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第四章 意味と願いと選択と
異なる世界の貴方が誰より(3)
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ゲームで美生がカサハに告白するタイミングは、各地を巡ってイスタ邸に着いた直後。つまり私たちの時系列で行けば、ついさっきの出来事になる。
相変わらず気まずいままでも、カサハは美生を部屋まで送ってくれて。そこで彼女は、帰ろうとした彼の腕を引っ張って一緒に部屋に入る。
いざ告白しようとして言葉に詰まった美生は、花瓶に飾られたマトリの花を見つけて。そして気持ちを花言葉『あなたを私で染め変える』に乗せて、カサハに贈るのだ。
『私、あなたを忘れたくない。だから私を帰せなくなるくらい、あなたが私を好きになって下さい! 私は、カサハさんが好きだから!』
(でも美生はその言葉をまんまの意味でしか捉えてなかったのよね……さすがヒロイン、純真だわ)
対して純真でないカサハは花言葉を人から(そういえばロイくんと判明した)聞いた際に、ちゃんとその裏にある意味に気付いて、そちらも教えてもらっていた。
『あなたを私で染め変える』は心をという意味もあるにはあるが、一般的に広まっているのはその裏の方の意味……ベッドへお誘い文句なのだということを。
私はというと……勿論、カサハ同様純真ではなかった。美生が最初に花言葉を教えてもらった場面で既に、裏の意味で取っていた。
(大人だものね……私たち)
そっちに発想が行ってしまう思考、わかる。
けれどその後は、さすが攻略対象キャラというところか。美生にそれを伝えた上で、カサハは「いつかの約束として、俺はそれを受け取っていいだろうか?」と彼女に返す。
(美生と両想いじゃなければ事案だわよ……)
まああの可愛い美生にあれほど真っ直ぐ好意を向けられたなら、理性が少々プチッと行ってしまう気持ちもわかる。
シナリオ通りなら、そもそも美生がセネリアとわかった時点で、カサハのセネリアへの憎しみは消えている。彼が美生を避けていたのは、自分の失言に対する後悔からの行動になる。カサハはセンシルカでそうとは知らず美生本人に、「自分はセネリアを躊躇いなく殺すだろう」と言ってしまっていたはずだから。
カサハはそんな自分に美生が変わらず好意を向けてくれるとは思っておらず。美生は美生で、昨日聞いた通り避けられている理由について自分がセネリアだからと思っていて。
そんな状況を、美生は愛の告白で打破。
そしてカサハの実情を知った彼女は、彼に答える。
『殺されてもいいくらい好きだから、いいんです』
ヒロインだわ。美生、めっちゃヒロインだわ。カサハの返しじゃないけど、「そんなお前だから俺は、殺せないくらい好きになってしまった」ってなるわ。わかるわ。
マトリの花を受け取ったカサハがその場で美生を襲わなかったのは、偏にアダルト作品でなかったからであろう。『彩生世界』がそっち系であれば確実に、カサハの「もう返さない。花も、お前も」の台詞の後はR指定展開(ただし約束は『いつか』であるため寸止め)だったに違いない。
(やりかねないわ……このムッツリなら)
私はそんな眼差しで、美生が「はい、あーん」的に差し出したハンバーグ(仮)を食べていたカサハを見遣った。
「……私は、やらないわよ」
そして次に私は、何を思ってか私に鶏の香草焼きっぽい料理を同じように差し出してきたナツメを振り返った。
確かにそれ、今回の料理の中で一番好きだなとは思いましたけどね?
