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ヒロインに突撃しま――されました。(2)

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「その、実はランセル様のことを教えていただきたいのです。ヴィオレッタ様は従兄弟と伺いました」
「ランセル?」

 モニカの予想外の用件に、私は思わず目をしばたたいた。
 この世界線でのモニカは、リヒト王子ルートのはず。なのにランセルのことを聞きに? リヒト王子じゃなくて?

(……って、そうか。さすがにモニカでも婚約者候補に直接聞く真似はしないか)

 うっかり自分が婚約者候補なことを忘れていた。いけない。私はシナリオを外れたいのだ、もっと気を強く持って未来を変えねば。
 じっと、モニカを見てみる。
 「お願い」ポーズも相俟あいまって、彼女はものすごく恋する乙女に見える。
 これはあれか。ランセルはリヒト王子と仲が良い。なので将を射るには……ではないが、ランセルへの印象を先に良くしようという腹積もりだろうか。
 いきなり王族へアプローチというのは、確かに実行するのが難しいだろう。逆も然りで、ゲームではリヒト王子はモニカへの想いをランセルに打ち明けて、協力してもらっていた。描かれなかっただけで、モニカ側からランセルに働きかけるという動きも、あったのかもしれない。
 そう私は推測して――

「ランセル様……素敵ですよね。決まったお相手はいらっしゃるのかしら……?」

 それは彼女の一言で、とんだ見当違いだったことを知らされた。
 ――うん、待って?

「……あなたがランセルに想いを寄せている……ということかしら?」
「! ……はい、きっと片想いだとは思うんですけど」

 「キャッ」と、モニカが両手を自分の頬に当てる。
 いやいや、「キャッ」じゃない。待って、どういうことなの。

(確かに入学式では、リヒト王子にぶつかって来たわよね、この子?)

 私はあのときリヒト王子の隣にいたのだ、見間違えようがない。第一、私が前世を思い出したきっかけも、彼女のその行動だった。

(それなのに、何で途中からランセルルート(?)に突入しているの?)

 本来のランセルルートなら、モニカが入学式でぶつかるのはランセルのはずだ。――って、出会いシーンは使い回しか、シナリオライター!

「そ……うね、ランセルなら決まった相手はいないはずよ」

 混乱しながらも答えれば、モニカが「そうなんですね!」とズイッと私に寄ってくる。他の情報も教えれば、その一つ一つに彼女は「ふんふんなるほど」と真剣に頷いていた。
 片や教える方の私はといえば、逆に謎が深まっていく。
 おかしい。私がシナリオを変えてやるぞと決意したのは、昨日。それなのに、モニカが既にリヒト王子ルートを進んでいない。彼女の身に一体何が起こったというのか。私が行動を起こしていないのだから、彼女の方でシナリオから外れる出来事があったはずだ。

(……あっ。そうだ、一回だけ……)

 入学式から今日までを思い返していた私の頭に、はたとある場面の記憶が蘇った。

(『陽だまり』のアップルパイ……)

 『僕は今、すごく感動してる……』
 リヒト王子の呟きを、呆然としていた彼の顔とともに思い出す。

(えっ、もしかしてあれだけで未来が変わった?)

 あまりの呆気なさに、私の方まで呆然となりかけた。
 いや確かに恋愛ゲームでの好感度上げは、大体において好みのプレゼントを贈りまくる行動に尽きますけれども!?
 それにしたって、たったの一回で? ああでも、些細なきっかけが大きな事象に繋がることを表した、バタフライ効果という言葉があったっけ。日本で言うところの「風が吹けば桶屋が儲かる」な奴。

「それでランセル様のお好きなものとかは、ご存知でしょうか!?」
「そ、そうね。ランセルは――――」

 私は「風が吹けば」から「三味線の需要が高まる」までを辿ったところで、さらに前のめりに聞いてきたモニカに現実へと呼び戻された。
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