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第四章 意味と願いと選択と
願いと選択(1)
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私は窓の向こうの神殿を眺めながら、イスタ邸西館の廊下を歩いた。
ルシスの各地を巡り、またここへと戻ってきた。物語が始まり、そして終わる場所へ。
曲がり角を曲がり、足を止める。私は右手の部屋――資料室の扉を開いた。
(この部屋に来るのも久しぶりね)
室内に入り、扉に手を掛けたまま後ろを振り返る。
「どうぞ、美生。入って」
「お邪魔します」
美生が断りを入れて、部屋の中に入ってくる。彼女とは夕食後、食堂からここまで一緒に来ていた。
話がしたいという美生に、私が資料室でと誘った。カサハとのエンディングフラグが立っているとはいえ、彼女の部屋はあらゆるイベントの発生場所なので念のため。
長椅子のところまで行き、並んで座る。
「あ、あの、彩子さん」
途端、美生が口火を切った。
彼女の急く様子には気付いていた。廊下を行く間中、落ち着かないようだったから。
私は何も言わないで、顔だけを美生に向けた。
「私、ルシスに残ることにしました」
一言一言、美生が丁寧に口にする。
「私、家族が好きです。温かくて、今でも帰りたい場所に変わりはありません。でも、だからこそ気付いてしまったんです。私は、カサハさんとそんな場所を築きたいって。それが私の夢で、元の世界ではそれは叶えられないんだって」
「……そっか」
「私は、カサハさんの隣で生きて行きたい」
「うん」
美生の告白に、私は短く相槌を打った。
知っていたからという理由以上に、腑に落ちたと思ってしまったから。
正直ゲームプレイ中は、そう簡単に異世界を選べるものかと思っていた。けれどこうして直に聞いてみて、すんなりと納得が行ってしまった。
『家族が好きだから、カサハと家族になりたい』
どうして今まで思い至らなかったのだろうと思うほどに、これ以上ない彼女らしい理由だった。
美生の願いは叶うだろう。ゲームでのエピローグのように、いつまでもカサハの隣で幸せそうに笑っていられるだろう。
でも『彩生世界』のそれは、私の中ではグッドエンド――ベストエンドではなかった。
(今でも帰りたい場所と言うほど大切なものを、私なら美生に残すことができる)
私は決意を新たにし、すべてが決する明日に思いを馳せて――
「彩子さんは、どうするんですか?」
「え?」
だから唐突に来た美生の問いに、一瞬何を言われたのか理解が遅れた。
ルシスの各地を巡り、またここへと戻ってきた。物語が始まり、そして終わる場所へ。
曲がり角を曲がり、足を止める。私は右手の部屋――資料室の扉を開いた。
(この部屋に来るのも久しぶりね)
室内に入り、扉に手を掛けたまま後ろを振り返る。
「どうぞ、美生。入って」
「お邪魔します」
美生が断りを入れて、部屋の中に入ってくる。彼女とは夕食後、食堂からここまで一緒に来ていた。
話がしたいという美生に、私が資料室でと誘った。カサハとのエンディングフラグが立っているとはいえ、彼女の部屋はあらゆるイベントの発生場所なので念のため。
長椅子のところまで行き、並んで座る。
「あ、あの、彩子さん」
途端、美生が口火を切った。
彼女の急く様子には気付いていた。廊下を行く間中、落ち着かないようだったから。
私は何も言わないで、顔だけを美生に向けた。
「私、ルシスに残ることにしました」
一言一言、美生が丁寧に口にする。
「私、家族が好きです。温かくて、今でも帰りたい場所に変わりはありません。でも、だからこそ気付いてしまったんです。私は、カサハさんとそんな場所を築きたいって。それが私の夢で、元の世界ではそれは叶えられないんだって」
「……そっか」
「私は、カサハさんの隣で生きて行きたい」
「うん」
美生の告白に、私は短く相槌を打った。
知っていたからという理由以上に、腑に落ちたと思ってしまったから。
正直ゲームプレイ中は、そう簡単に異世界を選べるものかと思っていた。けれどこうして直に聞いてみて、すんなりと納得が行ってしまった。
『家族が好きだから、カサハと家族になりたい』
どうして今まで思い至らなかったのだろうと思うほどに、これ以上ない彼女らしい理由だった。
美生の願いは叶うだろう。ゲームでのエピローグのように、いつまでもカサハの隣で幸せそうに笑っていられるだろう。
でも『彩生世界』のそれは、私の中ではグッドエンド――ベストエンドではなかった。
(今でも帰りたい場所と言うほど大切なものを、私なら美生に残すことができる)
私は決意を新たにし、すべてが決する明日に思いを馳せて――
「彩子さんは、どうするんですか?」
「え?」
だから唐突に来た美生の問いに、一瞬何を言われたのか理解が遅れた。
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