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第四章 意味と願いと選択と
『物語』が終わるときには -ナツメ視点-(2)
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(ルーセンさんもアヤコさんが好きでしょうに)
アヤコさんは最初から、ルーセンさんに対して友人に取るような態度だった。彼女が当初は夢だと思っていたせいもあるが、そうでないとわかった後もそれは変わらなかった。
それがどんなに嬉しいことか、俺にはルーセンさんの気持ちがわかる。俺も同じであったから。
本当の自分を知っていて、それなのに特別扱いをしない。言葉と心が、何のフィルターもなくそのまま伝えられる。そんな相手をどんなに渇望していたか。
けれどアヤコさんは露程も、ルーセンさんの気持ちに気付いていないようだった。根底にあるのはやはり、彼女にとってここが『ミウさんの物語』という考えだろう。
ミウさんがカサハさんと恋仲になった――それは単なる事実を超え、彼女の中では『ルーセンさんは恋に落ちない』という結論に至ったように思える。
そしてそういった線引きは、俺に対しても感じられた。
アヤコさんに俺の好意は伝わっていて、俺も彼女に好かれていると確信している。それなのに、彼女との間にある見えない壁が未だに無くならない。
見えない壁の向こうから俺を見ているアヤコさんが、わかるのに。目の前の彼女に、どうすれば触れられるのかがわからない。
俺はアヤコさんの手から、再び彼女の寝顔へと目を移した。
「何故……」
つい、声が零れてしまった。幸い、深く眠った彼女が目覚める気配はない。
「何故、こんな小さなことさえ素直に甘えてくれないんです?」
それを口実に、あるいは本当は聞いて欲しかったからなのか。続く言葉も声となって彼女に向かうのを、止められなかった。
偶然を装ったつもりか、微かに触れていた小指を俺から絡めてやる。目を覚ましたとき、貴女は俺がそうしたと思うだろうか。それとも……自分が無意識にしてしまったと思うだろうか。
「ルシス再生計画が成ったなら――貴女が物語から解放されたなら、貴女は俺たちではなく、貴女自身を見て下さい。そうしたら、きっと気付くはずです」
アヤコさんの首筋に目を遣る。俺が付けた痕がある……その箇所に。
上体をゆっくりと起こし、その痕のすぐ側――彼女の耳元に口を寄せる。
「アヤコさん、貴女は俺のことが好きですよ」
囁いて。
そして俺は、できるだけ長く残るよう願いながら痕にそっと口付けた。
「貴女自身が思っているよりずっと、貴女は俺のことが好きなんです――アヤコさん」
アヤコさんは最初から、ルーセンさんに対して友人に取るような態度だった。彼女が当初は夢だと思っていたせいもあるが、そうでないとわかった後もそれは変わらなかった。
それがどんなに嬉しいことか、俺にはルーセンさんの気持ちがわかる。俺も同じであったから。
本当の自分を知っていて、それなのに特別扱いをしない。言葉と心が、何のフィルターもなくそのまま伝えられる。そんな相手をどんなに渇望していたか。
けれどアヤコさんは露程も、ルーセンさんの気持ちに気付いていないようだった。根底にあるのはやはり、彼女にとってここが『ミウさんの物語』という考えだろう。
ミウさんがカサハさんと恋仲になった――それは単なる事実を超え、彼女の中では『ルーセンさんは恋に落ちない』という結論に至ったように思える。
そしてそういった線引きは、俺に対しても感じられた。
アヤコさんに俺の好意は伝わっていて、俺も彼女に好かれていると確信している。それなのに、彼女との間にある見えない壁が未だに無くならない。
見えない壁の向こうから俺を見ているアヤコさんが、わかるのに。目の前の彼女に、どうすれば触れられるのかがわからない。
俺はアヤコさんの手から、再び彼女の寝顔へと目を移した。
「何故……」
つい、声が零れてしまった。幸い、深く眠った彼女が目覚める気配はない。
「何故、こんな小さなことさえ素直に甘えてくれないんです?」
それを口実に、あるいは本当は聞いて欲しかったからなのか。続く言葉も声となって彼女に向かうのを、止められなかった。
偶然を装ったつもりか、微かに触れていた小指を俺から絡めてやる。目を覚ましたとき、貴女は俺がそうしたと思うだろうか。それとも……自分が無意識にしてしまったと思うだろうか。
「ルシス再生計画が成ったなら――貴女が物語から解放されたなら、貴女は俺たちではなく、貴女自身を見て下さい。そうしたら、きっと気付くはずです」
アヤコさんの首筋に目を遣る。俺が付けた痕がある……その箇所に。
上体をゆっくりと起こし、その痕のすぐ側――彼女の耳元に口を寄せる。
「アヤコさん、貴女は俺のことが好きですよ」
囁いて。
そして俺は、できるだけ長く残るよう願いながら痕にそっと口付けた。
「貴女自身が思っているよりずっと、貴女は俺のことが好きなんです――アヤコさん」
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