメ(5)

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「胡蝶蘭草で必要なのは、この花弁だけですので」
「それは聞いてたけど……聞いてたけど、折角綺麗なんだから陛下も咲いたところが見たいかと思ったのに」
「そうですね。彼なら大袈裟なほどに喜んでくれるでしょう」
「それわかった上でブチッとやったの……」

 しれっと答えたレフィーに、衝撃が薄れて代わりに呆れがくる。
 もしかして私が思っているより陛下とは仲が良くないんだろうか。それとも陛下を上げて落としたときのリアクションが見たいとか。
 「綺麗に咲いていました」「そうなのか、今から見に行く」「いえ、ここにあります」「!?」「綺麗に咲いて」「……」――小劇場、完。的な。
 ……あ、本当に上演されそう、この演目。

「……癪なので」

 うっかり演目のタイトルまで考えかけていたところ、レフィーがボソッと呟く。
 「うん?」と首を傾げて見せれば、珍しく彼はふいっとそっぽを向いた。

「私にできないことを別の男がミアにするのは癪なので、咲いている花は見せません」
「うんん?」

 そっぽを向いたままでレフィーが言い、あげく早足で庭を出て行った。

「ええー……」

 友人との不仲説でもなく、レフィーの悪趣味説でもなく、正解は『拗ねていた』でした! ……わからないって、それは。

(でもそうか。感情が顔に出にくいこと、気にしてたんだ。意外)

 私がポーカーフェイスに憧れていた面もあって、レフィーにそんな悩みがあることに全然気付けなかった。好きなものを前にしたときはともかく、嫌いな人を前にして顔に出てしまうことは、私は本当に困っていたから。
 それを自覚していたので、嫌いな人と鉢合わせそうな機会は、できる限り避けていた。そうやって逃げていたから、いつまで経っても改善されなかったともいう。

(んー、でもレフィーのは私の場合と違って、繕ってはいないのよね)

 レフィーは感情が顔に出にくいことを自覚はしていても、繕おうとしていたことは無いと思う。だからしばらく側にいれば、無表情の向こうにいる彼がちゃんと見えてくる。
 陛下は勿論、私も結構わかってきたと思う。そして一度わかってしまえば、レフィーは結構感情豊かだ

(知らぬは本人ばかりって奴ね)

 運良くほとんど水を零さずに落ちていたジョウロを拾う。
 それから私はまだ蕾の胡蝶蘭草に、鼻歌交じりで水遣りを再開した。
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