しかし、こういった状況になれば当然、ルーセンだけが微妙な顔になる。
「僕にはわかる。ナツメのはわざとだ、僕への当てつけだ」
「ルーセンさんはルシスなので、世界が愛に溢れることは望ましいですよね」
「間違いじゃないのが逆に腹立つ!」
「そこで間違いじゃないと言えてしまうルーセンは、良い神様よね」
私は言いながら、ルーセンの代わりに仕返しの意味も兼ねてナツメの鶏の香草焼き(仮)の皿ごと奪ってやった。
つもりが、嬉しそうにされたあたり、どうやら仕返しにはならなかったらしい。
「ナツメは……良い男よね」
言葉通りでも皮肉の意味でも、良い男。そして――私個人にとっても。
元の世界に戻るときにナツメを忘れてしまうのは、案外好都合なのかもしれない。
「貴方以上に出来た男なんて、きっと何処を探してもいないわ」
だから、貴方を忘れないと私は誰も選べない。
そんな言ってはいけない言葉が零れないように、私は彼から奪った料理で口を塞いだ。
相変わらず気まずいままでも、カサハは美生を部屋まで送ってくれて。そこで彼女は、帰ろうとした彼の腕を引っ張って一緒に部屋に入る。
いざ告白しようとして言葉に詰まった美生は、花瓶に飾られたマトリの花を見つけて。そして気持ちを花言葉『あなたを私で染め変える』に乗せて、カサハに贈るのだ。
『私、あなたを忘れたくない。だから私を帰せなくなるくらい、あなたが私を好きになって下さい! 私は、カサハさんが好きだから!』
(でも美生はその言葉をまんまの意味でしか捉えてなかったのよね……さすがヒロイン、純真だわ)
対して純真でないカサハは花言葉を人から(そういえばロイくんと判明した)聞いた際に、ちゃんとその裏にある意味に気付いて、そちらも教えてもらっていた。
『あなたを私で染め変える』は心をという意味もあるにはあるが、一般的に広まっているのはその裏の方の意味……ベッドへお誘い文句なのだということを。
私はというと……勿論、カサハ同様純真ではなかった。美生が最初に花言葉を教えてもらった場面で既に、裏の意味で取っていた。
(大人だものね……私たち)
そっちに発想が行ってしまう思考、わかる。
けれどその後は、さすが攻略対象キャラというところか。美生にそれを伝えた上で、カサハは「いつかの約束として、俺はそれを受け取っていいだろうか?」と彼女に返す。
(美生と両想いじゃなければ事案だわよ……)
まああの可愛い美生にあれほど真っ直ぐ好意を向けられたなら、理性が少々プチッと行ってしまう気持ちもわかる。
シナリオ通りなら、そもそも美生がセネリアとわかった時点で、カサハのセネリアへの憎しみは消えている。彼が美生を避けていたのは、自分の失言に対する後悔からの行動になる。カサハはセンシルカでそうとは知らず美生本人に、「自分はセネリアを躊躇いなく殺すだろう」と言ってしまっていたはずだから。
カサハはそんな自分に美生が変わらず好意を向けてくれるとは思っておらず。美生は美生で、昨日聞いた通り避けられている理由について自分がセネリアだからと思っていて。
そんな状況を、美生は愛の告白で打破。
そしてカサハの実情を知った彼女は、彼に答える。
『殺されてもいいくらい好きだから、いいんです』
ヒロインだわ。美生、めっちゃヒロインだわ。カサハの返しじゃないけど、「そんなお前だから俺は、殺せないくらい好きになってしまった」ってなるわ。わかるわ。
マトリの花を受け取ったカサハがその場で美生を襲わなかったのは、偏にアダルト作品でなかったからであろう。『彩生世界』がそっち系であれば確実に、カサハの「もう返さない。花も、お前も」の台詞の後はR指定展開(ただし約束は『いつか』であるため寸止め)だったに違いない。
(やりかねないわ……このムッツリなら)
私はそんな眼差しで、美生が「はい、あーん」的に差し出したハンバーグ(仮)を食べていたカサハを見遣った。
「……私は、やらないわよ」
そして次に私は、何を思ってか私に鶏の香草焼きっぽい料理を同じように差し出してきたナツメを振り返った。
確かにそれ、今回の料理の中で一番好きだなとは思いましたけどね?
しかし、こういった状況になれば当然、ルーセンだけが微妙な顔になる。
「僕にはわかる。ナツメのはわざとだ、僕への当てつけだ」
「ルーセンさんはルシスなので、世界が愛に溢れることは望ましいですよね」
「間違いじゃないのが逆に腹立つ!」
「そこで間違いじゃないと言えてしまうルーセンは、良い神様よね」
私は言いながら、ルーセンの代わりに仕返しの意味も兼ねてナツメの鶏の香草焼き(仮)の皿ごと奪ってやった。
つもりが、嬉しそうにされたあたり、どうやら仕返しにはならなかったらしい。
「ナツメは……良い男よね」
言葉通りでも皮肉の意味でも、良い男。そして――私個人にとっても。
元の世界に戻るときにナツメを忘れてしまうのは、案外好都合なのかもしれない。
「貴方以上に出来た男なんて、きっと何処を探してもいないわ」
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