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プロローグ やっぱり悪役令嬢ですか?
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日本から剣と魔法な異世界に転生を果たして早十八年。
その内訳は、銀髪青目のクール系美少女に成長したなぁとにやけていた十六年と――
この容姿で侯爵令嬢という立ち位置に、もしやと思っての二年……。
「――来たわ。この展開……」
「アデリシア・ノイン! 今を以て、俺はお前との婚約を破棄する!」
ババーンという効果音でも付きそうな、スレイン王子の高らかな宣言。そんな彼の隣には、ドヤ顔のジェニファー・コール子爵令嬢。
ロケーションが学園の卒業パーティーではないものの、疑いようのないこの展開。
(私、やっぱり悪役令嬢だわ)
『未来の王妃』として登城していた私は雅な庭園にて、俗な三文芝居に巻き込まれていた。
「邪魔はさせない。俺はジェニーと真実の愛を見つけたのだ!」
「スレイン様……」
ベタ過ぎる台詞を言いながら、蔓薔薇に囲まれた噴水の前でひっしと抱き合う二人。
彼らを見ながら考える。さてこれは、どちらなのかと。
「ショックで声も出ないか、アデリシア。縋っても無駄だぞ、ジェニーとの仲は既に父上から許しを得ている」
「ごめんなさい、アデリシア様。でも私たち、心から愛し合っているんです!」
「今日明日にでも、貴様の家に婚約破棄の通達が行くことだろう」
スレイン王子が、高笑いしながら私を指差す。彼のもう片手は子爵令嬢を抱き寄せている。
容姿は整っているが惹かれるものがない金髪王子と、容姿は可愛いものの気品が感じられない桃色髪の令嬢という組み合わせ。一言で言うと、二人ともモブ感しかない。
(これは……十中八九、後者だわ)
私は先程から考えていた『どちら』に、結論を出した。
即ち、ここは私が『悪役令嬢として断罪される物語』なのか、あるいは私が逆ざまぁをする『悪役令嬢の物語』なのか――という二択の。
(婚約破棄からの『私たち愛し合っているんです』発言……もうテンプレな感じよね)
スレイン王子は正直好みではないので悲壮感はないし、また逆ざまぁする方と思えば当然危機感もない。こちらのリアクションとしては、前世で読んでいた数多の悪役令嬢ものに思いを馳せての空笑いしか出てこない。
――と、そうしたところでハッとする。
(そうだ……婚約破棄! 破棄されたのよ、私)
スレイン王子は子爵令嬢とのことについて父――つまり国王陛下の許可を得たと言った。近いうちに私との婚約を破棄する旨の通達が行くだろうとも。
王子のことだから、この後に婚約破棄について周りに触れ回るだろう。あるいはもう既にそうしているかもしれない。
私はバッと王都の方へと目を向けた。
物心ついた頃には婚約者がいた私。だからこれまでは憧れの男性がいても、その想いを告げることも叶わなかった。
(今なら……)
今なら私はフリーだ。
勿論、侯爵令嬢として彼と恋仲になったり、ましてや結婚することなんてできないだろう。私が恋する彼は平民。二十も年上で、しかも既に死別したとはいえ既婚者だった人。さらには私と同年代の息子までいるという話。これから私の『悪役令嬢の物語』が始まったとしても、絶対に男主人公とはならないだろう人。
だとしても今なら、「せめて好きだと伝えられたら」という願いであれば叶えられる。
(こうしちゃいられないわ)
私はドレスの裾を掴み、身を翻した。
「どうぞ末永くお幸せに。失礼いたしますわっ」
同時に早口で暇を告げて、一目散に城門へと向かう。
早々に観劇からの退場を試みた私が、役者二人の目には尻尾を巻いて逃げるように映ったのだろう。後ろで勝ち誇ったように笑う彼らの声が聞こえた。
でもそんなものは気にならない。寧ろ婚約破棄というまたとない機会をくれた彼らに、感謝すらしたいくらいだ。
(レンさん……)
思わず心の中で彼の名を呼んでしまう。
