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貴女は私の番(1)

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 本屋で換金を終え、私たちは中央区から西区へと向かっていた。

「ねぇ、レフィー」
「何でしょう?」
「かなりの高確率で女性がレフィーを振り返ってる……」

 打率九割行ってやしませんか? 二度見三度見の人までいるのですが。
 おかしい。私の漫画を実践中なのは、レフィーだけのはずなのに。野生のエキストラが多過ぎる件について。

「あと低確率だけど、私が睨まれてる……」

 目を合わせてはいけないし、レフィーにチクっているのを勘付かれるのも怖い。私は街並みを眺める振りをして、こっそり言った。
 それを受けて、レフィーが直近で睨みを利かせていった女性を一瞥する。

「あれはミアが睨まれているというのとは、少し違うと思いますよ」

 本当に一瞥くれただけで、レフィーは直ぐさま進行方向に目を戻した。

「多くの人間にとって他人への関心は、「あの人と比べて自分はどうか?」に集約されます。先程の女性もおそらくその例に漏れないでしょう。彼女にとって、「ミアより自分は魅力的かどうか」という問いは、「バスタブの猫足より自分の足は美しいか」と同レベル。どうでもいい。気にするだけ無駄ですね」
「ズバッと言ったね」
「それから今の私は人間の姿なので、振り返るのが人間の女なのは当然です」
「ズバッと言ったね!」

 いやまあ実際、その潔さも含めて素敵ですけどね、貴方。

「って、あれ? 今の言い方だと、竜のときは竜な女性がレフィーを振り返っていたのよね? 竜は番にしか興味を示さないんじゃなかったの?」

 麻理枝先輩から聞いていた話だと、確かそんな設定だったはず。「本能レベルで唯一」というのが、竜の愛し方だとかどうとか。

「興味の種類によりますね。欲情という点では、ミアが言うように番にしか惹かれません。ですが、竜は基本的に美しいものが好きなので。コレクションとして同族を欲しがる者も、います」
「コレクションとな……」

 それ、人間で例えるなら、人間をコレクションとして集めているという話になるのでは。
 ……ん? 待って、ある。あるわ。成金親父が美女侍らせるとか、普通にあるわ。何てこと、シュールな世界は割と身近にあったのだ……。

「そっか。他に欲情はしないから、番が唯一なの――ね?」

 得心いった。そう話題を締め括ろうとして、ふとその直前のレフィーの台詞が頭を過る。

「番には欲情という意味で、関心がある」
「そうですね」
「私はレフィーの……番」
「そうですね」

 と、いうことはですよ?

「……してるの? 欲情」

 まったくそう見えませんけど。

「してますよ」
「してるの!?」

 まったくそう見えませんけど!

「いやだって、レフィーが私を迎えにきたのって、偶然よね?」

 今年旱魃になったことも、ましてやその生け贄に私が選ばれたことも、レフィーは知りようがないはず。

「偶然ですが、必然です」
「どっち!?」

 それ対義語ですし!

「以前、過去に人間を番とした竜の話を耳にしたのですが、その方は白い結婚をされていたようで。私はそのときに、「そんな稀な状況にありながら、異種族間での繁殖を試さないとは勿体ない。これはもう、私が自分で実行するしかない」そう思ったんですよ。そう思い立ったということは、その時点で私の番が人間だということになります。番以外とは、子を成せないわけですから」
「あ。あー……なるほどね」
「シクル村の風習は随分前から知っていました。でもそのときは、単なる知識でしかなかった。ところが今回の旱魃に限って、生け贄の人間が欲しいと思った……そう、勘が働いた」

 レフィーが空いている方の手で、自身の顎をひとでする。

「状況的に見て、番は貴女で間違いないと確信しました」

 でもって顎に手をやったままのレフィーに、「容疑者はお前だ」的な言い回しで言われる。恋の始まりを尋ねたはずが、気が付いたら推理を聞かされていた。

「レフィーは女性をコレクションしたいとかは……」
「私は本があればいいです」

 うーん。清々しいほどの即答だ!
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