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第四章 意味と願いと選択と
意味(4)
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「ミウ」
カサハでない手が、声とともに美生の肩に置かれる。
自分の横にしゃがみ込んだルーセンに、美生が顔を上げる。
「助けてくれて、ありがとう。――言いそびれていたから、僕は言えて嬉しい」
美生が驚いた表情でルーセンを見て、それから彼女はセネリアとよく似た柔らかな微笑みを彼に向けた。
「それから、ごめん。『ルシス再生計画』でマナを流したらきっと、君がルシスで過ごした記憶が無くなる」
「わかっています。だからセネリアは『世界の記憶』を二つ用意したわけですから」
「ミウは俺たちのことを忘れる……のか?」
独りごちるように、カサハが言う。
それから彼は一度視線を落とし、次いで立ち上がった。
「そう、か。――ああでも、セネリアが体験した悲しい記憶も忘れるのなら……お前にとっていいのかもしれない」
目を合わせずに言ったカサハに、彼を見上げた美生が悲しげに瞳を揺らす。
そんな美生の視線から逃れるように、カサハは彼女に背を向けた。
「俺は周辺を見てくる。ミウが落ち着いたら玉の捜索に移ってくれ」
カサハは一歩二歩と躊躇いを見せながら歩き、その後は普段と変わらない速度でその場を離れていった。
(美生……)
私は、美生と並んで地面に座った。掛ける言葉は見つからなくて、ただ彼女の左手にそっと自分の手を重ねる。
美生のこの手は色んなものを手放してきた。だから例えその内の一つだけでも離さないで済む道があるのなら、私はそれを彼女にあげたい。
「彩子さん……」
私の手に、美生が自身の右手をさらに重ねてくる。
「色々驚きましたけど、私はもう平気です。最後の玉を探しましょう!」
それから彼女は明るくそう言って、立ち上がった。
「これで……」
程なくして玉が見つかり、美生は迷いを振り切るかのように勢いよくそれに触れた。
美生たちは、ルシスの果てが現れると思っていたのだろう。彩生されたのが大地であったことに、皆が驚く様子を見せる。
しかし、その驚きに含まれていたであろう希望はすぐに打ち砕かれた。幾つかの自然物と建物だけが残り、住人は消えた村がそこに現れる。それがレテの住人以外の記憶で再形成される限界なのだと、残酷な現実は告げていた。
「イスミナは街の管理者が多く神殿へ避難していましたし、センシルカは逆に消えたのが顔の知れた人ばかりでした。それに対しレテの村は、俺もそうでしたが大体の国民はガラム地方に村があるということは知っていても、実物は見たことが無かったでしょうね」
やり切れないと言った口調で、ナツメは村に向けていた目を外した。
「カサハさんも再生に気付いて、こちらに戻ってくるでしょう。ところで、ルーセンさん。貴方、ルシスだそうですね?」
「うっ……うん、まあ、一応」
唐突に話を振られ、まだ村を見ていたルーセンの肩が跳ねる。
ルーセンがナツメを見て、しかし一秒経たずにその目は不自然に逸らされた。
「僕のようなのが神でがっかりした?」
「そうですね、残念です」
「ちょっ」
即答したナツメに、さすがにルーセンから抗議の声が上がる。だがルーセンの顔には「ああ、やっぱり」といった諦めの色も見られた。
「ルーセンさんがルシスだったなら、神の子と呼ばれて理不尽な目に遭ってきた俺は、とんだとばっちりだったということが判明しましたからね。ルシスのせいでなく、単に俺自身が不運だったなんて、本当残念ですよ」
「……へ?」
想定外の切り返しに、ルーセンがぽかんとしてナツメを見る。
「いえ、ここは逆に親を騙った貴方に、俺の平穏な田舎生活を返してもらうところでしょうか。『ルシス再生計画』を為すまで、キリキリ働いてもらいますよ」
台詞とは裏腹に、ナツメのルーセンを見る目は優しい。