逸る気持ちを抑えながら、私はマナー違反すれすれの早足で王城の廊下を駆け抜けた。
その内訳は、銀髪青目のクール系美少女に成長したなぁとにやけていた十六年と――
この容姿で侯爵令嬢という立ち位置に、もしやと思っての二年……。
「――来たわ。この展開……」
「アデリシア・ノイン! 今を以て、俺はお前との婚約を破棄する!」
ババーンという効果音でも付きそうな、スレイン王子の高らかな宣言。そんな彼の隣には、ドヤ顔のジェニファー・コール子爵令嬢。
ロケーションが学園の卒業パーティーではないものの、疑いようのないこの展開。
(私、やっぱり悪役令嬢だわ)
『未来の王妃』として登城していた私は雅な庭園にて、俗な三文芝居に巻き込まれていた。
「邪魔はさせない。俺はジェニーと真実の愛を見つけたのだ!」
「スレイン様……」
ベタ過ぎる台詞を言いながら、蔓薔薇に囲まれた噴水の前でひっしと抱き合う二人。
彼らを見ながら考える。さてこれは、どちらなのかと。
「ショックで声も出ないか、アデリシア。縋っても無駄だぞ、ジェニーとの仲は既に父上から許しを得ている」
「ごめんなさい、アデリシア様。でも私たち、心から愛し合っているんです!」
「今日明日にでも、貴様の家に婚約破棄の通達が行くことだろう」
スレイン王子が、高笑いしながら私を指差す。彼のもう片手は子爵令嬢を抱き寄せている。
容姿は整っているが惹かれるものがない金髪王子と、容姿は可愛いものの気品が感じられない桃色髪の令嬢という組み合わせ。一言で言うと、二人ともモブ感しかない。
(これは……十中八九、後者だわ)
私は先程から考えていた『どちら』に、結論を出した。
即ち、ここは私が『悪役令嬢として断罪される物語』なのか、あるいは私が逆ざまぁをする『悪役令嬢の物語』なのか――という二択の。
(婚約破棄からの『私たち愛し合っているんです』発言……もうテンプレな感じよね)
スレイン王子は正直好みではないので悲壮感はないし、また逆ざまぁする方と思えば当然危機感もない。こちらのリアクションとしては、前世で読んでいた数多の悪役令嬢ものに思いを馳せての空笑いしか出てこない。
――と、そうしたところでハッとする。
(そうだ……婚約破棄! 破棄されたのよ、私)
スレイン王子は子爵令嬢とのことについて父――つまり国王陛下の許可を得たと言った。近いうちに私との婚約を破棄する旨の通達が行くだろうとも。
王子のことだから、この後に婚約破棄について周りに触れ回るだろう。あるいはもう既にそうしているかもしれない。
私はバッと王都の方へと目を向けた。
物心ついた頃には婚約者がいた私。だからこれまでは憧れの男性がいても、その想いを告げることも叶わなかった。
(今なら……)
今なら私はフリーだ。
勿論、侯爵令嬢として彼と恋仲になったり、ましてや結婚することなんてできないだろう。私が恋する彼は平民。二十も年上で、しかも既に死別したとはいえ既婚者だった人。さらには私と同年代の息子までいるという話。これから私の『悪役令嬢の物語』が始まったとしても、絶対に男主人公とはならないだろう人。
だとしても今なら、「せめて好きだと伝えられたら」という願いであれば叶えられる。
(こうしちゃいられないわ)
私はドレスの裾を掴み、身を翻した。
「どうぞ末永くお幸せに。失礼いたしますわっ」
同時に早口で暇を告げて、一目散に城門へと向かう。
早々に観劇からの退場を試みた私が、役者二人の目には尻尾を巻いて逃げるように映ったのだろう。後ろで勝ち誇ったように笑う彼らの声が聞こえた。
でもそんなものは気にならない。寧ろ婚約破棄というまたとない機会をくれた彼らに、感謝すらしたいくらいだ。
(レンさん……)
思わず心の中で彼の名を呼んでしまう。
逸る気持ちを抑えながら、私はマナー違反すれすれの早足で王城の廊下を駆け抜けた。
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