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最後の晩餐が始まりました。(2)

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「ほらまた、そうやって君は返すから。――ああそれでね、今日の三つ目のお土産は……『独楽こま』だよ」
「……」

 ぼんやりとして焦点の合っていなかった私の目が、今度は合いすぎて点になる。
 独楽? 今、独楽と言った?
 この世界では耳新しく別の世界では古めかしいその単語を、思わず反芻する。私がそうしているうちに、リヒト王子は二センチ四方くらいのそれを二つ、テーブルの上にころんと置いた。
 独楽だ。独楽だわ。『独楽 昭和』で検索したらトップに出て来るような、独楽だわ。

「前回の定期船で色々買ったから、もういっそ僕の部屋に招待したいくらいなんだけど。さすがにそれは許可が下りなくて」
「それはそうでしょう……」

 だってあなたの家、王宮ですし。心底残念そうな顔をするリヒト王子に、私は呆れ交じりに返した。
 そういえば、そうだった。リヒト王子は毎回、三種類のお土産を持ってくる。我が家へは花を、私には私が好きなもの――と、彼が好きなものを。
 意外と最後のお土産は、重要だと思う。
 男性が家と意中の人への贈り物をするのは、そう珍しいことではない。やはり女性の好きなもの……もしくは世間一般的に女性が好むものを選んで、男性は手土産とする。それはそれで「愛情のある方」と評価は上がるが、釣った魚に餌をやらない男性もこれまた珍しくないわけで。女性はそれを知っているから、多くの恋人たちは徐々に距離を詰めていくことになる。
 そこへ男性が、自分の好きなものを伝えたらどうだ。お互いにお互いの好みを知っているという関係は、ぐっと距離が近くなる。
 まあ男性の趣味によっては、諸刃の剣とも言えるが。今回は独楽だったリヒト王子の前回の手土産はミニサイズな埴輪だったし。その前は勾玉だったし(どうやらこの世界には日本に似た国があるらしい)。そういう感性に付いていけない女性は、逆に心が離れるだろう。もっとも、それで冷めるなら将来的にも冷める可能性大なので、その点の判断材料としてもやはり重要だと思う。

「これはね、ここの軸を持って、捻って回して遊ぶんだよ」

 リヒト王子が二つのうちの一つを手に取り、手本を示すように回してみせる。
 って、本当に手本レベルで上手いね王子!? ほぼその場で動かず回っているよ……。
 ――ところでわざわざ二つ持ってきたのは、やっぱり私に一緒に回せということよね?
 テーブルに転がったままの方の独楽を手に取り、それを見下ろす。

「力を入れないのがコツなんだ」

 コツを伝授している辺り、どうやら私がこの場で回すのは決定事項のようで。
 しかし、紅茶が載ったこのテーブル。ここを遊戯台とするのは、行儀が悪いといえる。だとして、王族が先にやっていることに参加しない方と、どちらがマナー違反なのだろうか。誰か正解を教えて。

「……えいっ」

 悩んだあげく、私は独楽を回す方を選択した。どちらが正解かわからないなら、私自身のやりたいかやりたくないかで判断するほかない。
 ここは元日本人の意地を見せてやるぜと意気込んだものの――

「あっ」

 ギュイーン
 私の意気込みを体現したかのような勢いで、独楽はテーブルの上を走り出した。
 大きく弧を描き、
 カチンッ
 リヒト王子のカップにぶつかり、

「おっと」

 ヒュンッ
 危うく場外へ飛び出しかけたそれは、リヒト王子の手によって空中キャッチされた。

「ヴィオは力を入れすぎだね」
「……そのようですわ」

 リヒト王子が手にした独楽をまた、テーブルの上で回す。
 それは先に回っていた方の独楽と仲良く並んで、しばらくの間回っていた。
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