ルーセンがくしゃっとした笑い方をして、次いで彼はナツメに「わかっているよ」と返事をした。
カサハでない手が、声とともに美生の肩に置かれる。
自分の横にしゃがみ込んだルーセンに、美生が顔を上げる。
「助けてくれて、ありがとう。――言いそびれていたから、僕は言えて嬉しい」
美生が驚いた表情でルーセンを見て、それから彼女はセネリアとよく似た柔らかな微笑みを彼に向けた。
「それから、ごめん。『ルシス再生計画』でマナを流したらきっと、君がルシスで過ごした記憶が無くなる」
「わかっています。だからセネリアは『世界の記憶』を二つ用意したわけですから」
「ミウは俺たちのことを忘れる……のか?」
独りごちるように、カサハが言う。
それから彼は一度視線を落とし、次いで立ち上がった。
「そう、か。――ああでも、セネリアが体験した悲しい記憶も忘れるのなら……お前にとっていいのかもしれない」
目を合わせずに言ったカサハに、彼を見上げた美生が悲しげに瞳を揺らす。
そんな美生の視線から逃れるように、カサハは彼女に背を向けた。
「俺は周辺を見てくる。ミウが落ち着いたら玉の捜索に移ってくれ」
カサハは一歩二歩と躊躇いを見せながら歩き、その後は普段と変わらない速度でその場を離れていった。
(美生……)
私は、美生と並んで地面に座った。掛ける言葉は見つからなくて、ただ彼女の左手にそっと自分の手を重ねる。
美生のこの手は色んなものを手放してきた。だから例えその内の一つだけでも離さないで済む道があるのなら、私はそれを彼女にあげたい。
「彩子さん……」
私の手に、美生が自身の右手をさらに重ねてくる。
「色々驚きましたけど、私はもう平気です。最後の玉を探しましょう!」
それから彼女は明るくそう言って、立ち上がった。
「これで……」
程なくして玉が見つかり、美生は迷いを振り切るかのように勢いよくそれに触れた。
美生たちは、ルシスの果てが現れると思っていたのだろう。彩生されたのが大地であったことに、皆が驚く様子を見せる。
しかし、その驚きに含まれていたであろう希望はすぐに打ち砕かれた。幾つかの自然物と建物だけが残り、住人は消えた村がそこに現れる。それがレテの住人以外の記憶で再形成される限界なのだと、残酷な現実は告げていた。
「イスミナは街の管理者が多く神殿へ避難していましたし、センシルカは逆に消えたのが顔の知れた人ばかりでした。それに対しレテの村は、俺もそうでしたが大体の国民はガラム地方に村があるということは知っていても、実物は見たことが無かったでしょうね」
やり切れないと言った口調で、ナツメは村に向けていた目を外した。
「カサハさんも再生に気付いて、こちらに戻ってくるでしょう。ところで、ルーセンさん。貴方、ルシスだそうですね?」
「うっ……うん、まあ、一応」
唐突に話を振られ、まだ村を見ていたルーセンの肩が跳ねる。
ルーセンがナツメを見て、しかし一秒経たずにその目は不自然に逸らされた。
「僕のようなのが神でがっかりした?」
「そうですね、残念です」
「ちょっ」
即答したナツメに、さすがにルーセンから抗議の声が上がる。だがルーセンの顔には「ああ、やっぱり」といった諦めの色も見られた。
「ルーセンさんがルシスだったなら、神の子と呼ばれて理不尽な目に遭ってきた俺は、とんだとばっちりだったということが判明しましたからね。ルシスのせいでなく、単に俺自身が不運だったなんて、本当残念ですよ」
「……へ?」
想定外の切り返しに、ルーセンがぽかんとしてナツメを見る。
「いえ、ここは逆に親を騙った貴方に、俺の平穏な田舎生活を返してもらうところでしょうか。『ルシス再生計画』を為すまで、キリキリ働いてもらいますよ」
台詞とは裏腹に、ナツメのルーセンを見る目は優しい。
ルーセンがくしゃっとした笑い方をして、次いで彼はナツメに「わかっているよ」と返事をした。
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